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閑話 寂しがりや達の日常

「……料理長!料理長!」


「……っは?」


何度目かわからない俺の呼びかけに料理長はやっと反応を返し、夢から覚めたようにボケっとした顔でこちらを振り返った。


普段の厳しい表情はどこへ行ったのか。

ぼんやりとした様子の料理長の手には、特盛のケーキが載っている。



二十人前くらいありそうだな、これ……


俺は溜め息を吐きながら料理長の手からケーキを受け取った。


「まったく、またこんなに作っちゃったんですか。お嬢様は旅行に行ってらっしゃるっていうのに、誰がこんなに食べるって……」


ブツブツとつぶやいていた俺は、そこまで言ってハッとした。


ヤバい、言いすぎた……思い出させちまった。



恐る恐る料理長を見ると……料理長はどんよりとした顔つきで……ほんのり涙目だった。


「……うわ。…………おっさんの涙目は、キツイっす……」


「………!」


心の声がダダ漏れだった。

料理長が失恋した乙女のように何処かへ駈け去っていく様子を眺めながら、俺は再び溜め息を吐くのだった。


チラリと手に持った皿を眺めれば……生クリームとジャムがたっぷり使われた、艶艶と輝くベリーのケーキ。

言わずと知れた、お嬢様の大好物だ。


ベリーの季節に沢山収穫して氷室で保存し、同時にジャムを作って置いてあるのだ。春にイチゴの季節がくるまでのお嬢様の命綱でもある。


「……うまい」


俺は受け取った拍子に指にくっついた生クリームを、ペロリと舐めた。








「ハッハッハッ!……ハー……」


「ボブさんボブさん。正気に戻って。このままだと松が無くなる」


「……ッハ?」


切り分けた巨大ケーキの一部を手に庭に訪れた俺は、一心不乱に松の枝を落としているボブさんに声を掛けた。


ボブさんはぼんやりとこちらを振り返ってブルブルと頭を振り、最近大きく育ってきたアフロヘアーを広げて雪を撒き散らした。


「うわっ!やめてよ!」


「ハハッ!ごめんよっ……ハー。松が裸同然だよー」


雪が落ちたアフロヘアーはしょんぼりと元気なく萎んでいった。

何なのあの髪。


チラリと松を見やれば、曲りくねりながら張り出していた枝の先はおかしなかたちに落とされ、どんな技術を使ったのか魔界の生物みたいになっている。

松の向こうのトピアリーが奇怪な魔物みたいになっているのも気のせいだ、多分。

俺は何も見なかった。うん。


「料理長がケーキ作ったから持ってきたよ」


「アリガト!ハア……マツタケ生えないかなーア。マツタケが生えたらお嬢様が帰ってきてくれるような気がするんダヨネ」


「……生えるといいね」


年々広がっていくお嬢様の趣味の庭園、カレサーンスイにでーんとそびえる松は、マツタケというキノコを欲しがるお嬢様が植えたものだ。

結局、松を植えてから何年かたった今でもマツタケが生えてくる気配はない。


マツタケってそんなに美味しいのかな……


マツタケについて語るお嬢様のキラキラした表情を思いだし、俺はほんのり寂しくなったのだった。



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