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そして翌日。
朝早くから目を覚ました私は、入念なストレッチを開始した。
うんしょ。うんしょ。
しかし腹の肉が邪魔をして、前屈の姿勢が九十度にもならない。せいぜい百二十度くらいか。
ラジオ体操の要領で左右の脇腹を伸ばそうにも、腹の肉が邪魔して……以下略。
とりあえずストレッチになってるんだかなってないんだかサッパリわからないが、普段全く動かない私はうっすらと汗をかいていた。
時計をみると、いつもシシィが起こしてくれる時間までまだしばらくある。
私は庭園を散策することにした。
「ボブじいさん〜お花の様子はどうかしら〜」
普段よりペースをあげてテクテクと庭園の庭師のところまでいって声をかける。
「ハーイ、お嬢様、おはようございマース。いいところにキタネ!いまちょうど露薔薇が咲き始めたところなんダヨ!ハハッ」
ボブじいさんがおすすめの露薔薇のところまで案内してくれる。ちなみにボブじいさんは王国外出身で、変わった喋り方をする。
露薔薇はこの世界独特の花で、前世ではみたことがない。朝顔のように朝に咲き、夕方にはしぼんでしまう特殊な薔薇だ。
とくに咲き始めが美しく、朝陽に照らされた花弁は虹色の輝きを放つ。
「まぁ、なんて美しいのでしょう!こんなに美しいものが見られるなんて、今日はいいことがありそうだわ!」
虹色の輝きに満ちた露薔薇の茂みはまさに夢の中のような光景で、あまりの美しさにとても幸せな気持ちになった。
「それでお嬢様。今日はなにかあるのかな〜?ハハッ!」
ボブじいさんがこう聞いてくるのには訳がある。
私の趣味の庭造りだが、私はほぼ指示を出すだけで、実際の作業はボブじいさんがやってくれているのである。
何故って?
だってしゃがめないから。お肉のせいで。
何度かしゃがもうとトライしてみたものの、膝を曲げようとすると後ろにコロリと転がってしまうのだ。
しかも起きられない。
転ぶ→助け起こされる→転ぶ のループを繰り返した結果、仕事がはかどらないので頼むから自分に作業させてくれとボブじいさんに言われたのだ。
それ以来わたしは、さながら現場監督のように庭園造園の指示をだしているのである。文字通りどっしりと座りながら。
「いいえ、今日はなにもないわ。私、実はダイエットを始めたの。だからこれからちょくちょく散策にくると思うわ。しゃがめるようになったら作業の手伝いをするから、待っていてね!」
私の決意に胸を打たれたのか、しばし呆然としていたボブじいさんは、ふわりと微笑んだ。
「期待しないで、待ってまーすよー」
「期待してよっ!」
「だってお嬢様、食べるの大好きじゃないカーイ。ハハッ!」
ムカついたので部屋に帰った。




