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第3章30

「さあさ皆様、お立ち会い!ここに取り出しましたるは、魔法の調味料、その名もマヨネーズ!これをひとさじ掛けるだけで、いつものサンドウィッチの味がガラリと変わる!おや、そこのお嬢さん、信じていないね?」


「あら、だってそんな調味料見たことも聞いたこともないわぁ〜」


「まあまあまあまあまあ、物は試しですよ!食べてみてくださいよ!」


試食用に開けた小瓶からマヨネーズをひとさじ掬うと、お嬢さんが手に持っていたサンドウィッチにたらりとかける。


「あら!いい匂いね!」


「さあさあさあさあさあさあさあ!食べてみてみて!確かめて!」


マヨネーズの掛けられたサンドウィッチを渋々口にしたお嬢さんは、ひと口食べた瞬間、大きな空色の瞳をカッと見開いた。


「なんという事でしょう……!」


「さあ、どうだいお嬢さん!」


「この、ねっとりとしつつコクのある味わい、けれど後味は決してしつこくなく……まろやかな風味にも関わらず酸味が効いているのが絶妙だわ!サンドウィッチに挟まれるお肉の味を邪魔せず、むしろより濃厚に引き立てて……!」


目立つピンク色の髪を隠したアンジェは、手に持ったマヨネーズを高く掲げながらくるりとターンを決めて言い放った。


「マヨネーズ!これは至高の調味料だわ……!」


アンジェさん。

やり過ぎです。


皆さん、こんにちは!コゼットです!

私たちはここ何日か、朝から休みなくマヨネーズの実演販売を行っている。

マヨネーズ片手に踊っているアンジェを助手に据えて。……サクラと言う名の助手だ。

食リポが上手すぎて若干引いている。


あとなんだろう、アンジェってもしかして前世がインド人かなにかなのかな。

なんだか周りの人たちを巻き込んでミュージカル風になってるし。


踊るアンジェにつられたのか、マヨネーズが飛ぶように売れていく。

しかし私は、そうやってマヨネーズに群がる人々の中に……待ち望んだ人物がいることを見逃さなかった。


「サーンバー!オレィ!……おばさん!俺にもマヨネーズを売ってくれ!」


「ハイよぉ〜!おや、アンタはこの前も買ってくれた料理人の坊やじゃないか。随分気に入ってくれたみたいで嬉しいねえ〜」


「もうマヨネーズの虜だよ!うちの料理長にも食べさせたいくらいで……」


その言葉に思わずグリンと勢いよく頭を巡らせると、実家の厨房見習いであるピートによく似た少年はビクリと後ずさった。


「そうなのかい?!」


「えっいや、うん……」


「いやあ〜!嬉しいねえ!坊やは名のある家の料理人なんだろう?おばさんはすぐにわかったよ!」


「そ、そうかな?ヘヘッ!」


少年は照れながら、俺にもそんなオーラが出てんのかなあ〜やっぱり滲み出ちゃう実力とかかなーとか言っているが……すまぬ、少年よ。

おばさん、そんなこと全くわからない。

最初から知っていただけだ。


この少年は、エリオットさんの母君……リヨネッタ様の屋敷の厨房の下働きである。

商店街によく買い出しに来ているのを知り、そのタイミングで毎回実演販売を行なっていたのだ。


「いやあ、やっぱり名家の料理人は味がわかるんだろうね〜!ヨッ!違いのわかる男!」


「あはっははっ!そんなぁ〜!そんなことも……あるのかな?!」


そんな訳がない。

そもそも彼は厨房の下働きではあるが、恐らく料理はしていない。


「おばちゃん、一度でいいから名家の厨房とか見てみたいねえ。そうだ!マヨネーズをその料理長さんに差し上げたら坊やの株もあがるんじゃないかねえ」


「そ、そうかなあ?株……あがるかな……」


「間違いないよ!ね!おばちゃんが坊やの舌が確かなことを、料理長さんにしっかり伝えてあげるよ!」


「ほ、本当に?……そうしたら俺も、下働きから……いや、なんでもない。そ、そうだ!おばちゃんに料理長を紹介するよ!」


かかった!

私とアンジェは勝利を確信して素早く目配せしあったのだった。





「ほほー!この方が噂の料理長さん!初めまして!」


「おい、ペーター!なんだこいつらは?」


「りょ、料理長!お、俺、今日は魔法の調味料を味見して欲しくて!この人達が売っていて、俺が見つけたんです!」


私とアンジェは、下働き……ペーターに連れられてリヨネッタ様の屋敷の厨房に来ている。

もちろん、サクラとして活躍してくれたアンジェはもちろん、私もおばちゃんコスチュームに身を包んでいる。

しかし、やはり私も生粋の貴族のご令嬢。滲み出る気品とか弾ける若さとかが溢れ出てしまわないか、ヒヤヒヤしてはいたのだが……変装して実演販売を始めてから、何日経ってもバレる気配がなかった。

しかしまあ、こちとら中身は年季の入ったホンマモンのおばちゃんだ。私の実感のこもった演技力の前には、貴族の気品も隠れるしかなかったのであろう。


「コゼット様って……前世の年齢は……いや、なんでもありません」


何回めかの実演販売の後、アンジェがボソリと何か呟いたが、何か言いたい事でもあったのだろうか。



話を戻そう。

リヨネッタ様の屋敷に潜入するに当たって、私は流浪の料理人、アンジェはその弟子に扮している。

そんな私たちを、厳しい顔つきをした怖そうな料理長はじろりと胡散臭そうに眺めているが……全く怖くもなんともない。

何故って?

我が家の料理長の顔の方がはるかに怖いからだ。やはり我が家の顔面凶器は格が違う。


「魔法だあ?ふざけたことを抜かしやがる!お前ら、最近街で噂になってる商売人だろ?」


「ご存知でしたか!いやあ光栄だわあ!魔法のように美味しい調味料なんですよ!有名な料理人である料理長さんに、是非食べてみて欲しくって!」


「有名な……?」


あからさまなヨイショに頰をピクリと動かす料理長。

まずったかな?さすがに下働きの坊やほどは上手くいかないか……


「そそそそ、そんなに有名か?」


「えっ?ええ!もちろん!」


「そっかそっかあ〜!ウフッ!フハッフ」



訂正。料理長はちょろかった。


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