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 料理長が腕によりをかけた夕飯は美味しかった。

 それはもう、一口目からおかわりを要求してしまいそうになるほどに……


 しかしダイエットを決意している私は、頑張っておかわりを一度にとどめた。

 うぅ……お肉……


 脂ののったお肉はそれはもうジューシーで、噛むたびに肉汁がほとばしる。

 焼き加減も絶妙で、硬すぎず、柔らかすぎず……

 ステーキにかけられているソースが後味をさっぱりとさせているのもニクイ。

 肉だけに……

 なんつって。


 多分、多分だけど、私が太っているのは料理長の腕が良すぎるのも原因のひとつだと思う。

 だってこんなに美味しくなかったらおかわりなんてしないもの。

 うん。確実に料理長のせいだな。私の肥満は。

 まったくもう……もぐもぐ。



「いやぁ、倒れたと聞いて肝を冷やしたが、元気そうでなによりだよ。しかし、もうおかわりしなくていいのかい?いつもはあと三皿は食べるのに……食欲がないなんて、もしやまだ具合が悪いのかい?」


 お肉の味に浸っていた私は、お父様の声でハッと我に返った。

 お父様は慈愛に満ちた眼差しで私を見つめている。

 思えば、私がご飯を食べている時はお父様はいつもこんな風に私を見つめていた。

 なんだろう、なにか……あの目に見覚えが……



 …………ムツゴ◯ウ…………?



 なんだかイヤな気持ちになったので、その先は考えるのをやめた。




 お父様は、金髪碧眼の、まさに童話に出てくるような貴公子である。年齢は三十を越しているのにもかかわらず、まるで二十代前半のような若々しさを保っており、花のような美貌のお母様と並ぶと一幅の絵画のような美しさだ。


 この両親の血を引いているのだから、私の残念な容姿はどう考えても料理長のせいであるに違いない。


「いいえ、お父様。私はダイエットをすることにしたのです。だからおかわりはもうしないのです」


 そう。このお皿で最後。最後……

 思わずお皿をじとっとした目で見つめてしまった。


 お皿から無理やり視線を引き剥がすと、お父様の美しいお顔が驚愕に歪んでいた。

 ガタン!と椅子を蹴って立ち上がると、大仰な仕草で天を仰ぐお父様。


「ダイエット……だって?!あの、世にも過酷という噂の?!同じものを食べ続ける拷問をされたり、暑い部屋に閉じこめられたり、なんの味もしない水を大量に飲まねばならなかったり!そんな恐ろしい拷問に耐えられず挫折を繰り返した結果、精神を病むものもいると聞く。しかも奇跡的に成功したと安心したのもつかの間、ほぼ全員が例外なくリバウンドという呪いにかけられるという!」


 どこの牢屋の話だそれは。

 しかしあながち間違ってもいないところがよくわからない。


「何故だ……何故、私の可愛いコゼットが、そのような過酷な拷問を受けなければならないのだ……」


 ついに顔を覆って泣き出したお父様に、私、コゼットは……



 はっきりいってドン引いた。



 なにこのひと。

 気持ち悪いものを見る目でお父様を見つめていると、お母様の優しい声が割り込んできた。


「貴方、大丈夫よ。そもそもダイエットは美容のために自分から進んでするものであって、拷問ではないわ。私たちの可愛いコゼットが、さらに可愛くなろうとしているだけなのよ。ここは温かく見守りましょう」


 ハッとしたようにお母様に振り返ったお父様は、お母様の足元に膝まづいて祈り始めた。

 なにやら、おぉ、神よ……という声まで聞こえてきた。


 うん、なんか面倒くさいから、もうどうでもいいや。

 二人の世界にはいっている両親をほっぽって、私は最後のお肉を味わった。





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