第2章25
「うーむ」
私はソファに座り込んだまま、うんうんと唸っていた。
決してお腹が痛いわけではない。
今も絶好調にお腹が空いている。
何故って?
にっくきコルセットのお陰で、ティーパーティーで何も食べられなかったからだ。
もちろん一騎打ち勝負の事も考えている。
しかし、考え込もうとすればするほど腹の虫が邪魔をするのだ。
私は思考に集中するため、眉間にシワを寄せながら腕を組み、むむむと唸った。
まずは形からだ。
考える人のポーズってどんなんだっけ。
唸る私を見ているシシィも心配げに眉を下げている。
一騎打ち勝負に参戦するということは、王太子妃になると意思表明したということ……
王太子妃になる覚悟、覚悟は……
「はあ……」
「お嬢様?大丈夫ですか?」
うつむく私の顔をシシィが覗き込む。
「うん……もうダメだわ」
「お嬢様!思い詰めないで下さいまし!」
「うん。……お腹すいた。もう無理……」
私はパタリとティーテーブルに倒れ伏した。
ぐぎゅるるるるるるるるう
「大体ね、王太子妃候補に名乗りを上げたところで、殿下に選ばれなければ王太子妃にはなれないのよ。今から悩んだって無意味ってものじゃない?」
食事をとる部屋に向かって歩いている間、私はシシィにとうとうと訴えていた。
別にシシィに対して言い訳をする必要はないのだが、なんとなく後ろめたい思いがあるせいか、沈黙になるのが怖かったのだ。
「……お嬢様は、王太子殿下のことをお好きではないのですか?」
私より一歩後ろからついてきているシシィが、こちらを見ながらボソリと呟いた。
「そんな、そんなことある訳ないわ!だって殿下はとても素敵な方だもの。お優しくって、正義感が強くって……勿論それだけじゃないわ!見たことないくらいの美形だし、サラサラの銀髪とか憧れるし。あのエメラルドグリーンの瞳に見つめられるとなんていうか、こう……」
「こう?」
そこで私はシシィの生温かい目に気付いた。
「お尻がむずがゆくなるというか……」
「なんですか、それは……」
シシィがガクゥと肩を落とした。
「と、とにかく!あんなに素敵な殿下が私なんかを選ぶ訳がないわ」
こんな元おばちゃんのまがい物令嬢なんて……
私はふ、と瞳を翳らせた。
前世を思い出してから、心の奥底にはいつも『ここは私の世界ではない』という感覚がこびりついている。
幼い頃は特に強かったその感覚は、成長していくうち記憶とともに徐々に薄れてきてはいるが……
なにせ五十年近く日本で生きていたのだから、たかたが十六年程度の生活では太刀打ちできないのかもしれない。
それにこちらの世界に完全に馴染んだら、前の世界を忘れてしまいそうで怖いのだ。
大人になるまで見守れなかった私の大事な娘。
あの子は元気でいるだろうか。結婚はしたのかな。
……そういえば、旦那はどうしているだろうか。完全に忘れていた。
ごめん旦那。
娘が大きくなる頃には完全に友達状態だったが、幸せでいてくれたらいいなあ。
私は、だんだんにボンヤリとしか思い出せなくなってきた前世の記憶に思いを馳せた。




