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第2章22 コゼットの覚醒

「イザベラ様……」


 騒がしかった会場が潮が引くように鎮まり返る。

 誰が発したのだろうか、呟きが風に消えていった。


 ちらりとレミアスを窺うと表情を無くし、手を握りしめてイザベラ様を見詰めていた。

 ジュリア様達も顔色を青くして唇を震わせている。


 その様子をみた私はイザベラ様をキッと睨み据えた。

 私への暴言など何を言われても流せるが、大切な友人達が傷付けられるのは見ていられない。

 最早、許せない。


 前回のイザベラ様との事件の後、お父様やお母様、シシィなどに彼女の事をそれとなく聞いて回った。

 彼女の父上であるゴドウィン侯爵はドランジュ公爵が断罪された後、空位になった宰相位に就任した。

 ジュリア様の父上マルフォイ侯爵も候補に挙がったものの、ドランジュ公爵と近しすぎたことが彼の宰相就任を妨げたそうだ。


 ゴドウィン侯爵が宰相となったことで、その長女であるイザベラ様は一躍、王太子妃の有力候補に躍り出た。

 以前、王太子殿下に対して諌めるような事を言ったのも、父親の権勢をかさにきてのことだろう。


 殿下の寵愛を得ていると言われた私が言うのもおかしいが、それはつまり自分にも目を向けろと言いたい事が透けて見えすぎている。

 私よりも余程王太子妃に相応しい身分である彼女が、殿下の周りをうろちょろする私の事を気にくわないのも当然かもしれないが。


 私の視線とイザベラ様の視線が絡み合う。

 視線で人を射殺せるならば、私も彼女もハリネズミ状態だろう。


「……あら、コゼット・エーデルワイス伯爵令嬢ではありませんか。あんまり地味なものですから、気付きませんでしたわ」


 彼女は私の全身に上から下まで視線を流し、フッと鼻で笑いながら言葉を発した。

 私のドレスは最新の生地を使っているが、動かなければその美しさは発揮されない。

 このドレスのキモは、ドレスがひらめいたときに浮かび上がる銀糸の輝きにあるのだから。


 私は彼女に見せつけるように優雅に礼をし、頭を上げると同時に柔らかなドレスの裾をわざと大きくひるがえらせた。


 ピンクのドレスがさらりと流れ、銀色の煌めきが浮かび上がる。

 いつの間にか私達を取り巻いていた生徒達から、感嘆の声が漏れる。


 私はことさら優雅に微笑んだ後、わざと困った顔をし、首を傾げた。


「ごきげんよう、イザベラ様。地味でございましょうか……私、流行に明るくないもので、今日のドレスもアクセサリーも、全てザムス夫人ご本人にデザインして頂いておりますの。イザベラ様のアドバイスを夫人ともよく相談させて頂きますわ」


 イザベラ様の表情が、悔し気に歪められた。

 ザムス夫人は自分の気に入った客にしかドレスを作らない。

 シシィによればイザベラ様が何度注文しようとしても断られ、悔し紛れにザムス夫人の悪口を言い回っている事は、貴族令嬢のほとんどが知っている事実だそうだ。


 周りのギャラリーからクスクスと笑いが漏れ、イザベラ様の顔は真っ赤に染まり、ますます憎らし気に私を睨みつける。


「ザムス夫人の……。そう、夫人ももっと相手を選ぶべきね。伯爵令嬢風情にご本人がデザインするなんて彼女も堕ちたものだわ。伯爵程度が調子に乗って!」


 悔しまぎれのようにそう呟くイザベラ様は、もっと周りの視線を気にするべきだ。

 伯爵は階位でいえば真ん中だが、あまり多くない公爵、侯爵家に比べて伯爵以下は貴族の中でも圧倒的多数を占めるのだから。

 案の定、イザベラ様に対する視線が不快げなものに変わる。


 私はふっと笑い、挑戦的に彼女を睨みつけた。


「伯爵令嬢風情が失礼致しましたわ。……けれどご存知ですかしら。この学園にはある制度がございますの」


 イザベラ様が考えるように眉根を寄せるのを見詰めたまま、私はきっぱりと言い放った。


「……イザベラ・ゴドウィン様。このコゼット・エーデルワイス。あなたに一騎打ちを申し込みます。所詮は伯爵令嬢、あなたの敵ではございませんでしょうけれど。……もちろん受けてくださいますわよね?」


 にっこりと微笑む私に、イザベラ様は唇を震わせた。


「……いいでしょう。受けて、たちますわ!」


 かくして、私の初めての一騎打ち勝負への参戦が決まったのだった。


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