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第2章21

「皆さんがレミーエの事を気にかけてくださって嬉しく思います。……本当にありがとうございます」


 レミアスが嬉しげにいった。

 これまで、レミアスがレミーエ様の事を話すことはほとんどなかったし、私達がレミアスにレミーエ様の話をする事もなかった。


 それくらい根深くあの事件は私達を含めた貴族達の中にしこりとして残っていた。

 アルフレッド先生とドランジュ公爵の断罪に伴って、それに加担した何人かの貴族は降格または爵位の剥奪という罰を受けている。


 まだ学生の身である私達に大きな影響が出ることはなかったが、レミーエ様を含めた何人かの生徒がひっそりと学園を去った。


 そんな不穏な雰囲気は、事件直後に少なからず私達に影を落としていた。

 時が経ち大分落ち着きを取り戻したとはいえ、レミーエ様の不在は私達の心にいつも魚の小骨のように引っ掛かりを残していたのだ。


 それは決して悪い感情ではなく、異国に留学する彼女への心配や、不安などの案じる気持ちだった。

 しかしレミアスの受けた心の傷は察するに余りあり、レミーエ様の話題を簡単に口に出すことが憚られていた。


 だがそれは、お互いに気を使いすぎていた結果だったと今わかった。

 私は殊更明るく笑いながら、口を開いた。


「私、ルメリカについて少し調べましたの。商人の国なんて言われていて、とっても興味深い国でしたわ!私も是非一度行ってみたいと思っておりますの」


「私も最近、紀行本を読みまして……秋は一面の稲穂が風に波打ち、黄金の海のようだとか。見てみたいですわ」


「実は、私もルメリカの商人に色々と話を伺ったのですが……ルメリカの首都リンゴスタは様々な人種が溢れかえっていていつも賑やかだそうですわね」


「それに、異国の楽団や旅芸人などがいつも公演を行っているそうですわね」


 私の言葉をきっかけにして、三人の令嬢方が次々と口を開く。


 呆気にとられていたレミアスは、ポカーンとした後くすくすと笑いだした。


「ふ、ふふ、あはは!皆様、私よりもずっとルメリカに詳しそうだ!」


「まあ!」


 笑い転げるレミアスに私達は顔を赤くし、気まずげにお互いを見合った。


「……うふふ。私達みんな、レミーエ様のことが気になって仕方なかったのですわね」


 悪戯っぽく言った私に、ジュリア様はツンと顔を反らせた。頬が赤いままなのは全く隠せていなかったけれど。


「……当たり前ですわ。お友達ですもの!」


 ふふふ!

 私はなんだか心がほっこり温かくなって、思わず笑みを零した。


「……コゼット。改めて謝らせて下さい。レミーエが色々と……すみませんでした」


 かたい声音に振り返ると、レミアスが私に頭を下げていた。


「レ、レミアス!やめてちょうだい。私は何も気にしていないから!」


 ジュリア様達は、レミーエ様が私の誘拐に加担した事を知らないのだ。私は慌ててレミアスを押し留めた。


「けれど……」


 なおも頭を下げようとするレミアスと、止める私が攻防を続けていると、ジュリア様達が声を上げた。


「コゼット様、レミアス様。私達も謝らなければなりません。私達、レミーエ様がコゼット様に嫉妬の想いを抱いていた事を知っていたのです」


「けれど、私達は思い詰めていくレミーエ様をお止めする事が出来なかった」


「レミーエ様があなたを連れ出して行った時も、私達は見ているだけでした。その事を、お詫びせねばとずっと……」


「ジュリア様、エミリア様、マリエッタ様……」


 令嬢達の目から、ポロリと涙がこぼれる。

 私はそれをそっと順にハンカチで押さえた。


「いいのです。私こそ、レミーエ様のお気持ちに気付けなかった。……私達皆、不器用ですわね」


「コゼット様……」


 私達はお互いを抱きしめ合った。


「ずびっうう……泣けるぜ。ずびー」


「皆がお互いを思いやる事は大切だな。私もレミーエの気持ちに気付けなかった。私も同罪だろう。すまなかった、レミアス」


「殿下……」


 その時、しんみりとした雰囲気を破るように声が響いた。


「ああら、晴れやかな創立祭のパーティで随分と辛気臭いお話をされていますのね」


「罪人の娘の話など……あの方達も事件に関わっていたのではなくて?」


「まあ、恐ろしい……」


 そちらを向けば案の定。

 イザベラ様と……プリシラ嬢達だった。


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