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第3章29

「毒殺?!ア、アンジェ、それは本当なの?」


「どうして貴女がそんな事を知っているの?」


その時、戸惑う私とレミーエ様を押さえるようにエリオットさんが叫んだ。


「……お前、何故そんな事が言える!まさか兄上の暗殺に関与していたとでも……!」


部屋のテーブルを挟んで奥側に座っていたエリオットさんが、手前に座る私の横を滑るようにすり抜け、アンジェの襟首を掴み上げる。


「ち、ちが……っ!わた、私……!」


「や、やめて!やめて下さい!」


アンジェの声にハッと我に返った私は二人の間に体を捩じ込んでエリオットさんを引き剥がし、怯えて後ずさる彼女の前に立ち塞がって隠すように両手を広げた。

同時にレミーエ様がエリオットさんの腕を掴んで引っ張っている。


「エリオット、落ち着いて!万が一アンジェが関与していたとしても、敵ならば今それを話す訳がないじゃない!まずは話を聞きましょう!」


肩で息をするエリオットさんはレミーエ様の言葉を受けてなんとか腕を離したが、その目はキツくアンジェを睨み据えたままだ。

レミーエ様とアンジェが和解した時、エリオットさんはアンジェに騙されかけ、レミーエ様は大怪我をしたというが……まだ信用しきれていないのだろう。

そう思う程にエリオットさんの反応は顕著で、アンジェも気の毒なほど顔を青くして震えている。


「アンジェ、驚かせてごめんなさい。落ち着いて話を聞かせてくれるかしら」


レミーエ様の言葉を受けて、アンジェはなんとか言葉を紡ぎ出した。


「あ、あの……私が放浪していた時に知り合った商人が、ルメリカの王族に毒薬を斡旋したって、聞いたんです!し、信じてもらえないかも、知れないけど」


アンジェは苦しげに喉を押さえながら、真剣な表情で言い募った。


「お前の言う事なんて信じられるか!」


吐き捨てるように言うエリオットさんを視界の隅に置きながら、私は真剣な表情でアンジェに向き直った。


「アンジェ。それは確かなのね。……エリオットさんたちの従兄弟君は……」


「殺されたと思います……毒で。商人が言うには、遅効性の毒薬で流行病に見せかけて殺す事が出来るという物だと」


「ふむ……」


アンジェを見つめると、彼女は確信に満ちた瞳で私に目配せをした。もしかすると……私の知らない、前世のゲームの知識があるのだろうか?

正直、ルメリカの王族、というキーワードだけでエリオットさんの従兄弟君と関連づけるのはやや厳しい。だが、ここまで確信があるという事は、この場では言えない情報を彼女は握っているのかも知れない。


しかし前世の記憶の事を知らない二人にこれ以上話すのは危険すぎる。もともとエリオットさんのアンジェへの印象は最悪だ……悪くすればアンジェ自身が犯人とされてしまいかねない。

私は二人には見えないように、アンジェにこれ以上は黙っているよう目配せを返した。


「信用ならないな」


「待って。遅効性の毒……もし犯人が同じだとしたら、ミカエル陛下にも使われている危険性があるわ。現在は毒の症状は出ていない……けれど秘密裏に暗殺するにはもってこいよ」


ひと息に切って捨てたエリオットさんを抑えながら、レミーエ様が考えるように口を開いた。


「エリオット。従兄弟の方の死因やその状況を、出来る限り詳しく調べられないかしら。そして今回使われた毒薬についても調べてちょうだい」


「レミーエ!こいつの戯れ言を信用するのか!」


「当たり前じゃない。アンジェには嘘をつく理由がないわ。それに、あなたは彼女の事を見張らせていた筈よ。今回の突発的な事件に彼女が関わっていた証拠があるの?アンジェはルメリカに来たのも初めてなのよ」


「レミーエ様……」


その言葉に、アンジェは感動したように大きな瞳に涙をいっぱいに溜めて何度も頷いた。


「……確かに、こいつを預けていた宿の女将からは何も聞いていない。見張らせていた者たちからも不審な動きは無かったと言っていた」


「そうでしょう?ねえ、エリオット。冷静になってちょうだい。今大切なのはミカエル陛下の御身と、この事件の黒幕を突き止める事よ。大切なものを見誤ってはダメ」


「エリオット様、お願いです。信じて下さい。じゃないと、大変な事になる……!もしミカエル様に毒が使われているとしたら、その毒を根絶するには特殊な解毒剤が必要なのです!」


アンジェは頭を地面に擦り付け、エリオットさんに懇願した。


「アンジェ!そんな事をしなくていいのよ!エリオット、お願い!」


「……わかった。直ぐに調べさせる。勘違いするなよ、お前を信じた訳じゃない。兄上のためだ。……他にはなにかないのか」


アンジェはその商人の名前や外見などの情報を、事細かにエリオットさんに伝えた。

裏の商売にも手を染めている商人の名前が本名だとは思えない……しかしどんな事をしてでも見つけ出してみせるとエリオットさんは宣言し、レミーエ様を伴って足早に私の部屋を後にした。







「アンジェ、詳しく話を聞かせてもらってもいいかしら」


エリオットさんが部下に指示を出しに行き、レミーエ様が一旦自宅に帰って行った後、私はアンジェと二人、部屋のソファセットに座って向かい合っていた。

ミカエルの容態が心配だが、王宮で手厚く看護を受けているだろうし私達にはどうする事も出来ないのだ。


アンジェは私の淹れたハーブティーで喉を潤し、深く息を吐くと喋りだした。


「はい。……まず、ゲームの続編が出ていた事は、知っていますか?」


「いいえ。全く知らなかったわ。……やっぱりこの事件は、ゲームで起きた事なの?」


「はい。毒薬を斡旋した商人に出会えたのは、全くの偶然です。彼と話しているうちにこの続編の事を思い出したのですが……実は、続編はミステリー形式になっていて、舞台がルメリカに変わります。主人公は、私……アンジェで、友人のエリオット様と一緒に事件を解決していくストーリーです」


アンジェの説明によれば、続編は前作の主人公であるアンジェが誰とも結ばれず、ルメリカに来た事から始まる。アンジェはルメリカで召使いとして貴族の屋敷で働き始め、国境の街で友人になったエリオットさんとルメリカの街で偶然再会する。そしてその紹介でお忍びのミカエルとも出会うのだが……いつの間にか国王暗殺事件へと巻き込まれていくのだった……というストーリーだ。


「ゲームの通りだとすれば、従兄弟君を暗殺した毒薬は病に見せかけて殺す事のできる遅効性の特殊な毒薬です。ミカエル様暗殺にも使われるそれは、犯人によって隠された解毒剤でなければ取り除く事が出来ないんです」


事件の真相を追っていく間にエリオットさんやミカエルなどのキャラクターとの仲を深めていき、特にミカエルルートでは解毒剤の獲得が攻略の鍵になる。解毒剤をゲット出来なければ、ミカエルは……全く良くできたストーリーに嫌気がさす。

しかしアンジェが続編をプレイしていたとは朗報だ。


「やっぱりミカエルの受けた矢には毒が塗られていたのね。遅効性の……という事だけど、解毒剤を探す時間はあるのかしら」


ミカエルに使われた毒は病に見せかけて死に至らしめるもの……今は矢を受けた事による発熱なのか、毒によるものなのかが判明していないという事だったけれど、毒だという事が確定しただけでも少しは事態が前進したように感じる。


「ゲームの通りならば、死に至るまで少なくとも二週間はかかる筈です。それまでに解毒剤を飲ませれば、ミカエル様は助かります」


「助かるのね!ああ、良かった……!必ず解毒剤を手に入れましょう!」


ゲームの通りならばミカエルは助けられる!なにもゲームの通りに進めなくても解毒剤の存在さえ知らせれば、エリオットさんならばきっと見つけ出せるはず。

思わず安堵する私に、しかしアンジェは神妙な表情を崩さずに続けた。


「ですが……先ほども言いましたがこの毒薬は特殊なんです。ゲームではエリオット様でも解毒剤を用意する事が出来ませんでした」


「なんですって……ああ、なんてこと」


そういえば、ゲームではエリオットさんはアンジェと友人なのだから、彼が用意出来るならしているはずだ。

毒の種類さえわかれば、エリオットさんが解毒剤を用意する事は容易いと思っていたのに!


「解毒剤は、エリオット様の母君が持っています。詳しく言えばそのお屋敷の秘密の小部屋に隠しているんです。だから、それを取って来なければなりません」


「ええ?!出来るの?!」


貴族の……しかも妾とはいえ前王の妃の屋敷に忍び込むなんて、難易度が高すぎる!

また秘密の通路とかだろうか?


「出来ます。いえ、ゲームではですけれど。ゲームでは、アンジェは母君の屋敷で召使いとして働いていましたから」


「事件より前から働いていたって事なのね……今からじゃ、難しいわね……」


「そうですね……こんな時にわざわざ事件の黒幕がメイドの募集なんてしないと思いますし」


これは難題だ。

既に私は顔を知られているだろうし……どうやって潜入したものか。

アンジェのお陰で解毒剤をしまっている場所はわかっているのだから、後は内部に忍び込むだけなのだが……

私達は顔を突き合わせ、うーんと考えを巡らせた。


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