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「アナタ!あたくしの言っていることがわかっていて?!早くここから立ち去りなさい!」
豪奢な金髪を見事な縦ロールに巻いた、年の割に背の高い少女が、腰に手を当てた凛々しいポーズで仁王立ちしている。
声を張り上げながら指差す先には、おそらくピンクの髪をふわふわさせた、可憐な少女が座り込んでいる。
なぜおそらくなのかというと、私にはこの金髪縦ロール……もとい、公爵令嬢レミーエ様の後ろ姿しかみえないからだ。
私こと、伯爵令嬢コゼットは、レミーエ様の取り巻きの中でも下っ端の方で、彼女の取り巻き筆頭の三人の令嬢の後ろが定位置である。
このお三方はそれぞれ侯爵令嬢ジュリア様、伯爵令嬢エミリア様、子爵令嬢マリエッタ様とおっしゃって、レミーエ様を筆頭に悪役令嬢の第一の配下三人衆とでもいえる立場なのである。
髪の色はそれぞれ赤、青、黄色と信号機のようなわかりやすさで、あとはピンクと緑さえ加わればナントカ戦隊が完成するのに……と残念で仕方がない。
ハッ!この、さっきからレミーエ様の前でカタカタ小動物のように震えている美少女を加えれば……
レミーエ様とその取り巻き三人衆の背後から少し位置をずらして様子見しながら物思いにふけっていると、いきなり腕を引っ掴まれた。
「ちょっと!コゼットもなにか言ってやりなさいよ!ここは貴女の花畑でしょう?!」
「へ、あ、は……」
突然レミーエ様に前に押し出された私は、目を白黒させながらうずくまるピンク色の少女と対峙した。
そう、ここは私の花畑なのである。
伯爵令嬢にもかかわらず園芸が趣味の私は、伯爵であるお父様にお願いして自分専用の花畑を作っていたのだ。
5歳からコツコツと育てた花畑は、庭師のボブじいさんの助力の甲斐あって、10歳のいまではいっぱしの庭園といえるまでになっていた。
今日は、自慢の庭園をお披露目するためのお茶会を開いていたのだ。
伯爵令嬢である私のお茶会には、なんと同い年である王太子様までいらしている。
招待状を頑張って書いた甲斐があった……と、またしても自分の世界に浸っていると、レミーエ様の苛立った声が爆発した。
「ちょっと!コゼット!聞いてるの!自分の世界に入らないでちょうだい!」
ハッ!危ない危ない!
私にはこうして考え事をすると、ぼーっとしてしまうクセがあるのだ。いかんいかん。
私はあらためて目の前の少女をまじまじと見つめた。
ふわふわのピンク色の髪におおわれた顔は思った通り可憐だが、空色の瞳は意外なことに挑戦的にギラギラと光っていた。
彼女の足元にはたくさんの白い花が落ちており、その可憐な容姿をさらに引き立てていた。
レミーエ様に責められて震えていると思ったのだが、どうやら彼女は思った以上に肝が据わっているようだ。
「コゼット?ふーん、アンタ、コゼットっていうんだ。ゲームじゃ名前も出てこなかったから、知らなかったわ」
ポロリと口からすべり出た言葉を耳にして、私は驚愕に目を見開いた。
「あなたは……誰?」
私がようやく口にできたのは、そんな言葉だけだった。