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第3章28

投稿順が前後してしまい、申し訳ありません。

旧28話と28話が差し替えになりました

「まず、犯人の狙ったのはどちらなのかだが……」


「え?ミカエル以外に狙われた人が?!」


バルコニーには私とミカエル以外には人はいなかったと思うのだが、他の場所でも騒動があったとかだろうか。

その誰かは無事なのか。脳裏に焼きついた、ミカエルの青白い顔が私の頭の中にフラッシュバックして、背中を冷たい汗が伝った。

しかし慌てる私を見て、エリオットさんは呆れ顔でため息をつく。


「コゼット、君に決まっているだろう?矢が刺さったのは兄上の背中だが、兄上がいなければ勿論君に刺さっていただろう。そもそも君の部屋に兄上がいた事の方がイレギュラーな訳だし、狙いは君だったと考える方がしっくりくるくらいだ」


「私?!うそっ!でも私に狙われる理由なんて……」


なんて…………うん、あるな。認めたくないけど、私を狙う理由があるとしたら、ミカエルの求婚が原因だろう。昨日までは普通に街をふらふらしていても全く問題なかった訳だし。


「でもミカエルが私に、こ、告白してからまだ一日も経っていないのに……いくらなんでも早すぎるわ」


私の言葉に、エリオットさんは考えるように顎に手をやって口を開く。


「ふん……俺の推測からすれば、コゼット嬢でも兄上でも、どちらでも良かったんじゃないか?」


「どちらでも……なんだか腹が立ちますわね。けれどその考え方でいくと、敵の狙いはミカエル陛下とコゼットの婚姻の阻止……ですかしら」


「確かに……!それならば、私でもミカエルでも、どちらでも良かったという事に!そうすると、犯人は……」


そこで言葉を切った私は、レミーエ様と共にエリオットさんを見つめた。

ミカエルと私が繋がるのを阻止しようとする者……ルメリカのお家事情などを知らない私には、皆目見当がつかない。


「……恐らく、黒幕はルメリカの宮廷貴族だろう。その中でも俺を担ぎ出そうとする者……貴族たちの仕業だと思う」


「エリオットさんを?」


「どうしてエリオットを?貴方は王位継承権を放棄したって言っていたじゃないの」


エリオットさんの言葉に、私だけでなくレミーエ様も訝しげな声を上げる。

エリオットさんはミカエルの弟……本来の王位継承権は第一位にあたる。しかし彼はミカエルの国王への即位に際してルメリカを出奔し、商人となった。そして何年か経ち商売で成功を収め、再びルメリカに帰って来た時に、無断で出奔した事の罰としてミカエルによって王位継承権を剥奪され、王族としての地位も返上したのだという。


「罰とは言っても、あれは兄上の……俺への精一杯のはなむけみたいなもんだったんだ。俺は王族である事が嫌だったし、自分の力で何かを成し遂げてみたかった。兄上はそれを汲んで、俺を解放してくれたんだ」


だがその時……今もだが、ミカエルにはまだ王妃もおらず、当然ながら次代の王たる王太子もいなかった。そんな状況で王位継承権第一位のエリオットさんから継承権を剥奪するのは、例え国王であろうとも容易ではない。

しかし弟の望みのため、ミカエルは周囲の反対を押し切り、エリオットさんとの決別を演じてまで彼を解放する道を選んだ。


エリオットさんが妾腹であったことも、二人の不仲を周囲に誤解させることに一役買ったそうだ。そうした不和を演じることで、ミカエル派の宮廷貴族達はこれ幸いとエリオットさんを追い出しにかかり、自然とお膳立てが整っていった。そして、エリオットさんはまんまと王族の地位を返上する事が出来たのだ。


「じゃあエリオットさんには王位継承権はないって事ですわよね?それならどうしてミカエルを狙う必要が……っ」


エリオットさんが悪いのではない。しかし、思わず口調がきつくなってしまい、涙が目尻からポロリと落ちていく。

ミカエルと過ごした時間はまだほんの僅かなものだけれど、不思議なほど身近に感じていた。

私にとって、前世も含めて身近にいる人が目の前で命に関わるような大怪我をするなんて事は初めてで、混乱しているのかも知れない。

小刻みに震える手を抑え、必死に涙を噛み殺す私にエリオットさんは辛そうな目を向ける。

その表情を見た瞬間、私はハッと目を見開いた。


そうだ。私よりも、家族であるエリオットさんの方が辛いんだ。

私が泣いていちゃいけない。

泣いている場合じゃない。


「……ごめんなさい」


「いいんだ。ショックを受けたんだろう?目の前であんな事があれば誰だって混乱する。それより話を続けよう。俺には王位継承権はない。それは確かだ。……しかし、俺の王族復権、そして国王への即位を望む者は少なからずいる」


「それは……エリオットのお母上が関係しているのかしら」


レミーエ様の言葉に、エリオットさんは苦々しく頷いた。


「そうだ。……まず、俺は母上とは縁を切っている。王族でなくなった時と同時にな。だからレミーエにも会わせていない。しかし向こうはそうは思ってくれていないようでな。再三に渡って王家に戻るように言ってきていた」


どうやら、エリオットさんの母上はかなり権力欲の強い方だったようだ。

エリオットさんが出奔したのも、自分の息子を王位に就けようとした母親による画策や権力闘争に嫌気がさして、というのが大きかったそうだ。


「はっきり言って、俺は国王の器じゃあない。一商人くらいが精々さ。王位には兄上こそが相応しい。しかし母上は躍起になっていてな……ここ何年かは大人しかったから、もう諦めたものだと思っていたんだが……油断した」


そう言うと、エリオットさんは悔しげに、そして苦しげに唇を歪めた。レミーエ様がそっとエリオットさんの手に自身の手を添えた事で、彼が自らの拳を血が出そうなほどに握り締めていた事に、私は気付いた。


エリオットさんは謙遜しているが、一商人といっても彼はルメリカ一の大商人だ。万が一国王になったとしても器が足りないなんて事はあるまい。

つまりエリオットさんは、それくらいミカエルを敬愛し、認めているという事だろう。


「俺の王族復権を願っているのは母上……そして母上派の貴族達だ。兄上の暗殺を企てたのも、そいつらの可能性が高い」


「そう……けれど、企てが成功してミカエルに何かがあっても、王位継承権が次の人が繰り上がるのではないの?そこですぐにエリオットさんの王族復権となるのかしら……」


「現在の王位継承権第一位は、叔父上……亡くなった父上の兄上で、御歳75歳の老齢だ。ご本人が王位を継ぐのは無理だと公言している。そして、第二位であった六歳の従兄弟が、先日流行病で亡くなった。それ以下は同じく老齢か、王族であるかも定かではないほどの遠縁だ」


「なんてこと……」


ルメリカには女性に王位継承権はない。そのため亡くなった従兄弟の母親は王女だが、継承権がないのだ。


「当然ながら、兄上は早く身を固めるように周囲からせっつかれていた。しかし母上の息のかかった貴族家からは娶れないし、息のかかっていない貴族には妨害がかけられたりでなかなか話が進まなくてな。兄上が独身であるからこそ、母上の派閥が表面上は平静を保っていたこともあり、結婚話が先延ばしになってもいた。それが初めて今回、兄上は自ら結婚のために動いた」


「それじゃあ、この事件が起きたのは……」


「……ああ。計画自体はあったのかも知れないがな。向こうさんも慌てて事を起こそうとしたんだろう」


もし計画が以前からされていたとしても、実際に暗殺が行われたことの切っ掛けは……間違いなく、ミカエルが私に求婚したことだろう。ミカエルと私が結婚し、子供が産まれた場合、エリオットさんの王族復帰、王位継承権の復権は更に遠のく。


「失礼ながら……コゼット嬢は血筋は問題なく、ルメリカ貴族とのしがらみもない。加えていえば、アルトリアでも王妃候補と目される有力な伯爵令嬢であり、勢いのある商会を経営している。王妃としてこれ程都合のいい存在も、そうはいるまい。そんなコゼット嬢と繋がる事によって、兄上の権勢が増す事を恐れたんだろうな」


うーん、私自身にそれほどの価値があるとは思えないが、客観的にみるとそう捉えられるのかも知れない。

少なくとも商業的な部分では、ルメリカでの販路の拡大を行う事も今回ルメリカに来た目的のひとつであり、国王の力添えがあればそれはより容易かっただろう。

もし王妃としてそれらを推進していくのであれば、アルトリアとルメリカ両国の国際関係はより親密なものとなることは間違いない。

そう考えると、確かに私はルメリカ国王にとって有益な結婚相手だ。


「はあ。こうなってくると、そもそも従兄弟の方の流行病自体も怪しいわね」


レミーエ様の声に、私達は暗い顔つきで頷くしかなかった。

従兄弟の病死が本当に病気だったのかはわからない。それは今更確かめる術もないのだ。


「……そうだな。せめて従兄弟殿の死因や状況が詳しくわかればいいのだが……」


「毒殺です」


「「「え……?」」」


三人だけだった部屋の扉が静かに開き、暗闇から顔を覗かせたアンジェの放った言葉に、私達は呆気にとられた。


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