第3章14
厚化粧の店員が、いそいそと商品を取り出す。
まるいケースに入ったクリーム状のものや、白い箱に入ったパウダー。
心が躍るような美しい箱に入っていて、見ているだけでも楽しくなってくる。
「こちらがいまリンゴスタで流行の化粧品でございます。なんとあの王妃様も使ってらっしゃると評判ですのよ!」
「へえ、王妃様が……」
貝殻のケースに入った口紅を手に取りながら、耳慣れない言葉に首を傾げる私に、店員は満面の笑みで頷きながら説明した。
「ええ!王妃様は長年肌荒れに悩んでらしたとかで、こちらを使ったら良くなったと……」
「ふーーん……」
いくら高級な化粧品店とはいえ、王妃様の肌の調子まで噂になるなんて……なんだか胡散臭い。
私とジュリア様は顔を見合わせて目配せを送り合った。
「おや、ご興味なかったでしょうか。これは失礼を。……ところでこちらにも新商品がございましてね……」
訝しげな視線を送る私達に慌てたのか、店員はそそくさと新しい商品を出してきた。
自信満々な顔で差し出されたそれをみた私たちは思わず固まった。
「これは……」
「隣国アルトリアから取り寄せた、スリッパという靴でございます!王弟であらせられるエリオット様の婚約者であるご令嬢が履いていたことから注目され出しまして……なかなか手に入らない逸品でございます!」
斬新なデザインに、軽い履き心地……などと続く店員の言葉に、私は頭を抱えた。
そして思わず漏れた、心の声……
「スリッパは、靴だけど、靴じゃなーーい!」
「ふぇ?」
私の勢いにポカンとした店員の、間抜けな声が響いた。
「さあさあさあさあ、お立会い!ちょいとそこ行く旦那様、奥様、お嬢様!すこーーしお耳を御拝借!本日特別に皆様にご紹介したい商品は……こちら!ダイエットスリッパーーーー!隣国アルトリアから特別に輸入した限定商品です!そう、今だけ!今だけの限定発売なんです!おや、お嬢様、今まさにスリッパを履いていらっしゃいますね!なんということでしょう……!どうですか、履き心地は?!」
丁度良くスリッパを履いていたご令嬢にマイクーーに見立てた棒ーーをむける。
「え?ええ、そうね、デザインは気に入っているわ。でも少し歩きにくいのよね……なにせかかとが短くて……」
「そ、う、な、ん、で、す!!みて下さい、この斬新なデザイン!かかとが短い?ンノンノンノン!勘違いしてはいけません!これはわざと!この形なのです!」
「わ、わざと??」
「ええ!このスリッパは、ダイエットスリッパ!その真骨頂をお見せ致しましょう!ジュリアさん!」
「準備よろしくてよ!」
私の呼びかけに、スラリとしたひざ下を露わにした大胆なプリーツキュロットを穿いたジュリア様が華麗に登場し、集まっていた群衆から感嘆やざわめきの声が漏れる。
「あれは、スカートなのかしら?それともズボン?」
「爽やかね……涼しそう」
アルトリアでは眉をしかめる者もいるだろう、その膝丈のキュロットは、ルメリカでは好意的に受け止められた。それもそのはず、ルメリカはアルトリアよりも女性の社会進出が進んでいて、女性のファッションの解放が進んでいるのだ。
それでもせいぜい足首までのスカートが主流で、ズボンやスラックスを履くものは少ないが。
モデルばりのウォーキングで現れたジュリア様は、豊かな髪をサラリとかきあげてビシィッとポーズを決める。
「こちらのスリッパは、敢えてかかと部分を無くしているのです。足先に重心を置くことで、脚への引き締め効果を発揮します!彼女のような美脚を手に入れられるチャンスです!…………そして皆様に声を大にしてお伝えしたいことは……スリッパは、室内履きです!!」




