閑話:レミーエ様のいちにち
「お嬢様、朝でございます」
ぴーちちち
侍女がカーテンをシャッとあけ、爽やかな朝陽が部屋に差し込んでくる。
窓の外から聞こえてくる鳥のさえずりが心地いい。
私はベッドで伸びをすると、ストレッチを始めた。
このストレッチというものはコゼットに教えてもらったのだが、これを毎日やることで体がしなやかになるそうだ。
「おいっちにーおいっちにー」
コゼットに教えてもらった掛け声はリズムがよくて、これをいいながらストレッチするとなんだか気持ちがいい。
「……」
最初はこのストレッチをする私を変な目で見ていた侍女達も、最近は慣れてきたのか動じなくなった。
ストレッチを終えるとスリッパを履いた。
コゼットによればスリッパは室内で履いてこそ真価を発揮するそうだ。これを日中などに履き続けることでダイエット効果と美脚効果があるらしい。
最近ダイエットに大成功した彼女の言うことなので、せっかくのスリッパをお茶会などに履いていけないのは残念だが、素直に従うことにした。
そのかわりに室外用にハイヒールとバランスシューズをお父様にお願いした。
うふふ!楽しみだわ!
「髪を整えてちょうだい」
鏡台に腰掛けて侍女に命じる。しかし鏡の中の私の髪は、すでに見事な縦巻きロールになっている。
侍女はブラシで私の髪をぐいぐい伸ばすのだが、伸ばしても伸ばしてもびよよーんと戻っていく。
侍女は髪全体にブラシをいれて、軽く香油を垂らしてハーフアップにしてリボンを結んだ。
実は私の髪は頑固なくせっ毛で、伸ばしても伸ばしても伸ばしても縦巻きロールにしかならない。
たまにはさらさらストレートとか他の髪型もしてみたいのに、どれだけ頑張ってコテで伸ばしても、濡らしても温めても縦巻きロール。
なぜか私の髪は縦巻きロールにしかなる気がないらしい。
お父様もお母様も、縦巻きロールじゃないのに、なぜ……
最近は諦めて、縦巻きロールの色ツヤやアレンジ、美しさに力をいれることにしている。
縦巻きロール道を極めるのだ。
今日はジュリアたちを招いて小さなお茶会をする予定なので、茶会用のドレスを選んだ。
「お嬢様、今日もお美しくていらっしゃいます」
侍女が満足気な表情で私を褒め称える。
「当然よ!前から見ても?」
「お美しいです!」
「後ろから見ても?」
「お美しいです!」
「横から見ても?」
「お美しいです!」
「ふっ……自分の美しさが怖いわ……おーほほほほほ!」
高笑いを決めて気合をいれると、私は颯爽と部屋を後にした。
「ジュリア!姿勢がなってないわ!もっと背中を伸ばして美しく!腰から曲げて胸を反らしなさい!」
「はい!レミーエ様!」
「エミリア!手の角度が美しくない!指の先まで神経を使うのよ!」
「はい!レミーエ様!」
「マリエッタ!もっと腹筋に力をいれなさい!普段のトレーニングが足りていないのではなくって?」
「はい!レミーエ様!」
私は鏡の前に立つと、三人に厳しい指導を施す。
まったく、普段から練習しておくようにいったのにこの体たらく。もっと厳しくしないといけないわね!
「お手本を見せてあげるわ!おーほほほほほほ!さぁ、全員で!」
「おーほほほほほほ!」
「「「おーほほほほほ!」」」
公爵家に高笑いが響き渡る。
さらなる美しい高笑いを目指して、令嬢たちは今日も練習を頑張るのだった。




