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番外編 レミアスのお弁当 後編

「そのお弁当、まったあ〜!食べていない?!食べていませんわよね?!」

「レミーエ!そんなに慌ててどうしたのです?」

レミアスが急いで駆け寄り、地に両手をついているレミーエ様の手を取った。

「どうしたの、じゃないですわ!ああ、間に合って良かった……!」


キョトンとする私たちを尻目に、レミーエ様は血走った瞳でレミアスをギリリッと睨みつけた。


「お兄様ったら、あんな物体をレオンハルト様に食べさせようとするなんて……!ゲオルグやコゼットならまだしも、繊細な殿下がお腹を壊されたらどうなさるのです!」

「あんな物体……?」

「俺やコゼットならまだしもって」

「自慢じゃないけど、確かにお腹の強さには自信があるわね」

「そういう問題じゃないから」


叫ぶように言い募るレミーエ様に、私たちは首を傾げる。

一方、レミアスはレミーエ様のことを慈愛を込めた聖母のような眼差しで見つめつつ、はあはあと肩で息をする妹の背中を撫でている。

「レミーエ、そんなに大きな声を出すと喉を痛めますよ。さ、このジュースでも飲んで落ち着いてください」

「あら、ありがとうございます……ってぐはあっ?!」


レミアスの差し出したジュースをゴクゴクと飲み干したレミーエ様は、両手で口を押さえて悶絶しだした。

予想外の出来事に目を丸くした私たちは、驚愕とともに固まった。

レミーエ様は、随分長い時間をかけて口の中の残りのジュースを飲み込むと、涙目でレミアスをもう一度睨みつける。


「ゲホッ!なにを飲ませるんですの!いえ、むしろなにを飲ませたんですの?!」


レミーエ様のあの反応……もしかして、すごく不味いジュースなのだろうか。

恐る恐るレミアスの方を見ると、懐のポケットから手帳を取り出し、真剣な表情で書き留めたらしいレシピを読み上げる


「えーと、これは……以前コゼットに頂いた『シソ』とハチミツとオレンジと」


シソジュースみたいな感じなのかな?

美味しそうだけれど、馴染みがなくてお口に合わなかったのかしら。

しかし、私がジュースの味に想像をめぐらしている間にも、レミアスの言葉は続いていた。


「塩と砂糖と」


ウンウン、少し塩を入れると、砂糖の甘みも際立つしね。でもハチミツもいれているし、かなり甘そう。


「にんにくと生姜と生卵」


……健康に良さそうね。スタミナがつくわねきっと。


「ブイヨンと……隠し味に、鷹の爪と」


……ん?


「あと、これは内緒にしようと思っていた特別のレシピなのですが……」


声を潜めるような仕草をしながらも、レミアスは得意げに胸を張り、満面の笑みで言い放った。


「独自のルートで取り寄せた、稀少な飲み物……『コーヒー』を入れました!」


ドヤー!!!


あー、これ、ダメなやつ。

フルーツとコーヒー。これ、絶対ダメなやつね。

うん。特に柑橘系とコーヒーの相性は、もう絶望的だからね。

一生相容れない仇同士くらいのクオリティよね。

というかそれ以前に、ブイヨンとか鷹の爪とか入ってるからね。もはやジュースのカテゴリーから外れているよね。


渾身のドヤ顏で胸を張るレミアスを見つめるレミーエ様のひたいに青筋が浮かぶ。

しかしよく飲みきったなあ。やっぱり令嬢たる者、一度口に含んだら、どれだけ不味くても噴き出したらいけないんだろうか。

ま、まあ、令嬢じゃなくても吐き出したらダメだけど……出来るかな……

ほ、ほら、びっくりしちゃったりとかあるし……ねえ?


「恐ろしいものを飲ませないで!脳裏にお花畑が見えましたわ!」

「お花畑……ふふ、レミーエはまだまだ子供ですね」

「そんな夢見がちなお花畑ではありませんわ!」


全くもう、という感じに微笑むレミアスにイラついたのか、レミーエ様は地団駄を踏んでいる。


「あああ!もうジュースのことはいいですわ!とにかく、あのお弁当を王太子殿下に食べさせるわけにはまいりません!」

「え?何故ですか?ああ、レミーエも食べたいのですね。仕方ないなあ」

「何故そうなるんですの?!」

「たくさんあるから、大丈夫ですよ。さ、どうぞ」


そう言ってレミアスは、従者の隙をついてバスケットをもぎ取った。

そしてレミアスの開いたバスケットの中には……色とりどりの極彩色に染まるサンドイッチと思われるものが詰まっていた。

赤青黄色、うん綺麗だよ、確かに。

でも、どうしてパンが青色なのかしら。ねえ、この挟まっているショッキングピンクの具材は何でできているの?

そしてこの鼻をつく刺激臭はなに?

もはや、視覚、嗅覚……そう、私の本能が全力でこの物体を食べることを拒否している。


「お!俺、腹減ってもう限界だよ。お、カラフルで綺麗だな!」

「ゲ、ゲオルグ、ちょっと待て……」

「正気に戻ってゲオルグ!カラフルって、サンドイッチに使う形容詞じゃないから!」


……元祖空気を読めない男、ゲオルグは、とめる声も聞かず、レミアスが開け放ったバスケットの中に手を伸ばした……!


「ぐおお?!」

「ゲオルグ……!」

「出しなさい!吐き出すのよ!」

「惜しい男を亡くした……」

「殿下、まだ死んでないです!」


極彩色のソレを口にいれた瞬間、悶絶するゲオルグ。

もともと血色の良かった顔色は、通り越して赤くなったり青くなったり忙しい。


「ゲオルグー!!」

「ゴクッ!うー、喉に詰まった!うん、なんかコリコリして酸っぱい感じするけど、イケるぜ!」

「「「え……?」」」


意外や意外。カラフルサンドから見事生還したゲオルグの勧めにしたがい恐る恐る口にしてみたところ、レミアスお手製のサンドイッチ?は奇跡的に美味しかった。

しかし手に取った瞬間のぬるりとした触り心地に、視覚嗅覚に加え、触覚までもが拒否しようとしたが。

ちなみに好奇心で材料を聞いてみたところ、ただでさえ失われていた食欲がゼロを通り越してマイナスまでいった。

そしてレミーエ様も、味見をして目を丸くしていた。


「おい……しい……?」

「奇跡だな」

「やっぱレミアスはスゲーな!」


サンドイッチはゲオルグがほぼ完食し、レミアスも嬉しそうにしていたが……殿下とレミーエ様と私の三人には、なんだか納得できないもやもやが残ったのだった。


その後、何度かレミアスが料理を振舞ってくれる機会があった。しかし十回中九回は生死の境を彷徨うほど残念な味だったので、カラフルサンドはごく稀にある成功例だったらしい。


このピクニックの一件は、完璧超人にみえたレミアスの、唯一とも言える欠点が見つかった幼い頃のお話として、後々まで語り草になるのであった。


ついに、『悪役令嬢の取り巻きやめようと思います』の第1巻発売日当日です!皆様のお陰で無事、書籍をお届けする事ができ、感無量です(*´꒳`*)書籍についての詳細は活動報告、ツイッターで(*^▽^*)

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