第3章6
「申し訳……ありませんでした。私がした事を考えれば、貴方にお会いすることも憚られましたが……どうしても謝りたかったのです」
アンジェは、私が勧めた椅子に座ることもなく床に膝をつくと、頭を下げた。
私はといえば、ただだだ驚きに目を見張り、ぽかんと口を開けていた。
ふと部屋の入り口付近で控えているシシィを見ると、彼女も同じように口を開けて目をまん丸くしていた。
「ア、アンジェさん……とりあえず立ってもらえるかしら。一体、どうしたというの?」
私はアンジェの手をとって引き上げると、力なく項垂れる彼女を椅子に座らせ、自身も対面に腰掛け直した。
「確かに、貴方とは色々ありました。……正直に言えば、今更謝られても何が何だか……どういう心境の変化なのか、お聞かせくださるかしら」
「……レミーエ様に、助けて頂いたのです。それで……」
アンジェは震える声で、ポツリポツリと口を開いた。
国外追放になった後、見も知らぬ街に放り出された彼女は大変な苦労をしたようだ。
彼女は詳しくは語らなかったが、売られたり、騙されたり……辛い思いをしたのだろう。
アンジェが国外追放になった時、彼女が死なずに済んだことに、どこかホッとしていた自分がいたことを思い出した。
けれど彼女の話を聞いて、どちらが良かったのかわからなくなってしまった。
だが私が心を痛めるのは筋違いだ……
私はアンジェに声を掛けることも出来ず、自分の膝をギュッと握りしめた。
あてもなく街をフラフラしているうち、アンジェは裕福な商人に拾われメディウスまで同行した。
メディウスは、ルメリカとアルトリアの国境の丁度真上にあるため、両国の間の中立地帯ともいえる。
そのためアンジェはメディウスまでは問題なく来ることが出来たのだが、アルトリアに向かう商人とはここで別れるつもりだったそうだ。
そしてメディウスに来たアンジェは、ルメリカに向かう旅の途上にあったレミーエ様と出会い、彼女に助けられた。
そこまで話した時、アンジェは衝撃の事実を告げた。
まあ、半ば予想していた事でもあったのだが……
アンジェは自分の手をギュッと握りしめると、真剣な眼差しで私を見つめて口を開いた。
「私は、転生者なのです。前世の記憶があります」
彼女の窺うような瞳は、貴方もでしょう?と暗に告げていた。




