クリスマスSS前編
その日、私は朝からせっせとパーティ会場の飾り付けに精を出していた。
だって今夜はクリスマス!……といっても、異世界にそんな風習はないから、私が勝手に決めたのだけれど。
季節は冬真っ盛り。新しい年が始まるひと月ほど前のこの日に決めたのは、新年のお祭り騒ぎと近すぎたら、せっかくのクリスマスがもったいないと思ったからなの。
前世でも、クリスマスがお正月と近すぎると思っていたのよね。
まあ、現代日本ではイベント化してしまっていたからそう感じるけれど、実際はどちらもその日付に意味があることはわかっている。
キラキラした街並みや、そこかしこから聞こえるクリスマスソングで子供の頃は楽しくて仕方なかったけど……親になってみると、ちょっとお財布に優しくなかったのを思い出す。
駆け抜けるように過ぎ去る忙しい師走と、どうしてか胸を締め付ける、年の終わりの切なさは嫌いじゃないのだけれど。
……とまあ、そういう訳で、どうせならあまりイベントのない十一月にずらしてみたの!
まあ、十一月というのも私が勝手に決めた暦上の概念なんだけどね。
細かいことを言い出すとキリがない。
気を取り直して、私は両手に抱えていた布地をバサリとテーブルに広げた。
緑色のテーブルクロスと交差するように、深みのある赤の布を配置する。…」
緑と赤、この二色だけで一気にクリスマスっぽくなるから不思議ね。
クロスの縁取りに、金糸でせっせと刺繍したものの……自慢じゃないが、刺繍が下手な私の作品だけあって、ミミズがのたくったようになっている。
まあ、なんとなくそれっぽい感じになっている気がするので、そういう飾りだと思えば問題ない。
「……お嬢様の刺繍は、相変わらず個性的ですね」
「でしょう?唐草模様っていうのよ」
「……今度、練習致しましょうね」
「ぐはっ」
新しい意匠だということにしようとしたが、シシィさんの目は誤魔化せなかった。
「直線縫いの腕ならなかなかだと思うんだけどなあ」
「あら、直線を繰り返す刺繍もございますよ、お嬢様」
「……ほら、私ってせっかちでしょう?縫いはじめから縫い終わりまで、まっすぐの方が合理的じゃない」
悔し紛れの言い分をこぼすと、シシィが呆れ返ったというようなため息をついた。
「苦手だからって、刺繍の存在意義まで否定しないでください」
「はーい……」
素敵な刺繍は見ているだけで楽しくなるから、好きなんだけどね……見てるだけならいいのに!
気を取り直して、料理長と相談して考えた今夜のご馳走に想いを馳せる。
てらてらと飴色に光を反射するチキンに、クリスマスケーキ。
季節柄、フレッシュフルーツは手に入らなかったけれど、大事に保存していた取って置きのドライフルーツに、たっぷりの砂糖に漬け込んだジャムをふんだんに使うの!
保存の効かない生クリームも、たっぷり用意する秘策があるし……ああ、なんて楽しみなのかしら!
明日、後半投稿予定です!皆さま、よいクリスマスをお過ごしください!




