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 今日は春の訪れを祝う、王太子殿下主催のお茶会だ。

 このお茶会を皮切りに、様々な名目で貴族の子息たちのお茶会が開催されていく。

 大人達でいう社交シーズンの到来のようなものだ。


 王太子殿下主催ということで、このお茶会は王宮のガーデンテラスで行われる。

 会場にはすでに色とりどりの衣装に身を包んだ令息、令嬢達が集まっていた。


 いつもは憂鬱なお茶会だが、ダイエットの成果をみせられるとあってワクワクしていた。

 今日の装いは、若草色のオーガンジーのドレスに白とエメラルドグリーンのレースとリボンをあしらったもので、爽やかな新芽をイメージしてみた。

 足元はドレスと同色のハイヒール。絹の光沢が美しい。


 風にひらひらと舞うスカートが嬉しくてにまにましていると、見覚えのある人物が近づいてきた。


 公爵令嬢レミーエ様とその取り巻きの信号機令嬢だ。


「貴女……見ない顔ね。どちらの家の方かしら?ちゃんと招待状は持っていらっしゃるのかしら」


 レミーエ様が相変わらず豪快な……豪奢な縦ロールをひるがえして私をねめつける。

 信号機令嬢たちも何故か同じポーズをとっている。

 ちなみに足元は全員スリッパだ。

 さすが流行に敏感なレミーエ様。


 いつも思うけどあの縦ロールはすごいなぁ。どうやって巻いてるのかな……


「聞いてるの!ボーッとして、まるでコゼットみたいね!コゼットも見つからないし、まったく困ったものだわ。あの巨体が見つからないなんておかしな話ね!オーホホホ」


 レミーエ様が上体を反らして見事な高笑いを放つ。

 信号機令嬢たちも揃って上体反らしした。

 なんて見事なシンクロ率。

 練習したのだろうか。あの揃い方は一朝一夕にできるものではない。

 そして、見事な、悪役感……これがゲーム補正というものか。

 あの三人の後ろが私の定位置だった。

 私も同じポーズをとるべきだろうか。

 出来るかな…………不安だ。

 私にもゲーム補正って働くのかしら。


 少し体を反らしてみる。

 うぅ……け、結構、腹筋に、負荷が……


「あら、貴女なかなか筋がいいわね。そうよ、そのまま腰から後ろに反るような感じで……」


 レミーエ様が指導して下さる。この方、結構面倒見がいいんだよね。私を探してくれていたみたいだし。


「ってそうじゃないわよ!貴女は誰なのって聞いてるのよ!」


 添えられていたレミーエ様の手が放され、思わずふらついてしまった。


「あ、あら、ごめんなさい。ケガはなくって?」


 …………優しい…………


「大丈夫ですわ、レミーエ様。私、コゼットですわ。ご挨拶が遅れて申し訳ございません」


「コゼット?!まぁ、なんということでしょう!!」


 レミーエ様と信号機令嬢が揃って目を丸くする。


「ええ、少しダイエットしましたの。体が軽くなりましたわ」

「素晴らしいわ!まるで別人よ!膝の痛みは大丈夫なの?」


 私の膝の心配までしてくれる。なんて優しい方なんだろう。


「大丈夫ですわ。ありがとうございます」


「そういえば……貴女の庭園でのお茶会に侵入した少女を覚えていて?」


 嬉しくてニコニコしていると、レミーエ様が急に声をひそめた。


「ええ、確か、アンジェといいましたかしら?私ったら驚いて倒れてしまい、申し訳ありませんでした」


「それはいいのよ。誰だって驚くわ。それであの方……あのあと、時々王宮で見かけるのよ。しかも、王太子殿下の周りをウロチョロと。おかしいと思わない?例え王太子殿下のお気に入りだとしても、いち庶民が王宮への出入りを許可されるなんて」


 それは確かにおかしな話だ。

 そもそも、迷い込んだとはいえ、私の……伯爵家の私有地に侵入しておいてなんの罪にも問われていないということがなによりおかしい。

 まして王太子殿下もいらっしゃったのだ。警備は厳重であったはずだし、何故子供が侵入できたのか。


 あの時は蘇った記憶で混乱していたし、ゲームのプロローグイベントだと思って気にも留めなかったが、考えてみればおかしなことだらけだ。


 私が倒れた後、お茶会を取り仕切って下さったのは、お母様……そして警備の担当は誰だったのか……思い出せない。

 お母様なら、知っていらっしゃるだろうか。


「それは、不思議な話ですわね。あれから王宮にお邪魔する機会のなかった私は存じ上げませんでしたが……」


 困ったように微笑みながら首をかしげた。

 ここでこの話を大きくするわけにはいかない。王太子殿下のいらっしゃるお茶会での不備は、我が伯爵家の致命的な失態ともなるからだ。


 私はごまかすように微笑んで、話を変えることにした。


「そういえば皆さま、この靴をご覧になって下さいませ。シグノーラの新作ですのよ」


 ドレスの裾を少し持ち上げ、ハイヒールを見せた。

 途端に令嬢方は目を輝かせて私の自慢の靴に釘付けになった。


「んまぁ!素晴らしい!スリッパで有名なシグノーラの新作ですって!?噂には聞いていたのですが、人気がありすぎて手に入りませんでしたの。お母様は手にされていたのですが、私たちのサイズはまだ展開されていないと……」


 レミーエ様の声が尻すぼみになって、私の靴を羨ましそうに見つめる。

 信号機令嬢たちも口々に褒めたたえてくれたが、最後は残念そうな、羨ましそうな表情で口をつぐんだ。


「実は、シグノーラは我が伯爵家が作ったシューズブランドですの。だから特別に作らせたのですわ。もしご所望でしたら、皆様の分も……」


「まああああ!素晴らしい!!!是非とも宜しくお願いしたいですわ!詳しいお話を聞かせてくださいませんこと?!」


 鼻息の荒い令嬢たちと靴の話をしていたら、会場がざわめきだした。

 どうやら王太子殿下が登場されたようだ。


「皆さま、王太子殿下がいらっしゃったようですわ。お話は後ほど詳しく……」


 ほどなく……お茶会の開始を告げるオーケストラが響きだした。



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なんか、悪役ドリル令嬢は、思っていたよりも、かなり良い子ではありませんか?
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