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第3章22

リンゴスタの貴族街、そのなかでもルメリカ王宮の近くにある荘厳な教会。

美しくも重厚感のある木造の壁から続く天井には、差し込む陽の光にキラキラと輝くステンドグラスが嵌め込まれ、磨き抜かれた床に幻想的な彩りを描き出している。


教会の両開き扉が音もなく開かれると、光を背にレミアスにエスコートされ、真っ白なウエディングドレスに身を包んだレミーエ様が静々と入場した。

大きく開いた胸元には星を落としたような素晴らしいダイヤモンドが主張するように光を乱反射し、細くくびれた腰からふわりと広がるスカートは幾重にも重なるレースが大輪の薔薇のように花開いている。

しかし繊細な刺繍の施されたベールも、夢のように豪華なドレスも、そして光り輝く宝石も……レミーエ様自身の美しさには敵わない。


豪奢な金髪に彩られた小さな白い顔、薔薇のように紅く色付いた頬、快活に輝く瞳……レミーエ様はもともと華やかな方だったが、幸せそうに微笑む彼女は今まで見た中でも最も美しかった。

その手を引くレミアスは、妹の晴れ姿に誇らしげな顔つきをしていたが……瞳の中に少しの寂しさがある事に気付いてしまったのは、付き合いの長さ故だろうか。


しかし本当に奇跡のように美麗な兄妹である。

黒のフロックコートに身を包んだレミアスの滑らかな頬にサラリとした金糸の髪が陰をつくり、その横顔はいつの間にか少年の殻を脱ぎ捨てた大人の男性になっていた。

長い睫毛に縁取られた憂いを帯びた瞳には色気すら漂っており、周囲の女性たちの感嘆の声が漏れ聞こえる。



「ふっ……くっ……ずびっずばっ……」


「ちょっと、コゼット様!泣きすぎですわよ!しかも早いですわ!」


「ふぐえっふぐーー」


「アンジェさんも!もう!」


扉が開く前から溢れ出した涙は鼻水とともに止め処なく流れ、私のハンカチをビショビショにしている。

アンジェも先ほどから泣き続けており、握り締めたハンカチが絞れそうだ。


「だ、だって……まるで娘の結婚式を見ているみたいで……ううっく」


「同い年ですわ!」


「レビーエざばーお幸せにー」


「アンジェさん、鼻水垂れてますわ!」


ジュリア様がさりげなく私たちの背中をさすってくれる。なんて優しい娘さんなのか。

すまないねえ。

うぐぐ。ちょっと高速過ぎやしませんかね。

背中が摩擦熱で火傷しそうだぜ!


レミーエ様とレミアスは扉から続く決して長くはない道のりを、噛みしめるように一歩ずつゆっくりと歩を進めた。

レミーエ様が私の前に差し掛かった時、歩くたび揺れるドレスの裾からチラリと覗いたのは……まさかのスリッパだった。

あまりの驚愕に涙も引っ込み、思わず目を見開いてレミーエ様をみると彼女は悪戯っぽく目を細めた。


なん……だと?!

あれは……!オシャレもダンスも大丈夫、グリップも効くよネオ・ファッショナブルモデル?!

言わずと知れたシグノーラの春物新作である。

ハイヒールの登場でも駆逐しきれなかったスリッパ(外履き)の、新しいモデル。


どうせ外で履くつもりなんでしょ!

履けばいいじゃない、仕方ないから滑らないようにしとくわよ、ふんだ!……という気持ちでデザインした事は記憶に新しい。

いわゆるヤケクソである。






「アナターは妻となるレミーエ・ドランジュを生涯に渡って愛し、守ることを誓いマースカー?」


「誓います」


「アナターは夫となるエリオット・セシルを生涯に渡って支え、愛することを誓いマースカー?」


「誓います」


祭壇に立つ神父からの言葉に二人が誓いをたてる。

純白のフロックコートがエリオットさんの長身に映え、背の高いレミーエ様と並んだ姿は一幅の絵画のようでとてもお似合いだ。


お似合いの二人の永遠の愛の誓い……これぞ感動の場面だ。これこそが…………しかし、神父の胡散臭い喋り方が気になりすぎて涙どころではない。

何故だ。何故、日本のエセ神父みたいになっているんだ。


私が神父に釘付けになっているのに気付いているのかいないのか、隣からアンジェの小さな声が聞こえた。


「……ゲームと一緒だ……」


そういうことかーー!!

ゲーム補正よ、久しぶり!

ゲームとは違う世界の筈なのに、変なところで世界の強制力を感じてしまう。




教会の鐘の音が、澄み切った青空に高く響きわたる。

心地いい澄んだ音とともに白い鳥が何羽も尖塔から飛び立ち、空から薔薇の花びらが舞い落ちてくる、幻想的な光景に、招待客たちはうっとりと目を眇めた。


この、何処からともなく発生した花びらも、図ったようなタイミングで飛び立った白い鳥もゲーム補正なのだろうか。

アンジェの銀色のフケと同じ系統の。


「ゲームのエンディングと同じだあ……なんだか妙なところでリンクしますね」


花びらをボケーっと見つめていたアンジェが困ったように眉を下げているので、ふと思いついた事を言ってみた。


「……あなた以前、頭から銀色のフケ出してたわよね」


「?!あれはオシャレアイテムです!」


ゲームに合わせて頑張ったのに!とブツブツ呟いているアンジェ。

フケの謎が十年越しに解決した。やっぱりこの世界はゲームではない、私は安堵の息をついた。

おそらくあの白い鳥も、屋根の上で誰かが捕まえてたとかで、神父はたまたまボブじいと同郷だったとかだろう。

薔薇の花は誰かがばら撒いているに違いない。バラだけに。なんつって。ハハッ!


自分を無理やり納得させた私は、仲良く手をつないで教会の扉から出てきたレミーエ様とエリオットさんにフラワーシャワーを浴びせるために駆け寄ったのだった。

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