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スリッパの完成からはや三ヶ月。
私のダイエットは順調な成果を結んでいた。
途中、重さに耐え切れずスリッパがすぐにへたるというアクシデントには見舞われたものの、何故か私のダイエットにやたらめったら協力的な靴職人によって新しいスリッパが次々と制作されていたことで解決された。
当初布地に綿を詰めて作っていたスリッパは、回を重ねるごとに改良がなされ、現在の最新モデルのソールにはなめし皮が採用されており、中敷きに羊の皮を用いたラグジュアリーモデル、削り出した木を用いたツボ押し効果のある健康推進モデル、全面に刺繍をあしらった女性に嬉しいファッショナブルモデルなどがある。
ちなみに命名は私だ。
このスリッパ、ダイエットが全く必要ないお母様のお気に召し、お母様主催のお茶会に履いて登場するという暴挙にでたことで、社交界ではいま、一大スリッパムーブメントともいえるスリッパブームが起きている。
前世を知る私にしてみると、スリッパは室内履きであって決して屋外でのお茶会や、まして夜会で履くものではない!と激しい違和感があったのだが……
社交界の華といわれたお母様の威光の成果なのか、現在夜会では洒落者を自負する紳士淑女の皆様がスリッパで踊る、という風景が繰り広げられているそうだ。
しかし、ソールがなめし皮製な上、足元の不安定さから転倒するものが続出した。
無理もない……ていうかそもそもスリッパは踊る目的で作られていない。
この事態は私のせいか……と頭を悩ませていると、解決策は意外なところからあらわれた。
なんと庭師のボブじいさんが、屋敷の裏山でゴムの木を発見したのである。
採取したゴムの木の樹液は紆余曲折をへてなんとか加工に成功し、現在制作されているモデル、“外履き!ダンスもできる高性能スリッパ”にはゴム製ソールを用いた滑り止めがついている。
ていうかこれ、もはや健康サンダルなのでは……
スリッパの副産物ともいえるゴムの存在は、靴業界を揺るがす大発明であった。
ゴムの登場により、雨や泥に強く滑らない靴底が作れるようになったということで、靴職人は狂喜乱舞していた。
ゴムの利権だの使用権だの、難しいことはよくわからない……というか面倒くさいのでお父様に丸投げした結果、わが家、エーデルワイス伯爵家の靴ブランド近々出来るらしい。
まあそれは置いといて、改めて姿見に我が身を映してみると、スリッパウォーキングのおかげで全体的にシルエットが少しだけスッキリしてきた気がする。
動きやすくなってきたし、そろそろもう少し本格的な運動をしてみてもいいかもしれない。
今日もお気に入りのスリッパで屋敷内をウロウロしながら、つらつらと次のダイエットのプランについて考える私だった。




