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王太子視点

 彼女が姿を現した時、その場にいた誰もが息を呑んだ。

 感嘆からだったのか、あきれ返っていたからなのか。

 それはわからないが、会場中が彼女を食い入るように見つめていたことだけは確かだった。


 私はどうだったかといえば、見たこともない斬新な衣装に身を包む彼女の凛々しさ、そして美しさに目はもとより心まで奪われており、固まったように動けなかった。



 風にサラリと揺れる栗色の髪は、乗馬の邪魔にならないようにか緩くえんじのリボンで結んである。その頭にはレースと羽根で飾られた帽子が載っており、華奢な顎の下で帽子ごとリボンで括られている。


 身を包むドレスは鮮やかなワインレッド。

 びろうどの生地で作られたそれは、ふくらはぎまでの丈であり、その前後に大きく入った切れ込みからは細かく縦ひだのついた白いスカートが覗いていた。

 スカートは背面に比べ前面が短い丈になっており足元には以前も履いていたシグノーラの新作のブーツがみえる。

 以前見た時よりも更に洗練され、精緻に施された模様が美しい。

 水仙の花のように膨らんだ袖から覗く白いフリルレースがワインレッドと対比して鮮やかだ。

 袖と同じく華やかなフリルの襟には、大きなサファイヤのブローチがキラキラと輝いている。


 今までの社交界では見たことのないドレスだった。普段、舞踏会などで流行している一般的なドレスは、大概が釣り鐘型のスカートに、襟ぐりを大きく開いたもので、多彩な装飾を施してある。

 しかしコゼットの着ているドレスはかなり装飾が抑えられたシンプルなもののうえ、顔以外のほぼ全てが覆い隠されている。

 しかし抑えられた装飾によって胸元のブローチが存在感を放ち、シンプルな形ゆえにドレスの配色の妙が光る。


 コゼットの衣装を吟味していると、ふわりと軽い足取りで彼女が歩き出した。

 その瞬間、私を含めた貴族達からどよめきがもれる。



「な……んて斬新な……」


「凛としていてとても素敵。女性なのに格好いいなんて!」


「私には着られませんわ、恥ずかしい」


「いや、女性のこのような姿もいいものですな。魅力的だ」


 皆、彼女に釘付けになりながら様々な感想を漏らしている。

 当然、好意的な意見ばかりではないが……


 しかしそれもそのはず。

 なんと彼女のスカートは、トラウザーズのように二つに分かれていたのだから。

 いや、これをトラウザーズと呼んでいいのかはわからないが……


 彼女が歩くたび、折り重なるように作られた白いひだが揺れる。

 ドレスよりも深い色合いのルビーレッドの皮で作られたブーツが艶を放ち、散りばめられた小さな宝石が瞬いた。



 これは……


 私の独断でいえば、彼女は美しい。

 斬新すぎるファッションではあるが、顔と手以外は全てが服に覆われているし、足の線もほとんど出ていないためはしたないと言うほどではないし。

 何より彼女の活動的で自由な雰囲気に合っているその服は、華奢なスタイルに相まってなんともアンバランスな魅力を醸し出していた。


 活発な彼女とどこまでも馬に乗ってかけて行きたくなる、そんな服だった。


 しかし、斬新すぎる。

 服も彼女も素晴らしく魅力的なことは間違いないが、難色を示している貴族も見かけられる。

 チラリと横目で父母の様子窺うと、母上は目を輝かせてコゼットを凝視していたが、対照的に父上はなんとも言えないような渋い顔をしていた。


 ふむ……

 とりあえず、母上の票は入るだろう。

 ホッとしつつ、私はイザベラ嬢に目を向けた。


 コゼットと少し離れた位置から会場に足を踏み入れたイザベラ嬢は、苛立ちを隠さずに眉を吊り上げていた。


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