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第2章18

 アルトリア王国の女性は、足を出すことがはしたないとされている。

 そのため、足のラインか出てしまうズボンを履くことはない。それは平民の女性でも同じで、農作業をする時でもスカートだ。


 私としては 是非ともパンツスタイルをお勧めしたいところなのだが、世間の常識の壁というのは大変厚く、一歩を踏み出せないでいた。

 そのため私は乗馬をする時には、サイドサドルと呼ばれる横座り用の鞍を使ってスカートで騎乗していた。

 鞍の前方にあるホーンと言われるツノに前側の足を掛けて乗るのだが、慣れるまではかなり怖かった。


 この乗り方は、男性のように跨るよりもハードルが高いと思う。

 これが、女性があまり乗馬を好まない原因のひとつではないかと思うのだ。

 サイドサドルでの騎乗はかなり女性らしく、優雅で美しいことは間違いないのだが。


 ザムス夫人を前に、私は少し逡巡した。

 これは、勇気を出すべきかもしれない。


「女性用の乗馬服なのですが」


 私があえてドレスと言わず乗馬服と言った意図に気付いたのか、ザムス夫人は軽く目を見張り、先程よりも視線を強くした。


「パンツスタイルを取り入れたく思います」


「パンツスタイル?」


「男性のように、トラウザーズを履くのです」


「……!お嬢様!」


 シシィが悲鳴のような声を上げた。それほどにアルトリア王国で女性がズボンを履くことなどありえないのだ。

 私の言葉に、ザムス夫人は深く考えるような仕草をした。


「……商売をする者としては受け入れられませんザマス。売れるとは思えません」


「そう……よね」


 私はガックリと肩を落とした。


「しかし。ひとりのデザイナーとしては……面白いザマス」


 ザムス夫人はニヤリと笑った。

 顔を明るくする私と対照的に、シシィは顔色を悪くしてふらりとよろめいた。





 私達は日が落ちて暗くなっても時を忘れて語り合い、暴走しそうになるたびにシシィによる軌道修正を受けながらデザインをまとめていった。


 ザムス夫人によれば、女性のズボンはすぐには受け入れられないだろうということだった。

 受け入れられるには、スカート以外の選択肢を提示していく事で、少しずつ浸透させることが重要だ。


 まず最初の段階は、キュロットスカートだ。

 ドレスと同じようにスカート部分を作るが、その前後に大きく切り込みをいれる。


 そのスカートの下に、薄い素材を重ねた長いキュロットを履くのである。丁度、日本の袴をシルクやオーガンジーで作るような感じだろうか。


 足のラインを隠し、かつ動きやすさを取り入れる。このドレスならば男性と同じように馬にまたがって騎乗できる。


「第一段階はこれでいきましょう。細かいデザインや形はザマス夫人にお任せするわ。……私の分と……お母様の分のドレスをお願いするわ」


「ザムスでございます。承りましたザマス」



 お母様は社交界のファッションリーダーだ。スリッパですら流行らせたお母様ならば、必ずやこのドレスを流行らせてくれるに違いない。


「採寸もあるでしょうし、お母様には私からお話ししておきます」


「エーデルワイス夫人のドレスは全て私が作っておりますゆえ、型が当店にごザいマス。仮縫いの段階までにお話下されば結構ザマスよ」


「わお。初耳ザマス」


 そうだったのか!

 さすがファッションリーダー。


 私とザムス夫人はガッチリとかたい握手を交わし、その日の会談を終えた。

 なんとも長い一日だったが、私の心は浮き立つようにワクワクしていた。


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