11
部屋に帰るとシシィが待ち構えていた。
「お嬢様、どちらにいらっしゃったのですか?どこかへ行くときは声をかけてくださいと、あれほど……」
「庭園よ。朝早くからシシィを呼びつけるのは可哀想だと思ったから……ごめんなさい」
お小言が始まりそうな気配にあわてて、シシィの言葉を遮るように謝罪した。
こうして先に謝ればシシィのお小言は続かないのだ。
案の定シシィはやれやれといった様子で話しを変えてくれた。
「お嬢様、昨日ご所望された“スリッパ”が出来てございます。こちらにお持ちいたしました」
「もう?!まったくあの靴職人は素晴らしいわね!なにか、急がせたお礼をしなければいけないわね」
うちの出入りの靴職人は本当に腕がいい。その上仕事も早いのだ。
「うふふ、お嬢様。あの靴職人は、いつも自分の作った靴を無邪気に喜んでくださるお嬢様が大好きなのですわ。お嬢様のデザインされた靴だといったら、他の仕事を放り出してもすぐに仕上げる!と言っていましたもの」
「だっていつも本当に素晴らしい靴を作ってくれるんですもの。喜ぶのは当たり前だわ。でも他の仕事を放り出すのは良くないわね。でも……嬉しいわ!」
靴職人の優しい気持ちに、思わず笑みがこぼれた。
さて、出来上がってきたスリッパは……
前世ではよくあった、ごく普通のスリッパ……とほぼ同じだが、少しだけ違うところがある。
スリッパの足を置く底の部分が、足の土踏まずのあたりまでしかないのだ。そのため、全体的な長さは十センチもない。
そして底の部分を通常より厚めに三センチくらいの高さを出した。
そう……一世を風靡した、ダイエットスリッパである!!
あえてかかと部分を作らず常につま先立ちの状態にすることで、足の筋肉を引き締めるとともに、不安定な足場でバランスを取ろうとする体が勝手にカロリーを消費するというスグレモノである。
エクササイズするヒマがない主婦が、いつもの家事の時に履くだけでダイエット効果のあるダイエットスリッパ!!
前世の私の愛用品だ。
まぁ、本格的にダイエットするには、これだけでは足りないだろうが、私はあまりにも太りすぎているため、急な運動をすると体の色んな部分に不具合が生じる可能性がある。
ていうかそもそもあんまり動けない。お肉がつき過ぎて。
なので、まずはこのスリッパを履いての屋敷内ウォーキングと食事制限から始めようと思うのだ!
我ながらいい作戦だ。
もしかして天才じゃなかろうか。
一番の難関は食事制限だな。
正直、自信がない……




