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第2章20

 晴れ渡る秋晴れの気持ちいい天気の中、学園のガーデンテラスで創立祭のティーパーティーが開催された。

 この日のために庭の植物は秋の花々に植え替えられ、白いクロスのかけられたテーブルも花で飾られている。


 花とともにテーブルを華やかに彩るのは、季節のフルーツを使った目にも鮮やかなスイーツの数々。

 アップルパイを始め、つややかな梨のタルト、ぷるりと揺れるマスカットのゼリーにカボチャのプディングやスイートポテト……


 拷問か。


 ドレスを試着してからというもの、私は少しでもコルセットと胃の間に余裕を持たせようとダイエットに励んだ。

 しかしその甲斐もむなしく、余裕が出た分さらにコルセットを締められるというシシィによる鬼の所業が待っているだけだった。


 目の前にぶら下げられたニンジン……もとい、数々のスイーツが私を責めさいなむ。


「コゼット様。このアップルパイ、とっても美味しくってよ!生地はサクサクで、りんごはシナモンがきいているの!」


「あら、こちらの梨のタルトも最高ですわ。クッキーの塩加減と梨の甘さが絶妙!梨の食感が残っているのも楽しいですわね」


「いえいえ、こちらのマスカットのゼリーの方が!マスカットの実に少しお酒の香りがして、大人の味わいですわ。滑らかでいくらでも食べられそう!」


 同じテーブルについているジュリア様たちがスイーツを食べてニコニコしているのを見て、私の忍耐は限界を超えた。


 くおお、ちょっとだけ、ちょっとだけだからーー!


 私が目の前のプディングに手を伸ばそうとした時、それを遮るようにすぐ近くから声が掛かった。


「やあ、コゼット。今日は一段と美しいね。まるで秋の妖精のようだ」


 私は伸ばし掛けた手をギギギと戻しながら振り向いた。

 さようなら、私のプディング……


「殿下、ご機嫌麗しゅうございます。お褒めに預かり光栄ですわ。……ところで殿下、シシィに何か言われたりしました?」


「シシィに?いやなにも言われていないが」


 そうか。あまりのタイミングの良さにシシィのまわし者かと思ってしまった。


「なにか用でもあったか?」


「いえいえ、おほほ。なんでも御座いませんことよ。おーほほほ」


「「「おーほほほ」」」


 誤魔化すように笑った私の後に、謎のバックコーラスがユニゾンで続いた。

 思わずバッと振り向くと、信号機令嬢方が自らの口を押さえて目を見開いていた。


「し、失礼しました。つい、癖で」


「条件反射って怖いですわね」


「体に染み付いているのですわ」


 三人がごにょごにょと呟いている。


「そういえば、レミーエ様はお元気かしら……もう、ルメリカには到着されたのでしょうか」


 ジュリア様がポツリと呟いた。

 レミーエ様に手紙を送ってから二週間ほど経ったが、まだ返事は来ていない。


 前世とは違い、この世界には手紙を運ぶ専門の郵便屋さんはいない。国内の貴族同士の手紙は使用人などが届けるので確実だが、国外への手紙はそちらの方面に行く商人などに渡すのが常だ。


 そのため手紙が届くのに時間がかかるのは当たり前だし、宛て先に届かない事だってあるのだ。


「きっと、もうそろそろ着いていらっしゃるわ。もうすぐ手紙が来るかもしれませんわね」


 私は慰めるようにジュリア様に微笑んだ。


「そうだな。ルメリカとの国境までは一週間ほど。首都まではさらにかかるがそろそろ着く頃だろう。きっと着いたら手紙をくれるさ」


 殿下も優しく声を掛けてくれる。


「やあ、お嬢様方。なにを落ち込んでいらっしゃるのかな?」


「よお!プディング食べたか?あれ、うまいなー!」


 そこにレミアスとゲオルグが連れ立ってやってきた。


 ……おのれゲオルグ。お主の手にあるプディングを寄越せ!

 私の目がギラリと光る。

 ……お腹減った。


「レミアス、ゲオルグ。今、レミーエの話をしていたんだ。レミーエはもうルメリカに着いたのかな」


 殿下の言葉を受け、レミアスは驚いたように私たちを見回した後、ふわりと微笑んだ。


「レミーエは今、ルメリカとの国境の街、メディウスに居る頃だと思います。メディウスでは今の時期にお祭りをやっていて、それを見物出来るように手配したので」


「まあ、お祭り!」


「楽しそうですわね」


 レミーエ様が楽しんでいるといいなあ。

 私達は遠くメディウスにいるレミーエ様の事を想って、皆で空を見上げたのだった。


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