第3章24
「私はモブ、私は……」
「よう、コゼット。何してるんだ?なに被ってんだ?」
「くわああお!……っとごめんあそばせ!」
未だかつて、ゲオルグの空気の読めなさにここまで苛ついた事があっただろうか。いや、ない。
そもそもゲオルグは、その空気の読めない天然なところが癒しポイントであったはずだ。
マズイ。私は相当混乱しているようだ……
そう、そのせいで思わず令嬢らしからぬ雄叫びをあげてしまったのも仕方がないことだ。
しかし間違いなく誤魔化せたので問題ないだろう。
「これは、ほっかむりというのよ。東の国から伝わる由緒正しき忍びの技よ。まあそれはどうでもいいんだけど、私はコゼットではなくてよ。ただのモブだから放っといてちょうだい」
レースのハンカチーフのほっかむりを直しながら私は早口に言い放つと、青春時代に密かに練習したムー◯ウォークを使って後ろに下がった。
しかしゲオルグはなんなく同じ動作で下がりながら、私に遠慮なしに声を掛けてくる。
「モブってなんだ?ところでアイツ、王様だったんだな!しっかし暑そうだな」
「そうね、暑そうね。ていうか声が大きいわ。……それよりゲオルグ!どうしてムー◯ウォークが出来るのよ!私がどれだけ練習したと……!」
しかも私より上手い。未だかつてゲオルグの空気の読めなさに……以下略。
「いやあ、コゼット!どこに行くんだい?」
「くわっ……」
その時。華麗な足取りで後ろに下がっている(はず)の私の腕がガシィッと掴まれた。
いつの間にか忍び寄ってきた黒い影にそのままズルズルと引き摺られ、私は再び人の輪の真ん中に連れ戻されてしまった。
「ニワトリのモノマネかな?ハハッ!君は本当にいつも予想の斜め上をいくね!」
「ソ、ソレハドウモ」
にこやかに笑うミカエルは、言葉とは裏腹に背後から私の腕をガッチリとホールドし、改めてエリオットさんとレミーエ様の前に立った。
なんという事でしょう。典型的モブの私に、周りの視線が突き刺さっているではありませんか。
視線のビームで息の根が止まりそうでーす。
「あれは、どなたかしら?国王陛下に対して馴れ馴れしい……」
「見ないご令嬢だな……しかしこんな準公式の場ともいえるところで陛下が同伴されるとなると……」
「なんですの、あの小娘は。麗しいミカエル陛下には相応しくないですわ、図々しい」
……漏れ聞こえる囁き声がなんとも理不尽である。どう見ても私は拘束される宇宙人のような有様なのに、何故私が図々しい事になっているのか。
ミカエルとはなんのやましい関係もないと声を大にして言いたいが、不敬罪的なサムシングのボーダーラインがイマイチわからない私は口を開くのをためらってしまった。
ただでさえ、予想では不敬罪ギリギリアウトの線上に立っているのだ。慎重にならざるを得まい。
そうして自分の振る舞いについて考えを巡らせている時、ミカエルが場の空気を一変させる爆弾発言を放った。
「エリオット、レミーエ嬢。そして皆の者!改めて紹介しよう、彼女はコゼット嬢。余の想い人だ!」
「ふぉ?!」
「「……は?」」
 




