第3章1
「お嬢様、ドレスはどちらになさいますか?」
「うーーん、シシィはどう思う?こちらのは……結婚式には派手かしら」
シシィが寝台に並べてくれたドレスを前に
私はしばし逡巡した。
二つのドレスは結婚式用にわざわざ誂えたものだ。
ひとつはロイヤルブルーの鮮やかなシルク生地で作られた華やかなドレスで、ウエストに巻かれた藍色のリボンと要所要所に飾られたレースの色の対比が美しい。あまりスカートが広がらないデザインになっており、大人っぽいドレスだ。
もうひとつは温かみのあるオレンジ色のドレスだ。スカート部分が花びらをイメージした作りになっていて、花弁の形の生地を何枚も重ね合わせている。裾のほうにいくに従って色が濃くなっていくため、ウエスト細見え効果と足長効果も得られる自信作である。青のドレスに比べて少女らしさを強調するような可憐なドレスになっている。
「そうですわね……お嬢様ならとちらもお似合いになると思いますが、季節柄を考えるとオレンジのドレスの方が宜しいかもしれませんわね」
「そうねえ」
今は冬だが、結婚式が行われるのは春先である。腕の出るオレンジ色のドレスでは少し肌寒さはあるだろうが、暦の上では立派に春だ。
前世でも夏のめちゃくちゃ暑いときから秋冬物の売り出しは始まっていたし……逆もまた然りだ。
そして私は悟ったのだ。
おしゃれとはやせ我慢である。
使い捨てカイロが無いことが悔やまれるが、致し方無い。
……くそう。
「おしゃれさんの秘訣は季節の先取り……寒かろうとなんだろうと春の色を着るべきね」
「かしこまりました」
「……毛糸のパンツ、出しといてね」
「……かしこまりました」
コルセットでお腹はあったかだが、お尻が寒いのだ。女の子は腰を冷やしちゃいけません。
シシィがドレスを片付ける為に退出するのを横目に、私はもう何回も読み直した手紙を手に取った。
桜色の綺麗な用紙に流麗な文字が躍っている。
『親愛なる友人、コゼットへ
コゼット、おひさしぶり。
お元気かしら?あなたのことだから元気に決まっているわね。
先日、あなたとジュリアからの手紙を受け取ったわ。
色々とあって旅の予定が狂ってしまったので、受け取るのが遅くなってしまってごめんなさいね。
あなたばかりか、ジュリアから手紙を貰えるとは思わなかったから、とても嬉しかった。
ルメリカは大らかでとてもいい国よ。
初めて見る様々な人や物で刺激がいっぱいよ。
あなたにも是非見て欲しいと思ったわ。
ところで、春先になるのだけれど、結婚式をすることになったの。もしよければ結婚式に来て欲しいのだけれど、遠いので無理は言わないわ。
来てくれるのであれば、詳しくはお兄様に聞いてね…………』
これは、ルメリカに行ったレミーエ様からの手紙だ。
秋に出した私とジュリア様の手紙は無事にレミーエ様に届いたらしく、返事がきたのだ。
その懐かしい文字に心を打ち震わせながら中身を読んだら、さらに素晴らしい感動が待っていた。
あのレミーエ様が結婚!
お相手の方はとても見る目があると思う。
手紙を読み終えた私は一も二もなく結婚式への参加を決め、両親から許可をもぎ取ってからレミアスを急襲した。
その結果、レミアスはもちろん、なんとジュリア様、エミリア様、マリエッタ様も一緒にルメリカに行けることになったのだ。
信号機令嬢のお三方のご両親は最初こそ難色を示したものの、私が行く事を告げたらあっさり許可が下りたらしい。謎だ。
それからはもう、ワクワクが止まらない。
なんせ転生して初めての旅行だ。
しかも行きたかったルメリカ!
ワクワクし過ぎて知らずにスキップをしていたくらいだ。
「ルメリカってお肉が有名なのね!あああ、楽しみ!楽しみすぎる!ステーキ!私のステーキ!」
浮かれ踊る私の耳に、いつの間にか戻ってきたシシィが囁いた。
「……お嬢様。リ・バ・ウ・ン・ド」
「…………ぐはっ」




