第2章23
「コゼット!一騎打ちなどする必要はない!」
「そうですよ。レミーエの為に怒ってくれるのは嬉しいですが、あなたがそこまでする必要は……」
殿下とレミアスが焦ったように言い募る。
二人とも、私が一騎打ち勝負に極力関わらないようにしていた事に気付いているのだ。
何故か毎回毎回、解説やら会場やらで関わる羽目になっているが、自分から望んでのことではない。
二人の後ろでは、ジュリア様たちも不安げに瞳を揺らしていた。
ゲオルグはタルトを食べている。
三つ目か、この野郎!
心配げな友人達に向けて、私はニッと笑った。
「女には、引けない戦いがあるのよ!」
私は腰に手を当て、威風堂々と言い放った。
「話は聞かせてもらいました」
その時、ガーデンテラスに凛とした声が響いた。
サアッと音を立てるように人垣が割れ、背の高い美しい女性がゆっくりと近づいてくる。
月の光を集めたような美しい銀髪を結いあげ、ラベンダー色のドレスを纏った上品な女性……王妃殿下が、対峙する私達の前に歩み寄る。
「母上……」
なぜここに。王太子殿下の呟きが聞こえる。
全く同じ気持ちだ。
以心伝心。
驚愕に目を見開きつつも、生徒達は一斉に礼をとった。
「おもてをあげよ。そなた達の話は聞かせてもらいました。一騎打ち勝負をするとのこと……勝負の内容は決まっているのかしら?」
「い、いいえ。王妃殿下」
王妃殿下に視線を向けられたイザベラ様が慌てて答える。
続いてチラリと私に視線を投げた王妃殿下に、私はブンブンと首を振った。
「それでは、私が決めて差し上げましょう。今度、王家が主宰する狩猟会があるのはご存じかしら?」
イザベラ様と私を含めた貴族達は、肯定の意を込めて瞳を伏せた。
それを見た王妃殿下は鷹揚に頷きつつ言葉を続ける。
「二人には、そこに各々の考える最高の装いで来てもらいます。衣装の事で争っていた様だし。これ以上相応しいものはないでしょう。勝負の判定は私と国王陛下、そして王太子が行います」
「そんな……っ!王太子殿下はコゼット様を支持するに決まっているじゃありませんか!不公平ですわ」
王妃殿下に向かって、イザベラ様が抗議した。
すごいなイザベラ様。
王妃殿下に抗議するなんて鋼の心臓か。
王妃殿下が不快げに眉をひそめてイザベラ様に目をやると、彼女はヒッと小さく呻いた。
「私達が不正な判定をするとでも?……随分ねえ」
王妃殿下の冷たい声音に、イザベラ様の顔色は青を通り越して白くなっている。
彼女は真っ白な顔に汗を滲ませ、震えながら頭を下げた。
「……失言でございました。申し訳ありません」
「よろしくてよ。……二度はないけれど」
イザベラ様を見もせずに言った王妃殿下は、パチリと扇を閉じるとにっこりと優雅に微笑んだ。
「それでは、狩猟会の日を楽しみにしていますわ。ごきげんよう」
王妃殿下は去り際に、私に対してパチリとウインクを投げてきた。
「へ……?」
私は意味がわからずボケっとしたまま去りゆく殿下の背中を見送ったのだった。




