第4章2
「……行こうぜ」
「……ゲオルグ」
ふいに聞こえた声に顔を開けると、ゲオルグが眉を下げてこちらを見つめていた。
どれだけ情けない顔をしていただろうか。
恥ずかしくなった私は、思わず視線を逸らした。
「……起きていたのね。なんだか情けないところを見られちゃったわね」
自嘲するようにそう呟いた私の手を、ゲオルグの大きな手が急に包み込んだ。
驚いて手を引こうとすると、さらにぎゅっと力を込められる。
ゲオルグの手は、乾いてカサカサしていた。剣術の稽古のためか、色んなところにタコができてかたい、日に焼けた大きな、優しい手。
子供の頃とは違う、大人みたいな手だった。
何故か吸い寄せられるようにその手に見入っていると、ゲオルグは、知らずうちにかたく握りこんでいた私のこぶしを、丁寧にひと指ずつ開いて行った。
……私の心まで、一緒にほどいていってくれているみたい。
ぼんやりとその様子に見入っていると、ゲオルグがポツリと呟いた。
「……味方だからな」
「え……?」
「俺は殿下やレミアスみたいに頭は良くない。でもお前が、なにかを隠しているってことくらい、俺にだってわかる」
「ゲオルグ!」
驚きに眼を見張る私の瞳を、ゲオルグの真剣な眼差しが貫いた。
その瞳をみれば、誤魔化しは通用しないということをありありと痛感させられ、私ははくはくと口を動かした。
強すぎる視線から逃げるように眼をそらし、再び顔をうつ向けてしまう。
「わ、私は……」
ゲオルグは、私の秘密を知っているっていうの?
いいえ、そんな訳ない。
だってゲームとして……そのキャラクターとしてみられていたなんて、簡単に許せることじゃないわ。誰かによって造られた世界かもしれないなんて、真剣に生きていればいるほど、踏みにじられるような思いをするに違いないのだから。
私自身はこの世界が現実だと……そうわかって……いいえ、そう考えているけれど、誰にでも受け入れられることじゃないわ。
目まぐるしく思考を回転させていると、ゲオルグの呆れたようなため息が聞こえてきた。
思わず伏せていた顔を上げると、ゲオルグは呆れ顔で微笑んでいた。
「おい、まーたなんか無駄なこと考えてないか?俺はお前の隠し事の中身なんか知らねえよ」
「じゃ、じゃあどうして……!」
味方だなんて言うのよ。
続けようとした言葉は、声に出すことができなかった。その言葉を口にしたら、ゲオルグがくれた言葉を、なくしてしまうような気がしたから。
「どうしてとかじゃねえよ。もう一度だけ言うぞ。俺は、お前の、味方だ」
「なんで……」
目の奥がツーンと痛くなって、視界が滲んでぼやける。
「お前が何を隠していようと、誰を好きだろうと。俺はずっとお前の友達で味方だ。だから大丈夫だ」
「ゲオルグ……ッ!」
どうしてか、初めてこの世界に受け入れられたような気がした。
同じ転生者であるアンジェと分かり合えた時とは違う、不思議な感覚だった。
包み込まれた手に涙がこぼれ落ちる。
私の嗚咽がおさまるまで、ゲオルグは黙って付き合ってくれていた。
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