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お父様、お母様とも相談した結果、商会の事務所兼店舗を屋敷とは別の場所に作ることにした。
今後また昨日のようなことになると伯爵家の警備上の問題もあるし、それよりもまず、家なのに心が安らがないのが大問題だ。
場所は王都のなかでも貴族向けの高級な店がたちならぶ目抜き通りの一角で、一階に店舗、二階に事務所をおける大きめの建物だ。
このような一等地の物件をすぐに確保できるなんて、やはり伯爵家ともなるとなかなかすごいんだなぁと改めて思った。
エドなんて、建物をみて目をひんむいて驚いていた。
店舗のショーウィンドウにはひととおり見本品を並べたが、ハイヒールは貴族向けのオーダーメイド商品であるため、個室の商談スペースもこだわった。
個室スペースは、女性が好みそうなフェミニンかつラグジュアリーな空間にした。ここでの商談時にハーブティーをお出しして、ハーブティーの認知度も上げていく作戦だ。
「個室スペースの絨毯は……そうね、こちらのフカフカで沈み込むようなものにしてちょうだい」
「お嬢様、よろしいのですか?こんなに毛足が深いとヒールがとられて歩きにくいように思われますが……」
普段からハイヒールの試作品を履いてもらっているシシィは、歩きづらそうにその場で足踏みする。
「フッフッフッ……この部屋では、スリッパに履き替えていただくのよ!室内履き専用のスリッパを!」
スリッパの販売促進と、室内履き推進プロジェクトだ!
足のサイズをはかったりなど脱ぎ履きしやすいのも利点だろう。
まさに一石二鳥にも三鳥にもなる作戦!!
「おーほほほ!私ったら天才かもしれないわっ」
私はレミーエ様直伝の高笑いを披露した。
商会の代表はエドにお願いした。子供である私が務めるよりも、そのほうが舐められずにすんでずっとスムーズにコトが運ぶしね。
そしてエドは自分の靴工房を弟子に任せ、シグノーラの経営に専念してくれることとなった。エドの工房はシグノーラの専属になり、ハイヒールなどの商品の製作を一手に引き受けることになる。他の注文もあったろうに申し訳ないといったのだが、最近はシグノーラの注文ばかりだったので問題ないそうだ。
経理や接客に携わる人材はお父様が見つけてきてくれる予定だ。
「さて、シグノーラ開店記念の新商品の開発会議を行いたいと思います。えー、改めまして、アドバイザーを務めさせて頂く、コゼット・エーデルワイスでございます。皆様のおかげでここまでやってくる事が出来ました。えー、思えば長い道のりでしたが、あっという間だったような気もいたします……」
「お嬢様、今度はなに設定ですか、ていうかアドバイザーってなんですか」
「シシィ、発言がある時は手をあげるように。相談役みたいなものよ。こういうのは雰囲気が肝心なのよ。」
「アドバイザー、新商品の構想などはあるのでしょうか」
エドがおずおずと挙手して発言した。
「フッフッフッ……次の新商品は、春夏物のサンダルを作りたいと思います!」
「「サンダル???」」
この世界には当然ながらサンダルは存在しない。
ハイヒールもいいが、夏はサンダルを履きたい。
こうこうこういうのがサンダルで〜と説明していると、シシィが眉根を寄せて難色をしめした。
「お嬢様、サンダルというのは、足のつま先を出す履物なのですか?」
「そうね、これらのデザインでもつま先は出ているものが多いわね。つま先が出ているほうが蒸れなくて涼しいしね」
「いけません!淑女がつま先を出すなど……はしたない!」
「えっ」
みるとエドも困ったような顔をしている。
そういえば、こちらの世界でつま先を出す履物は見た事がない。というかほとんどがブーツで、庶民は木靴を履いており、貴族において足を出しているものは見た事がない。スリッパは必然的にかかとが出ているが、それくらいだ。
「つま先は出しちゃいけないものなの?」
「ええ!」
「はしたないの?」
「ええ!」
うーん……暑いのに……残念。
「それじゃあ、こういうのはどうかしら……」
私はササっとイメージ画を描いた。
足先だけを隠して、足首にはストラップを巻いて後ろを大きめのリボンで結ぶデザイン。
ギリギリまで足の甲を出して涼しさキープだ。
「夜会用はリボンをシルクかサテンにして、お茶会用はチュールレースやオーガンジーのリボンにすると夏らしいですわね!」
「靴本体の強度が弱いためなめし皮を使いましょう、ヒールは……」
その日は三人で新商品の構想を細部まで練った。
会議の結果、シグノーラの春夏物の新商品は
アンクルリボンのハイヒール、麻で作った室内履きスリッパになった。
「そして…………きました!ダイエット商品、第三弾!!!
今回ご案内する商品はこちら!!
トレーーーニングチューーーブーーーー!!!
ダイエットスリッパ、バランスシューズと履きこなしてきた皆さんは、あら、そろそろ上半身のほうも気になるわ、とお悩みのことでしょう!
そこで取り入れたいのがこの商品!!
こちらはゴムで出来ておりまして、エクササイズに取り入れることで、より効率的に体を鍛えて頂けます!
たとえばほら、見てください。
このように両手にチューブを持って左右に引っ張るだけで……なんと二の腕から腕全体をトレーニングできてしまうんですね!
それではアシスタントのシシィさんに実際に使ってみてもらいましょう!」
「え?は、はい。 う、うぐぐぐ、これはなかなか力がいりますね。腕全体が鍛えられている感じがします」
「そうなんです!普段鍛えにくい部分も鍛えることが出来るんですね〜今回は三種類の強さのチューブをご用意致しました!……」
……ということで、シグノーラのダイエット部門の新商品はトレーニングチューブに決定した。チューブの使用方法とエクササイズ教本をセットにして販売する予定である。
商品も決まったし、開店が楽しみだーー!!!
100万PV達成を感謝して、小話をかけたらと思っています。
もしリクエストなどありましたら活動報告のほうにコメントしてください。
リクエストの中から選んで書かせて頂こうと思っております。




