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第3章27

「と、とにかく今日はもう遅いし帰ってちょうだい。こんな夜更けに地位のある人がフラフラと出歩くものではないわ」


見た感じ、変装とかもしていなさそうだし……パーティ用の服装のままなのだろうか。装飾品とかは少なめだから、それらは外してきたのかも知れない。


「そうだね。君の顔を見れた事だし、城に帰って休みとするかな。……いい夢が見られそうだ。ハハッ!」


「なにを言って……ってコラッ……え?」


「グッ……?!」


一瞬、何が起こったのかわからなかった。

私がミカエルの軽口に応えようとした時、その体が突然、私の方に傾いできたのだ。

私の肩口に顔を埋めるミカエルの行き過ぎた冗談を注意しようと、その肩を掴んだ私の手に……ぬるりと濡れたような感触が触れた。


「ミ、ミカエル!ミカエル?!」


「ぐ……う。や、矢が……すまない、ドレスを汚し……」


「そんな事、どうでもいいわ!だっ誰か!誰か来てーー!!」


視界の隅に黒い影が消えていったのが映ったが、動転した私はそれをよく見る事は出来なかった。

そして直ぐに私の叫び声を聞きつけたシシィが走りこんできて、その後は大騒ぎになった。


バルコニーに座り込む私に凭れ掛かったミカエルの背には一本の矢が深く突き刺さり、流れ出る赤い血がその背中をどす黒く染めていた。

パニックに陥いりながらもなんとかミカエルを寝台に運び、矢を抜こうとする周りを抑えているうち、直ぐに王宮から医師が派遣され、ミカエルは運ばれていった。


私は兵士にいくらか質問をされたが、凶器が矢であった事や、傷の位置などから犯人ではないと断定され、宿に取り残されていた。

ミカエルが運ばれていった先は王宮。

簡単についていく事は出来ないのだ。


最後に見えたミカエルの顔は、血の気が失せて真っ青で、時折思い出したように震える睫毛だけしか動いていなかった。


「ミカエル……」


「お嬢様……お着替えになりませんと」


ミカエルは大丈夫なのか。不安で押し潰されそうになる私は、優しく促すシシィに従って呆然としたまま湯浴みに向かったのだった。



「コゼット……大丈夫?」


「わたしは大丈夫です。それよりもミカエルは……」


「ああ、兄上の容態は一応落ち着いた。しかし矢尻に毒が塗られていたかも知れないのでそれを調べている最中だ。今のところ毒薬による劇的な症状は出ていないが、油断は出来ないからな」


湯浴みを終えて部屋に戻ってしばらくすると、私の様子を心配したレミーエ様とエリオットさんが訪ねて来てくれていた。

同じ宿にいたジュリア様とアンジェ、そしてゲオルグやレミアスも先ほどまで部屋に居てくれたのだが、深夜になったのでそれぞれ帰って行ったのだ。


「毒が塗られていたのかわからないのですか?」


「ああ。強い毒薬は求める時に足もつきやすいから、暗殺に使われない場合も多い。だから敢えて症状が表面化しにくい毒薬を使う事がある。だから症状がなくとも念入りに調べているんだ」


「そうなんですか……」


「さぞ恐ろしかったでしょうね。可哀想に。けれどコゼットだけでも無事で安心したわ。ミカエル陛下も無事にご快癒されるといいのだけれど」


レミーエ様の優しい言葉に涙が溢れそうになる。

目の前で誰かが倒れるなんて初めてで、衝撃と不安、心配でたまらない。


「コゼット嬢、既に話したかとは思うが、事件の状況を聞きたいのだが……」


「ええ、勿論です。とは言っても暗闇の中であまりよくは見えなかったのですが……」


シシィが置いてくれた紅茶を一口飲んで、先ほどの状況を語り始めた。

しかしあまり言える事もない。

私に分かる事といえば、ミカエルが何者かに背中を矢で射られ、血を流して倒れた事だけだった。


「犯人は、何者なんでしょう……ミカエル陛下を……暗殺しようとするなんて」


暗殺。ニュースでしか聞いた事のない響きに身震いがする。

こんな恐ろしい事をする犯人は、誰なのか。

やはりミカエルの政敵が犯行を行ったと考えるのが妥当だろう……

ルメリカの情勢に疎い私とレミーエ様がエリオットさんに視線を移すと、彼は深刻な顔つきで考え込んでいた。


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