クリスマスSS 後編
誤字修正致しました。
「ふっふっふ!皆さん、ケーキを作るときに、困ったことはありませんか?!いえいえみなまで言わなくて結構」
そこで大きく息を吐いて溜めを作り、握りしめていた泡だて器を頭上高く振り上げる。
息を呑むような静寂に包まれた厨房に、ゴクリと誰かの唾を飲み込む音が響いたーー
「そう……誰もが腕のつる思いをした経験があるに違いありません。そう、メレンゲと生クリームの泡だてという鬼畜の工程……!」
メレンゲを最初に作ったのは、一体どこの誰なんだろう。よくもまあ、わざわざ卵白と卵黄をわけて、卵白だけをこれでもかと撹拌しようなんて考えたものだ。
私だったら絶対に思いつかない。というか、ケーキのふわふわのためには必要だと知っていてすらやりたくない。
現代日本にはハンドミキサーという魔法の道具があるけれど、こちらの世界では本当の意味でハンドでミキサーしなければならないのだから……
「そこで私が自信を持ってオススメするニューアイテムが、これです!」
厳しい顔で腕を組む料理長の眼前に突きつけたのは、夢と希望の詰まったスペシャルアイテム!
「ぐーるーぐーるー泡だて器ー」
どーん!!
シシィとボブじいと共同開発したニューアイテムは、竹やら木やらを削ったり組み合わせたり竹ひごったりの試行錯誤の繰り返しの末に出来た苦労の結晶だ。
いくつかの大きさの違うぜんまいを噛み合わせ、持ち手についたレバーをぐるぐる回すと、先端についた泡だて器が高速回転する。
前世で見たことがある調理道具なのだが、ポンコツさにかけては自信のある私が詳しい構造など覚えているはずもなく、完成には沢山の紆余曲折があったことは言うまでもない。
しかし……自信満々にぐるぐる泡だて器を回転させる私を見る料理長の目は、静かな湖畔……じゃなかった、湖面のように冷静なままだ。
「……あれ?あんまり興味ない?」
こてんと首を傾げた私に、料理長は重々しいため息とともに口を開く。
「お嬢様は、料理の真髄というものを、わかっていらっしゃらない……」
「な……っ!料理長、なんてことを!」
「いいえ、いいのシシィ。料理長、聞かせてくれるかしら。料理の真髄というものを!」
コクリと息を飲み込み、料理長の真剣な瞳を見つめ返す。
「私とて、主婦歴ウン十年……朝食の時から夕飯のメニューを考えるくらいには、料理をしてきたわ。けれど、所詮はシロウト。プロの料理人として研鑽をつんできた料理長に敵うべくもないのよ……!」
「お嬢様……!?って、そもそもお嬢様の職業はお嬢様で、シュフとかいうものではない上に、いまだおん年十七歳です。」
「朝食時にすでに夕飯の事を……?!なんという食欲……!」
シシィや料理人たちが、ザワザワと騒ぎ出すが、張り詰めたように見つめ合う私たちの耳にはなにもはいらない。
厳しい顔つきのまま、料理長はゆっくりと口を開く……!
「料理は、筋肉だ……!」
……あれ?
「卵白を泡立てることこそ、至上の喜び!腕の筋肉が弾けるギリギリの感覚、生クリームを泡立てる氷のように厳しい冷たさ!その全てが神の与えたもうた試練なのである!」
「料理長……!」
「弾ける汗!躍動する筋肉!それが自然な塩味に……!」
「いやああああああ!」
図らずも、料理長の塩味の秘密を知ってしまった私は、気づけば料理長の逞ましい腹筋にジャンピングニーをきめていた。
思い返してみても、恐らく生涯最高のジャンピングニーだったと自負している。
クリスマスSSなのに、イケメン成分が皆無でした……




