第3章12
「コゼット様、それではいってらっしゃいませ。ここは異国の地なのですから、くれぐれもお気をつけて下さいませね。それと、買い食いはほどほどに……あ、お薬は持たれました?コゼット様はすぐに食べ過ぎてお腹を壊されるから……それから……」
「もういい、もういいからシシィ!ジュリア様達もお待たせしてしまうわ!」
「でもお嬢様……あ、ハンカチは……」
「持ったから!」
ゴソゴソと三枚目のハンカチーフを出してくるシシィから逃れるように、私は部屋の外へと向かった。
今日はリンゴスタに到着した翌日。
私達はしぶしぶながらミカエルに街を案内してもらうことにした。
ミカエルにはくれぐれも地味な服装でくるように伝えたので、昨日ほど奇抜な格好はしてこないと思うが……
ただでさえ目立つ容姿をしているのだから、私の目の平穏の為にも服装くらいは地味にしてもらいたい。
蛍光グリーンはチカチカして目に痛いのだ。
「お待たせ致しました」
「コゼット様、おはようございます。大丈夫ですわ。こちらの飲み物がとても美味しくて、楽しんでおりましたのよ」
もはや着慣れてきていた旅装を解き、外出着に身を包んだジュリア様はにっこりと笑った。
……その隣に目に痛い生き物が座っている気がする。
気のせいだろうか。
いや気のせいに違いない。
ジュリア様の手に包まれているカップには、カフェオレ色の飲み物が入っていた。
「コーヒー……?」
「あら!さすが博識ですこと!喫茶店を経営されているのですものね、当たり前だったかしら」
「おや!コゼット嬢は喫茶店を経営しているのかい!そう、これはコーヒー!ルメリカでは広く愛飲されているんだよ!ハハッ!」
「コーヒー……久しぶり。私も頂けるかしら」
アルトリアでは紅茶が主流であるためか、コーヒーには出会えなかったのだ。立ち昇る香りにひどく懐かしさを感じる。
「もちろんさ!ところで今日は侍女のお嬢さん達はいないのかい?」
「シシィはアンジェと開発と研究で忙しいのですって。……ところでミカエル。私、地味な服装で来るように言ったわよね?」
気のせいか頭痛がする頭を押さえながら私が問いかけると、ミカエルはキョトンと首を傾げて口を開いた。
「え?充分、地味にしてきたつもりだけど?」
「どこが!」
今日のミカエルは黒いストレートの髪に映える、白銀のデカイ帽子を被っていた。
クッションをそのまま帽子のつばにしたようなそれは、中に綿でも入っているのだろうか、とてもふかふかしている。
ランダムに紅い星の刺繍のある白銀のクッション状の物体は、紅い絹で縁取りがされ、火山の噴火口のような頭頂部からは同じく紅い総が垂れ下がっていた。
統一したのか、服も全体的に白銀色である。
要所要所に紅い星の刺繍が施されたラメラメのスーツを着たミカエルは、まるで後光を放っているようにすら感じる。
チラリと目を向けると、死んだ魚のような目をしたジュリア様がいた。
「ええー?だって白だよ!地味じゃないか」
「派手よ!だいたい何なのよ、その帽子は!クッションにしか見えないし、まるで火山だわ!」
私の言葉に、何故かミカエルは黒曜石のような瞳を輝かせて何度も頷いた。
「わかってくれた?!そう、これはクッションなんだよ!」
「くおおおお!クッションは被るものじゃございません!」
いいい、イライラするううう!




