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閑話 うちのお嬢様

 私、シシィはエーデルワイス伯爵家のご令嬢であるコゼットお嬢様付きの侍女である。


 私が初めてお嬢様に会ったのは四年前、この屋敷に勤めて間もない頃だった。

 当時はまだお嬢様付きではなかったが、お嬢様のお姿はよく目にしていた。


 なぜかというと、お嬢様は少々……いやかなりドンくさく、動くのが遅いのだ。歩くのも遅い。

 しかもなにもないところで突然立ち止まったり、しばらくぼーっと宙を眺めていたりする。

 屋敷の中をせわしなく動いている私は庭園でぼーっとしているお嬢様をよく見かけていたのだ。


 小さな頃からふくよかでいらしたお嬢様はまるで雪だるまのようだったし、置物と間違えて近くまできてからギョッとしたことも一度や二度ではない。


 正直あまり興味もなかったお嬢様と仲良くさせて頂くことになったのは、私が伯爵家にきてから二年後、お嬢様付きになることを命じられてからだった。

 当時の私はお嬢様を変な子だなぁとしか思っていなかった。

 お美しい伯爵ご夫婦に比べてあまりにも……残念な容姿というか体型であられるお嬢様付きになるのは、美しいもの好きな私にとってあまり嬉しいことではなかった。


 庭師のボブさんや料理長がお嬢様贔屓なのも謎でしかなかったし、出入りの靴職人がお嬢様の注文した靴を明らかに優先して作っているのも意味がわからなかった。


 しかし私は、お嬢様付きになって三日も経たないうちに、あっという間にお嬢様のとりこになってしまったのだ。


 お嬢様は確かに少し……ふくよかなため、顔の肉に潰されて瞳は細い糸目のようになっていたりするが、笑い顔がとっても、とっても可愛らしいのだ!


 ふつう、伯爵令嬢ともなれば侍女や庭師と親しく会話をしたり、ましてありがとうなどと言ったりはしない。

 しかしお嬢様は、嬉しいときは嬉しいとニコニコと笑い、召使いや端た女にだって分け隔てなく接する。

 侍女として当たり前の仕事をしているだけなのに、あんなに可愛らしい笑顔でお礼を言われたら、誰だって好きになってしまうと思う。


 現に私も、お嬢様の笑顔が見たくて命じられていないことまで気を回して、お嬢様が喜ぶことばかりを探していたのだ。

 とくにお食事の時の笑顔は格別で、美味しいものを食べた時のフニャっとした顔は、それだけで周りが幸せな空気に包まれるほどだ。

 気難しくて恐れられている料理長が調理場から抜け出して、こっそりとお嬢様のご様子を窺っているのも頷ける。


 しかし料理長にもこだわりがあるらしく、お嬢様のご要望通りのメニューにすると、お嬢様の体重がさらにとんでもないことになる……ということで、お嬢様の好物はあまり作らないようにしているらしい。

 まぁ、ご要望に沿っていない料理でもおかわりを連発するので、むなしい努力に終わっているが……


 庭師のボブさんも、お嬢様の喜ぶ顔が見たくてお嬢様好みの花を綺麗に咲かせてはご案内している。

 そして私も、靴職人も。


 貴族らしい婉曲な物言いやテンポの良い会話が出来ず、ぽやんとしたお嬢様は、貴族の皆様の間ではあまり評価されていないご様子だが……



 私たちは、そんなぽやんとした優しいお嬢様が、大好きなのです。



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