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第2章27

 うぎぐぐぐ……

 くっ!しまらない……


 バチーーーーン!


 無理矢理閉めていた背中のボタンが大きな音を立てて弾け飛ぶ。

 それとともにコルセットから私の贅沢なお肉が躍り出た。


 ドレスの背中をパックリと開けたまま私が呆然としていると、王太子殿下の蔑むような声が聞こえた。


「まったく……食べ過ぎるからだ。あれほどおかわりは三度までと言ったのに……」


「ついっ!美味しすぎてついっ!いやあ、私のタルトオオオ!」


「ダメだ。これからはデザートは禁止だ」


 縋り付く私を振り払い、殿下は無情にも背を向けて歩み去って行く。

 私の頬を涙が伝った。


「タルト!いやああ!」





「いやああ!……はっ!夢か……」



 なんて恐ろしい夢だろうか。

 デザート禁止なんて耐えられない。

 恐怖のせいか額には汗が浮かび、心臓がパクパクいっている。


「お嬢様?!いかがなさいました?」


 慌てたようなノックの音とともに、私の返事も待たずにシシィが寝室に駆け込んできた。

 私は誤魔化すようににっこりと笑うと、口を開いた。


「な、なんでもないのよ。ちょっと嫌な夢をみて」


 上品にオホホ、と笑う私にシシィがじとりと疑惑の眼差しを向けてきた。


「……『タルト』と聞こえた気がするのですが……」


 ギクゥッ!


 なんと、聞かれていたとは!

 いや、決して後ろ暗いこと(つまみ食いとか)をしていた訳ではないのだが、令嬢たるものお菓子を取り上げられる夢をみてうなされるというのも情けない。

 ……今更だけど。


 今日は晩御飯を食べ過ぎてしまい、腹痛でさんざん苦しんだのだ。

 うんうんうなる私を見守るシシィは、心の底から呆れかえった様子だった。


 だって、何故か目の前にご馳走の山があったのだもの。

 何故限界を超えてもご馳走を食べるかって?そこに(ご馳走の)山があるからよ!


 そう言い切った私を見るシシィの目が死んでいたのは気のせいではないだろう。

 しかもその後、お腹を抱えて動けずにいる私に向かって二時間も説教をしてくれた。


「……まさか、あんな目に遭ってもめげずにつまみ食いを……?」


「夢をっ!タルトの夢をみたんです!神に誓ってつまみ食いなんてしていません!」


 シシィの地の底を這うような声音に、私は間髪入れずに返事を返した。

 両手を挙げて何も持ってナイデスよーポーズも忘れない。

 我ながらキレのある素晴らしい動きだったと思う。


 ジロリと私の方を一瞥した後、シシィははあーと特大のため息をついた。


「……わかりました。明日からはまたダイエットをされるのでしょう?今日はもうお休み下さいまし」


「はーい……」


 呆れるシシィを尻目に、しょんぼりと肩を落として私は布団に入ったのだった。


 そう。最近食べ過ぎていたせいか、少しリバウンドしてしまったのだ。

 でも仕方ないことだと思う。

 だって秋だから!

 天高く馬肥ゆる秋だから!


 しかし、自分をモデルにしたファッション対決をするにあたって、このままではいけないと私は決意を新たにしたのだ。

 いくら衣装が素敵でも、私がデブデブだったら衣装の魅力まで目減りしてしまうかもしれないし。


 第一、今から太っていたら冬にはさらに栄養を蓄えてしまうかもしれない。

 いっそ冬眠でもするならこの脂肪も役に立つのに。


 残念ながら冬眠はしないので、明日からダイエットを開始することにしたのだ。

 そのためお菓子は狩猟会が終わるまでお預けだ。


 狩猟会はおよそ一ヶ月後……

 耐えられるのか、私。


 この先の苦しい一ヶ月を思い、私は涙で枕を濡らしたのだった。



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