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第4章1

城へと向かう馬車の車内は、重苦しい沈黙に包まれていた。

なんだろう、まるで飲み会で羽目を外しすぎた旦那と喧嘩した翌日の、朝食の席のような雰囲気である。

徐々に明るくなっていく窓の外も、雰囲気作りにひと役かっているというか、なんというか。


久しぶりに会えてとっても嬉しいし、ルメリカでの出来事とか、お話ししたいことがたくさんあったはずなのに……

頬杖をつき、眉をしかめて窓の外の景色を無言で眺めている殿下は、明らかに苛だたしげで話しかけづらい。


そんな嫌な空気の馬車の中、ゲオルグはといえば……うん、すごい安らかな寝顔。

ノンレム睡眠的なやつね。


殿下の隣に腰掛け、ふかふかのクッションの山に潜りこんだゲオルグはあっという間に寝落ちした。


馬車に乗り込むまでは、眠そうな素ぶりなんて一切見せなかったのに……殿下の顔を見て安心したのかしら?


もともと、朝は日の出とともに起き、夜は夕飯を食べたら即寝のゲオルグである。

ほとんど徹夜の救出劇は、本当に疲れたことだろう。

あの時、窓から飛び込んで来たことには驚いたが、ゲオルグの顔を見て本当に安心した。


何故か、これでもう大丈夫……って思ったのよね。


私は本当にゲオルグを信頼しているのだと、改めて気づかされた事件だった。

勝手にダイエットグッズを武器に改造したことは後でお説教しなければいけないけど!


だらしなく口を開け、爆睡しているゲオルグを眺め、私はふふっと笑った。

その声につられたのか、殿下が窓の外から視線を外し、やっとこちらを振り向いてくれた。


「コゼット?」

「え?……ああ、ゲオルグったら、ぐっすりとよく寝ていて」

「ふむ……確かによく寝ているな。よほど疲れたのだろう」


そう言われて初めて気がついたのか、殿下は寝ているゲオルグの頬をツンツンと指でつついた。

ゲオルグは少しだけ眉をしかめたが、クッションを掴んで顔を隠すと、また寝息をたて始めた。


「こんな風に寝ていると、まるで子供みたいですわね。なんだか懐かしいですわ」

「ハハ……懐かしいなどと。その頃はコゼットも、子供であっただろうに」

「あら、そうでしたわね。あはは!」


殿下がやっと笑顔をみせてくれてことで、ふわっと空気がほぐれた。

はあ、私もなんだか疲れたわ……あくびを噛み殺したとき、殿下が呟くように口を開いた。


「コゼット。もう二度とこんな危険なことはしないでくれ」

「殿下……」


殿下は張りつめたような真剣な眼差しで、私のことをじっと見つめた。

その瞳の真剣さに、私は思わず息を呑む。

了承の返事がなかったためか、殿下は苛立ったようにため息をつくと、やれやれといつた仕草で乱暴に椅子の背もたれに沈み込んだ。


「だいたい、ルメリカ国王とはいえ、知り合って間もない男のために何故コゼットが動く必要があるんだ。この国の衛兵にでも任せておけばよいのに」

「それは……」


殿下のおっしゃる通りすぎて、私は二の句がつげなかった。

アンジェと私の前世にまつわる事情を知らない周囲から見れば、そもそも私が動くいわれがない。

まあ結局、空回りしてばかり、助けられてばかりでたいした役にもたっていないけれど。

でも……


「おっしゃる通りです。……でも」


目の前で苦しんでいる人がいて、助けられるかもしれないとしたら。

私はまた必ず同じことをするだろう。

そう言おうとして……けれど前世のことを言えない私が、助けられるなんて言っても説得力がないことに気づいて、私は途中で口をつぐんでしまった。


押し黙る私に、殿下は悲しげな目を向けた。


「……好きなのか」

「えっ……?」


その言葉の意味がわからず、私は目を瞬いた。私を見る殿下の表情は苦しげで、何かを堪えるように歪んでいた。


「あの男が好きだから……助けたかったのか?」

「す、好き?!殿下、何か誤解が……」


ミカエルのことは友人として親しく思っているけれど、恋愛感情はない……そう続けようとしたが、昨夜のミカエルの言葉、そして真剣な瞳を思い出して……どうしてか、後ろめたいような気持ちになる自分がいた。


「……そうか」

「殿下っちがっ……」


いつの間にか馬車は城に着いていたようだった。

何ひとつうまく言葉を返せない私を残し、開かれたドアの外へと、殿下は降りていってしまう。

追いかけたい。けれどまた話したところで、私は何故ミカエルを助けようとしたのかを、前世のことを……説明することができないんだ。

肝心なところを抜かした説明で、殿下が納得してくれるとは思えない。

そうしたら、また嘘を重ねるの?

ぐるぐると頭の中をめぐる思考。

後に残された私は……情けなく歪んだ顔を俯けて、ぎゅっと手を握りしめた。

いつも応援ありがとうございます。

更新が間遠になってしまった本当に申し訳ありません。

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