再侵入
トリカ卿の屋敷に再潜入するシェラガ。
彼が自分を狙った理由を確かめるために。
だが、そんな中、トリカ卿は古代帝国の出土品をコレクションしている事に気付くシェラガ。
彼もシェラガと同様考古学を好むのか?
そんな中、ガイガロス人とも違う、聖剣の光を纏う集団との戦闘に巻き込まれる。
戦友に『魔王になれない男』と評された聖剣の勇者が、トリカ邸の再侵入を決めたのは、『術』の訓練を終えた翌日だった。最初の侵入……というよりは強制連行に近いが……から七日ほど経っていた。
テキイセの治安維持隊の詰所に、副隊長レベセス=アーグを頼って訪れたものの、詰所で術の訓練を行う事は殆ど出来なかった。
そもそも、そんなものを軍の敷地のど真ん中で行ったら、国内外にとんでもない混乱を引き起こしてしまうのは明らかだった。
『術者が出た』。
まるで物の怪が出たかのような表現ではあるが、実は、これはこの地で生きていく人の≪術≫に対する心証を端的に示している。人間が魔法を使うと喧伝される事は、この地で生活していくに当たって、様々な面倒事を引き起こすことがままあるからだ。
端的にいえば、術者に対する差別だ。
術というもの自体の理解が低いこの世界では、術者=得体のしれない存在、という図式が成り立つ。かのシェラガに言わせると、「一般の人間だって術は使っている。術は現象を引き起こす行為。それを人の体を使って起こすか、道具を使って起こすかの違いだ」そうなのだが、どうもこの考えは、他者には受け入れ難そうではある。
そして、≪術者≫の存在が引き起こす問題は、それに留まらない。
≪術者≫の存在は、一人でも最低一個小隊程度の戦闘力を持つといわれている。言わば人一人が兵器と化すわけだ。
それ故、国家を始めとする様々な組織は、術者を様々な方法を用いて、自組織内に取り込もうとする。その動きは組織の大小に関わらない。むしろ、組織の意思決定があたかも個人の心の動きのようになされるところは、組織が大きな一つの生命体のようですらある。
一つの生命体、とりわけ人間の心の動きというものは恐ろしい物で、『個』の持つ力が周囲より少し秀でたもの、すなわち優越状態だったならば、それは信頼の対象になる。しかしながら、『個』の持つ力が圧倒的だった場合、すなわち卓越状態だったならば、それを認知した人間たちが覚える感情は、恐怖だけだ。
その感情が、対象の排除という形に向かうか、禁忌という形になるかはその時々によるのだろうが、どういう形で発現しようとも、その根底にある人々の行動心理は、一重に恐怖からの逃避なのだ。
なぜ、優越ならば優遇するが、卓越だと恐怖するのか。
少し秀でた程度の力なら、ある程度の集団の力を以てすれば抑えられるだろうという心理が働く。しかしながら、集団でも抑えきれないとなると、もう降伏するしかない。後は、その存在の機嫌を損ねぬよう腫物を触るように『接待』するだけになる。抹殺、排除するタイミングを狙いながら。
やはり、有用な力は優遇し、圧倒的な力には従いながらも、常に排除、あるいは利用する方法を模索しているのは、常に頂点またはそれに準ずる地位で、力に関与することで様々な恩恵を享受したいという人間……組織の集合体としての集団も含む……独特の感情なのかもしれない。
そして今回、シェラガが到達しようとする状態はまさに卓越が与える恐怖そのものだった。
もし、シェラガの能力が白日の下に晒された場合、まずは自国からアプローチがあることは想像に難くない。それをやり過ごしたとして、その後は他国からのアプローチになるが、最初は金による引き抜きから始まり、終盤には親族の誘拐脅迫、最終的には本人の暗殺にまで進むに違いなかった。そして、他国からアプローチがあると自国側が知れば、対象の反応如何で、排除にベクトルは向く。
結局、卓越した存在であればあるほど、自国からも他国からも、取り扱いが厄介になった時には排除対象となってしまうという事だ。
正に、SMGがシェラガに対して行ってきた聖剣の奪取行為が、文字通りなぞられる格好だ。SMGからではなく、自分の祖国であるはずのラン=サイディール国、とりわけテキイセの貴族たちから。周辺のシェラガの力を得ようとした国家から。
恐ろしいのは、聖剣の時のように簡単にはいかないという事だ。
聖剣の場合は、対象物を単にどのような形でも奪い取ればよかった。それは、力があるのは使用者ではなく、聖剣そのものであるという概念が存在したからだ。更に言えば、聖剣を持ちさえすれば、圧倒的な力を手に入れることが出来る。
しかしながら、それが術の場合は、完全に所有物ではなく個人の技術となる。切っても切れない関係になるのだ。
そうなれば、以前のシェラガのように、聖剣は不要なので譲渡し、自分は中立である、というスタンスは取れない。文字通り、味方となって戦力増強に一役買うか、敵となって脅威増加に一役買うかの二択になってくる。中庸は有り得ないわけだ。
いずれにせよ、術が使えることが知られる事は、シェラガにとってはマイナスでしかない。
今回、術の事は勿論、聖剣を発動できることも知られてはいけない事を、シェラガはレベセスに耳にタコが出来るほど説かれた。能ある鷹なら爪隠せ、という事なのだろう。
術という名の≪魔法≫が使える事が一般的な社会であれば、聖剣は身体能力を増幅させ、術の威力も増す便利な道具に過ぎないのだろう。
だが、術という発想を持っていない人間たちがほぼ全体を占める社会であるなら、術者として優れていればいるほど、人間が一人大量殺戮兵器になるという事に他ならない。当然聖剣を発動した場合も同じことが言える。
そのことをレベセスに指摘された瞬間、シェラガは思わず、聖剣を発動させた回数を指折り数えたものだった。そして、その状況を思い浮かべては、不特定多数の人間に見られていないな、と胸を撫で下ろすのだった。同時に、SMG頭領のリーザが、シェラガ達をなぜこれ程にSMGの特派員として欲したか、思い至るのだった。
深夜、トリカ邸の警備が薄くなるだろう時間を見計らい、シェラガはその場に姿を現す。
トリカ邸の広大な敷地は、テキイセの外れの平地に位置するため、高台などから中の様子を伺い知る事は出来ない。だが、彼はそのことに慎重になりこそすれ、恐れを感じることはなかった。
元々遺跡の探索という作業は、何もわからない場所で、じっくりと安全を確保しながら進行し、いつ何時出現するかわからない研究対象を探す。その緊張感の度合いは計り知れない。酷いときは、丸一日かけて数メートルしか進行できない場合もある。遺跡の建造物そのものに施された様々な細工が、建物の一部としてではなく、単独の出土品と判断されれば、進行を止め、解析作業に移るからだ。
注意を払うべき対象、とりわけ敵が人間であれば、行動パターンなどもある程度分かりやすい。だが、遺跡の探索は、相手が人間であるとは限らない。
シェラガの左頬の傷は、かつての遺跡探索時に急襲してきた翼竜達との戦闘の記録だ。
かつて人間が生活していた遺跡で、太古に絶滅したはずの翼竜達の襲撃を予想出来る者などいる筈もない。
文字通り、古代帝国の遺跡は何が起きるかわからないのだ。
それを知るシェラガは、相手が人間である時点で、油断はせずとも過度の緊張を強いられることはなかった。
今回は、遺跡探索としては相当に重装備だった。と言っても、軍の装甲兵が着るような甲冑を装備していくわけではない。いつもの厚手の麻の服の下に、細い針金で編み上げられた鎖帷子を着込んでいるだけだ。
屋敷の人間に見つかれば、ほぼ間違いなく戦闘に突入するはずだ。その戦闘時に負傷を避けるための措置だった。
起きうるイレギュラーイベントが対人間との戦闘だけであると予想されるため、考古学の研究者としては異例の、より戦闘向けの装備で侵入に臨んだ。
無論、聖剣を発動した戦闘になれば、防御力も≪オーラ=メイル≫によって、地肌であっても普通の鎧の数倍の防御力は取得できる。だが、術の使用は愚か、聖剣の発動さえ隠したいシェラガがからすれば、できれば聖剣の発動なしで諸々の決着をつけたかった。
夏の終わりを告げる風が優しく大地を撫ぜ、秋の虫たちの大合唱には、不思議と圧力すら感じられる。一匹一匹の鳴き声は風流な物なのだろうが、その数千数万倍のそれが、お互いの存在を掻き消し、自己主張しようする。それが耳に、体に直接叩き付けられてくるのだから、聞く者が、秋の虫の声から殺意にも似た中毒性のある息苦しさを感じ取ったとしても、それはそれで不思議ではないのかもしれない。
テキイセの町の敷地内にあるはずのトリカ邸は、漆黒の闇に溶け込むようにして鎮座していた。周囲が広大な草原のように見えるため、背後で今まさに眠りにつこうとしているテキイセの街並みも、トリカ邸に臨むシェラガの視界には入らない。
「人の気配は全くないな。これだけの規模の屋敷であれば、家の人間以外でも何十人かはいそうなものだが」
闇に乗じ、固く閉ざされた鉄の二枚扉の前まで一気に近づいて、シェラガは建物の中の様子を伺う。この鉄扉は、数日前、彼が荷車にて運び込まれた門と同じ造作ではあったが、位置的には少し北西に位置する。かつての要塞として機能していた時の、食料搬入口だろうか。
目で見る限り、危険はないように思える。だが、その判断が往々にして間違っていることを、シェラガは何度も経験している。
早速、シェラガは術を試すことにした。
術といっても、シェラガが割に得意とする≪氣功術≫だ。
人間の生命エネルギーである≪氣≫をコントロールし、体の一部として使うことで周囲の様子を探る。氣功術の初歩といえば初歩なのだが、聖剣の力を引き出せるシェラガからすれば、それほど気負うほどのものではない。
まずは、聖剣の力を引き出すのと同様に、聖剣に氣を注ぎ込むのだが、送り込む量をセーブする。
全力で聖剣を発動させる時のように、持てる力をすべて聖剣に注ぎ込んでしまうと、オーラ=メイルが発動するほどに強い力が戻ってくるが、今は、氣功術を使用するのにコントロールするだけの氣があれば十分で、それほどの氣は必要ない。
シェラガは、増幅されて体内に戻ってきた氣を使い、足元から地面に沿って波紋が広がっていく様をイメージした。
幾ら器用なシェラガであっても、術の習得を初めて数日で、直ぐに足で氣をコントロールするのは難しい。シェラガが行なったのは、跪きながら掌を大地に押し当て、流した氣が光り輝くのを抑えつつ、ゆっくりと掌から氣を這わせていく作業だった。
疑似触覚。目を瞑ったまま大地をまんべんなく掌で撫ぜていくイメージだ。そのうち、≪索≫を使いこなせれば、疑似視覚や疑似聴覚で探索ができるかもしれない。だが、シェラガがその可能性に気付くのはもう少し後の事になる。
同心円状に広がっていく、氣で生成された無色透明の膜は、何もシェラガに伝えてこなかった。感知の精度さえあげれば、周囲にいる昆虫などの小さい生物についても知覚することは可能だったが、シェラガはそこまで精度を上げることをせず周囲の様子を探った。
周囲に敵はいない。
シェラガは、今日ここに来ることはレベセスにすら伝えていない。という事は、彼の周囲にいる存在は何者であれ彼の味方ではないという事だ。その為、ある程度大雑把な探索でも周囲に敵がいない事は確認できた。
問題は罠だ。
その場合、生命エネルギーを感知するこの術では、氣の膜を広げたとしても、罠のように目で見ればすぐにわかるものですら感じ取ることが出来ない。
ただ、例外も存在する。例え非生物であったとしても、術者が熟知している物であれば、氣の膜でも検知できることはままある。例えば、考古学者のシェラガであれば、遺跡からの出土品等だ。本人が見知っている物であれば、より正確に感知する事が出来るわけだ。
シェラガの流した氣功術≪索≫は、彼に面白い情報をもたらした。
どうやら、トリカ邸には、古代帝国の遺跡からの出土品が、複数保管してあるようだ。
何故、シェラガは遺跡からの出土品が部屋にあると分かったのだろうか。
それは、シェラガの≪索≫の波動が、建造物のある部屋を通過した時に触れた物体に、彼の中である感情が心を満たしたからだ。
それは、『怖れ』と『憧れ』。
考古学者であるシェラガが、遺跡から発掘された物を検分している最中、いつも感じている『怖れ』と『憧れ』の感情。
その感情が、≪索≫の波動がとある部屋を通過した際に、シェラガの心の中に強く湧き出してきたからだ。
「……トリカ卿も古代帝国の調査をしているのか?」
シェラガは、まだ見ぬトリカという男に、妙な親近感を覚えた。
遺跡や出土品を愛し、過去の人間の所作から様々な物を学ぼうとする人間に悪人はいない。
そう公言して憚らないシェラガは、実は何人もの考古学者に騙されている。実際、彼が奪われた研究結果や発見も数多い。
だが、その事実を突き付けられた時ですら、何かやむを得ない事情があったのだ、と人は憎まない不思議な側面が彼にはあり、それは未だに治っていない。彼は、自分が知る事に目的を置いており、その結論を世に知らしめる事は、特段自分でなくともよいと思っているようだ。
トリカ邸に到着後、まずは何から手を付けていくか決めていなかったシェラガだったが、トリカが自分を誘拐した理由を知るには、まずは線の繋がった遺跡からの出土品を保存してある部屋を訪れてみるのが一番だと考えた。
出土品にも様々な物がある。その出土品をわざわざ屋敷の一部屋に保存するという事は、それに興味があるという事。集めている出土品の種類からその人となり、そしてシェラガを誘拐しようとした理由を探れるのではないか、と考えたのだった。
さて、ではどうやって屋敷に侵入しようか、と考えた時、シェラガははたと困った。
警備こそないものの、侵入する経路が見当たらないのだ。
無論、窓を破り、扉を壊し、侵入することは可能だ。だが、それは極力したくなかった。できれば、戦闘も回避し、発見されることも回避し、侵入した痕跡も残したくなかったからだ。
ふと周囲を見回すと、四階建ての建物に、煙突の様なものが等間隔で存在していることに気付く。煙突からであれば、そのまま建物に侵入できるに違いない。
シェラガは屋根に上がるべく、樋を伝って上り始めた。浮遊術を使って昇っても良かったが、無駄なエネルギー消費は避けたい。ただ、昇ることも体力を消耗しかねないので、微弱な天空翔を用い、手足にかかる負担も軽減させることにした。天空翔を用いることで浮き上がりこそしないものの、体にかかる負荷を軽くし、高速で屋根に上がる事が出来た。
屋根に昇ったシェラガは、身を屈め、周囲の様子を伺う。身を低くしたまま、一番近い煙突の傍に移動すると、煙突の様子を検めた。
どうやら、人一人は通れる隙間はありそうだ。この煙突がどこの暖炉から伸びているかはわからないが、等間隔に煙突がある以上、この煙突は一か所の暖炉から伸びているものではなく、数か所の暖炉の煙を外に逃がすための物であることがわかる。
となれば、煙突の中から侵入することで、屋敷内の通路に出ずとも移動をすることが可能という事だ。うまく行けば、この通気口が屋敷内に張り巡らせてあり、屋敷中を回る事が可能かもしれない。
シェラガは、煙突の傘を外し、人が通れることを確認すると、もう一度煙突の内壁に沿って≪索≫を流す。今度は、同心円状ではなく、煙突の内壁に沿って氣の膜を這わせていく。
≪索≫は、煙突の内部が煤で覆われており、手を付けると滑る所がある事も、中は外面に比べて見てくれは重視されておらず、そこここに煉瓦の凹凸があること、そして、所々に侵入者よけの返し針が四方にセットされていることを伝えてくる。ちょうど、目を閉じたまま様々な物を手で撫でまわし、その触覚から周囲の様子を窺い知るのに似ている。
「ここから侵入しようとする人間なんているのか。でも、元々は軍の所有か。返し針が過去の物だとすると、当時は侵入者もあっただろう。侵入者対策も色々なものが考えられているのかもしれないな」
≪索≫の結果に一人文句を言うシェラガ。
返し針は、煙突の全てを塞いでいるわけではなさそうだ。≪索≫で調べた内容も、まだ術を使い慣れていないシェラガにはすぐに信頼できるものではなかった。念のため、肉眼で確かめるために、もう一つ術を使ってみることにした。
≪操光≫。
光を灯す術だ。
レベセスにこの術を習ったときには、指先に光を灯し、松明のように使うのだと教わった。指先に集めた氣を、更に一点に収束させるのだが、エネルギーの指向を音や熱には分散せず、光にだけ傾けるという氣のコントロール。
元々生命エネルギーである氣は、純粋なエネルギーとしては音も熱も光も持つ。だが、本人のコントロール次第では、音だけにしたり、熱だけにしたりもできるらしい。もっと濃度を高くすれば、物質の様な硬ささえ得られるというから、本当に何でもありだとシェラガは思ったものだ。
今回、≪操光≫では、音や熱に変わろうとする氣のエネルギーを、全て光に変換されるように方向づけをしてやる必要があるのだが、その方向付けという作業は強い思念で行われるものなので、どれだけ神経を集中できるかに掛かっているのだとシェラガは聞いている。
シェラガは、この場で松明のように放射状に光が散る事を由としなかった。
可能であれば指向性の光を発し、周囲には光が漏れないようにしたかった。
「≪操光≫……!」
シェラガは小さく鋭く呟く。魔法にありがちな詠唱も名前の発言も、氣功術に関して言えば、本当は不要だ。だが、術の名前を口にすることで、必要な精神集中をすることが容易になる。ちょうど、参考書を丸暗記する時のように、ただ眺めているだけよりは口に出した方が、口に出すよりは紙に書いた方が覚えやすいのと同じようなものだ。
聖剣で氣のコントロールに慣れてきているシェラガにとって、指に光を灯す作業はそれほど難しい作業ではなかった。聖剣を通すことをしないでも、ほぼまったく疲労を感じることなく光を灯すことは持続可能だった。一度は強めに発光した指先を、汲み上げた井戸の蛇口からの水量を絞るように氣を操作し、ほんの微かに灯し続ける。
「おー、出来た。微調整は難しいけれど、これだけなら慣れればすぐできるだろ」
誰もいない侵入先の屋根の上で、初めての挑戦がうまく行って喜ぶシェラガを見て、レベセスはどう思うだろうか。
敵地で何をのんびりと実験している! と怒鳴るか。
ぶっつけ本番の様な無計画な事が何故できる? と眉間にしわを寄せるか。
随分楽しそうに術に親しんでいるな、と微笑むか。
どれもレベセスの反応としてありそうで、レベセスがどう反応するのか、シェラガは見てみたくなり、思わずニヤリとした。
そのまま、シェラガは集中して作り出した光の玉の放射状の光線を、一か所にまとめていく作業に入った。だが、これが思いのほかうまく行かない。放射状に広がる光の線をまとめるイメージが沸かないのだ。
指向性を持つ光を、シェラガは何度か見たことがある。蝋燭を立てる燭台に、鏡を何枚か設置することで光の向きをコントロールし、探照灯として機能させたランタンのイメージを≪操光≫の術の効果に付加させたかった。
だが、放射状に広がる光を何かに当てて反射させ、それを収束するイメージしか沸かず、光の帯そのものを束ねているイメージが沸かないのだ。
色々思案している中、周囲が見えなくなっていたらしい。足元にいつの間にか接近を許した大きな鼠が、彼の膝に飛び乗った瞬間の彼の驚きは、自身が知る限りでは最大級の物だった。
「……!」
突然の出来事に思わず集中力を欠くシェラガ。同時に絶妙なコントロールによって微弱な光を継続し続けていた氣のバランスが崩れてしまった。
一瞬の感情の高ぶりは力みとなり、体内に押し留めていた氣が大量に聖剣に流れ込む。聖剣は、流し込まれた分に比例する増幅されたエネルギーを返し、それがシェラガの指先で一気に爆発した。
弾けた指先の光は、爆音と閃光、高熱と化し、夜空に積み重なった分厚い雲に強烈な閃光の槍を突き立てた。
イメージは沸かなかったが、結果として指向性の光を出すことには成功したのだ。
だが、慌てたシェラガは、暴走する閃光と轟音を防ごうとしたのだろうか、その光輝く右手人差し指を左掌でがっちりと握りしめてしまった。
あまりの熱さと痛みで、本来上げてはいけない筈の場所とタイミングで、「ぬおあちゃっ!?」というけったいな悲鳴を上げる事になったシェラガ。
思わず自らの両手で口を塞ぎ、屋根の上で身を低くする。
だが、一瞬迸った光と轟音、そして奇怪な叫び声は、周囲に何者かを呼び寄せてしまったようだった。身を低くした彼からは、地面の様子ははっきりとはわからない。だが、徐々に眼下に集まっていく幾つもの気配。侵入直後には傍にいなかった見張り達が巡回で回ってきたのだろう。それがこの光と音により、異変を感知したに違いなかった。
息を殺しているシェラガの元に、気配のうちの幾つかがゆっくりと動き始めた。徐々に近づいてくるいくつかの気配。シェラガに近づいてくるという事は、何らかの手段を用いて壁伝いに上り始めているという事だ。どのような方法を用いて壁を移動しているのかは全く見当がつかない。
しかしながら、いずれにせよ身を隠すシェラガの高さにまで、接近してくる存在が複数いることは紛れもない事実だった。
「何だ、今の光と音は?」
ゆっくりと巡回していた兵士が、屋敷の屋根の上から轟音と共に一瞬だけ伸びる光の槍を見て、思わず呟く。敵襲かどうかはわからない。だが、異常事態には違いない。
彼は首から掛けた笛を大きく吹き鳴らした。
これは、犬笛を人間向けにカスタマイズした笛で、訓練をしない人間には音としては聞こえず、只の瞬間的な頭痛としてしか感じることはないという、不思議な笛だ。兵士は全員持ち歩いているが、実際に使った事がある者はそうはいないだろう。また、戦でその笛を用いれば、敵の兵士に対して一瞬の間を貰うことが可能になる。そうなれば、ほんの数瞬ではあるが戦闘を優位に進めることも可能だ。
甲高い音というよりは、大気の緊張が周囲に拡がってすぐ、どこからともなく兵士が集まってくる。
二十数人が、笛を吹いた兵士の周りに集まっただろうか。その中で、非常に動きの速い兵士が五名ほどいた。動きが速い、といっても俊敏というには常軌を逸した速さだった。走ってくる兵士の背後から容易に追い抜き、植え込みを飛び越えて出現する者も、その跳躍は常人では到底跳躍できない高さ。彼等だけ映像を早回ししているようにさえ見える。
だが、その異常ともいえる動きをする数名の兵士の様子を見ても、他の兵士は驚いた様子は全く見せない。どちらかというと、煙たい存在を見る眼差しか。
羨望の的である五人の兵士。
彼らの装備が特段他の兵士たちと異なっているようには見えなかった。軽量化された鎖帷子の上に、なめし皮でできた簡易鎧、とりわけ心臓と股間をきちっとガードする物で、腰には剣または人の背丈よりは少し短い槍。そして、なめし皮に更に硬化処理を施した片手用の盾。防御には用いることが出来るが、基本は相手の武器を受け止め、はじくための物ではなく、往なす為の防具で、まともに受けてしまえば例え樫の木の棍棒の一撃でもダメージは負ってしまうだろう。小隊の隊長印を施された鎧ではなく、普通の兵士たちが支給されるのと同じ装備。
だが、見る人間が見ればわかるが、俊敏な兵士とそうでない兵士との間には明らかに何か暗黙の差が設けられているようだった。
俊敏な兵士を見る、その双眸に微かに輝く光は、妬み。
だが、俊敏な兵士たちはまったく意に介していないようだった。
俊敏な兵士たちは一瞬にして集合すると、二、三言葉を交わし、頷くのと同時に建造物の壁に対して等間隔に広がった。
「貴様らは、周囲の安全確認を急げ。我々は、光が打ちあがった上空の安全確認を行う。もし、奴らが出没したのなら倒さねばならん。陽が昇る前なら被害を出さずに済むだろう」
彼らの絡みつくような視線を無視して、五人の兵士たちは、ゆっくりと上昇を始めた。赤子が這いずるようにゆっくりと。だが全員、確実に。
シェラガが身を隠した大木に、何本もの投擲用ナイフが打ち付けられる。ちょうどシェラガの顔の高さだ。遮蔽物がなければ、ナイフはそれぞれ双眸をと眉間とを見事に撃ち抜いていただろう。
ちらりと顔を出し、ナイフの位置を視認して、己の背に冷たい物が流れ落ちるのを感じるシェラガ。
敵の投擲技術は本物だ。かなり精度が高い。
敵はある程度距離を取っているのか、特殊な擬態を施しているのか、はたまた闇にまぎれているのか。シェラガから視認は出来ない。だが、投擲物はナイフ。矢なら兎も角、ナイフの投擲であればそれほど遠くとも思えない。
敵が近い。だが、相手の姿が捉えられない。シェラガからすれば、それは初めての体験だった。
聖剣を持つ前は、幾ら自分の戦闘経験が増えてきたとはいえ、敵の不慮の襲撃を恐れ、常に警戒をしていた。そして、敵は訓練を積んでいたとしても普通の人間。良くも悪くも普通の人間同士の戦闘だった。
だが、今回は状況が違う。
聖剣を持つことで、それ以降の彼の直面する戦闘では、絶対的な優位性を以て戦闘を進められるようになったはずだった。
だが、聖剣というアドバンテージを持ってなお、未だに敵の姿を確認できていない。その事実が、彼に恐怖感を与えていた。
過剰な恐怖は足を竦ませる。しかし、適度な恐怖は緊張感を与え、プラスに作用する。
シェラガの神経は、かつてないほどに研ぎ澄まされていた。
木の陰に隠れるシェラガの方に、ゆっくりと近づく敵の気配。
まだ氣功術には不慣れなため、瞬間的に≪索≫を使うことは難しかった。だが、長年の勘が、敵の数をある程度まで絞り込む。
敵は単体ではないが、それほど多い数ではない。ただ、それぞれが超人的な身体能力を持っているように感じられた。
シェラガは、正体不明の複数の敵を相手にするのに障害物の殆どない草原では不利と判断、屋敷の敷地内の一部に鬱蒼と茂る森に敵をおびき寄せることにした。
倒せずとも、うまく行けば撒くことが出来るかもしれない。そうなれば再度屋敷に戻って、直前でお預けを食らった、遺跡からの出土品を見ることが出来るだろう。
敵はシェラガの目的を知らない。であれば、一度見失えばシェラガは撤収したと考えるだろうと当たりをつけていた。
実は、先程の≪操光≫の暴走の時はうまく切り抜けたのだ。
屋敷の壁に沿ってゆっくりと浮遊を始めた、謎の五人の兵士たちとまだ一戦を交えたくなかったシェラガは慌てた。先手必勝とばかりに打って出ることも考えたが、浮遊を始める輩が普通の人間のはずはない。
まさかとは思ったが、三年前のガイガロスの乱で姿を現したガイガロス人のうちの何人かが、何らかの形でこの屋敷の警護に当たっているとすれば、一対一ではガガロすら圧倒したシェラガでも、さすがにガイガロス人五人を一度に相手にするのは分が悪い。
今この世界には、結構な数のガイガロス人が息を潜めている事がわかった。決して野心があるわけではないだろう。人々との共生に成功し、穏やかな生活を送っている者達もいる筈だ。中には、テキイセの貴族の庇護の元暮らしているが、その類稀な戦闘能力を生活の糧とするならば、テキイセ貴族の私兵となっている可能性は大いにある。仮に個人としては戦闘を好まない者であったとしても。
逆に、浮遊が可能な者がガイガロスでないとするなら、それはそれで大問題だ。聖剣の能力のようなものを使いこなす人間が存在するのか。それとも、人間ともガイガロス人とも違う第三の種族?
いずれにせよ正体は見極めなければならない。
ギリギリまで対応を迷っていたシェラガだったが、結局煙突の中に潜り込み、返し針を足の裏で折り返すことで体を傷つけることを回避、何とか屋敷の中に入り込むことに成功した。
ところが、出土品が保管してある部屋に到達する直前、兵士に見つかり、窓を破り外に逃れたのだ。
見つかったとなれば、早いうちに勝負し、相手を気絶させるか戦意を失わせることが出来れば、時間は稼げる。
そう踏んでいたが、今回は流石に見通しが甘かったと言わざるを得ない。
普通の人間であれば、第一段階の斬撃も受けることは愚か防ぐことも不可能。武器だけを弾き飛ばして、相手の戦意を喪失させ、その場の戦闘を終わりにしようとしたシェラガは、敢えて攻撃先を相手の武器にした。一瞬だけ聖剣を発動させ、オーラ=メイルを相手に視認させないようにするためだ。
だが、それは悪手だった。
不用意に放った聖剣の一撃をいなされ、反撃を受けることとなる。
シェラガには衝撃だった。
ガイガロス人ではない、普通の人間たち。少なくとも彼にはそうとしか見えなかった。
ところが、身体能力が桁違いだった。彼らは、シェラガの第一段階の身体能力を凌駕していたのだ。それが二人。
第一段階で通用しなければ、聖剣のレベルを引き上げればいい、という判断は、その場のシェラガでは不可能だった。そもそも聖剣使用時の彼に普通の人間が対応できることそのものが完全に想定外だったからだ。
その状況下において、シェラガが逃走を図ったのは、それこそ長年の経験だ。
彼は戦闘に対して快楽を見出していない。相手との交流においてのっぴきならない事態に陥った時だけ戦闘という手段を取ってきたに過ぎない。しかも、聖剣で圧倒することで相手の戦意を失わせ、相手の命を奪うことはしない。これだけ数多くの戦闘を経験してきたシェラガではあったが、未だに人を殺めたことはなかった。
無論、意図してできる事ではないし、その優先順位を上げていたわけでもない。だが、人の命を奪わずに済むのならそうしたかった。その気持ちを端に発する行動がたまたま人を殺めていないという結果につながっているに過ぎないのだが。
膝まである草原を滑るように走るシェラガ。
背後から鋭い気配が幾つか迫る。だが、ある程度の距離を開けたまま、ただついてくるだけだった。
彼等には彼等の意図があってこの間を保持しているのか、はたまた常人の倍程度の速度で移動するシェラガのスピードについてくるのがやっとなのか、それはわからないが、非常に動的な探り合いが続いていた。
と、突然シェラガの十数歩離れた左背後から、光の玉が跳ね上がってきた。
光の玉に見えたのは、剣を振りかぶりながら飛びかかってきた人間だった。激しい前方宙返りを行う事で刃の速度を上げ、威力を増そうという事だろうか。
驚いたのはシェラガだ。オーラ=メイルが視認できないレベルでの聖剣の発動は、いわば零段階と言ってもよい物だった。文字通り、通常の人間たちの二倍程度の能力アップに留めた、いわば他者に目撃されても大丈夫な使用形態だった。
その状態のシェラガに一瞬で追いつき、重い斬撃を放ってきたのだ。
思わずシェラガは背後に飛びずさりながら聖剣でその刃を受け止めようとする。だが、余りの重さに手首を返して、力を逃し斬撃の軌道を変えるのがやっとだった。
第二波は振り返った彼の左前方から来た。
光に包まれた先端は、手槍だ。馬上から突き叩き潰す槍ではなく、歩兵が己の間合いを延ばし、少し戦闘を優位に進めるための、人の背丈より少し長い槍だった。文字通り、この槍では叩き切るのは難しいため、突き殺すのが本来の戦闘法。
それを、光に包まれた別の人影が、常人では躱せないハイペースな槍のラッシュをシェラガの喉元に打ち込んできた。
余りの速い槍先の動きに、シェラガは聖剣を発動させざるを得ない。
(こいつら、聖剣なしで第一段階を自在に使いこなしている! それとも、あれも聖剣なのか? 四本じゃなかったのか? 聖剣という表現こそ使っているが、他の武器もあるというのか?)
第二段階を発動したシェラガは、打ち出されてきた槍先を全て弾き返す。流石に第二段階を発動させれば、先程の斬撃を合わせてもなお、全て受け流し切る余裕があった。だからこそ、シェラガは、彼らの異常な戦闘能力の発現が聖剣のそれに酷似することに気付き、かつ、武器の差にも気づいたのだ。
彼らの攻撃を全て受け流し、森林の中に飛び込む。後は、さらにスピードを上げ彼らを振り切るだけだ。
だが、次の瞬間予期せぬ事が起きた。
戦闘場所が森林に入り込んだ瞬間、先程の手槍の刺客とも剣の刺客とも違う、第三、第四、第五の刺客が一気に攻勢をかけてきたのだ。
恐らく敵は、シェラガに対する制圧の方針を、急遽変更したに違いなかった。
森林内では追跡側が不利と判断、時間を掛けて捕縛、尋問を目的とした結果、逃走されるよりは確実な決着を望んだに違いなかった。
剣での重い一撃の第一の刺客。この者の斬撃を受け流しても、その背後から第二の刺客の、手槍の無数の突きがシェラガを襲う。
その場で躱すよりは敵との距離を取り、戦闘の立て直しを図ろうと、手槍の攻撃が届かない程に間合いを開けるも、移動先に投擲用ナイフが複数撃ち込まれる。
ナイフを剣で撃墜したのと同タイミングで、鎖鎌の分銅がシェラガの武器に巻き付こうとした。
鎖を聖剣に絡み付ける事さえできれば、シェラガの手から剣を奪いとれる。そうなればシェラガは丸腰になる。鎖鎌の刺客の意図はそうだったに違いない。
だが、第二段階のシェラガから見れば、鎖鎌の鎖部分の先端の分銅が剣の横を通り過ぎ、刃に当たった鎖部分を中心に、分銅を重石として回転運動をしながら巻き付いていこうとする様は、スローモーションそのものだ。
巻き付き始めた鎖が、聖剣を軸に一巻する前に、聖剣の刃を鎖鎌の縛りから引き抜く。
その直後、鎖鎌を使う人影の背後から、手斧を振りかぶった大きな人影が、聖剣ごとへし折ろうと大きく振りかぶった一撃を叩き付けてくる。
この一撃は受けるわけにはいかなかった。
まさか聖剣が破損するとは思わなかったが、その一撃を受け止めることは大きくバランスを崩す原因になりかねない。そう思ったからこそ、シェラガはそれを躱し続け、手斧の軌道によっては、打ち下ろす直前に手斧の柄の部分を足の裏で蹴飛ばして凌いだりもした。
森に入ってからも、刺客の攻撃は止むことなく続いていた。
剣、手槍、投擲用ナイフ、鎖鎌、手斧。
五種類の武器が間合いも様々、速度も様々、方向も様々にシェラガに襲い掛かる。一見してそれぞれの刺客が己の武器をフルに使い攻撃をしているように見えたが、刺客同士は決して傷つけあうことなく攻勢を続けるあたり、五人が五人とも凄まじく技術のある暗殺者という事なのだろう。
森林に入ったのは失敗だったか?
彼らの攻勢はシェラガにそう思わせるのに十分な物だった。
シェラガは空中に逃げる。
走るより、跳躍し、枝を飛び移りながらの方が戦いやすい。
五人の刺客も、シェラガ同様、鬱蒼と茂る森林の木々の枝を足場にしながら、功勢を続けた。
だが、どうしても大地を疾駆するのと、森林内を飛び回るのでは、勝手が違う。跳躍と跳躍の間は、どうしても動きが直線的になってしまう。シェラガはそこをつき反撃に転じた。
第一の刺客の跳躍先に回り込み、剣を叩き折る。その後、背後から迫った第五の刺客の右手の手甲を『斬らぬ斬撃』で激しく打ち、手斧を失わせた。
『斬らぬ斬撃』とは、シェラガが独自に生み出した聖剣術で、刃で敵を打ちつつ、斬らずに打撃を与える技だ。これにより、剣の刃部分で人を殴る事が可能となった。
聖剣から手を放したら、聖剣の効果が切れてしまう。かといって、聖剣の力を使わなければ太刀打ちできない相手であったとしても殺したくない相手であればどうすればいいのか。結果、シェラガが得た結論が、『両刃の剣での峰打ち』だった。打撃ではあるが斬撃ではない。剣を使う者からすればおよそ想像し難く、不要な技術であるように感じられるのだろうが、シェラガはそれを実現することに成功した。
第二の刺客の手槍は、切っ先を斬り飛ばすことで只の棒とした。第四の刺客の鎖鎌は、相手の攻撃を無効にするよりも相手そのものを失神させる方が早いと判断、第二段階での枝の跳躍に≪天空翔≫を組み合わせ、シェラガ自身の跳躍の軌道を変化させ、第四の刺客の鳩尾に膝蹴りを叩き込み、失神させた。
第三の刺客のナイフ切れを狙い、高速で森林内を飛び回っていたシェラガは、突然眼前に開けた空間に驚いた。
森林を抉るように大地に巨大な穴がぽっかりと開き、その穴の中は巨大な空洞が広がっているように感じられた。そして、その空洞には、シェラガ自身見たことのない規模の街並みが広がる。いや、これを町と言っていいものか。かつてのテキイセ城よりもはるかに巨大かつ無機質な建造物の頭頂部がずらりと並んでいる。空洞内の色の濃淡から、それぞれの建造物は超高層の建造物であることが見て取れるのだが、初見ではそれが建造物であると認識はできないだろう。
シェラガは、第二の刺客が浮遊できずに、穴に向けて墜落していく様を見て、舌打ちをすると、自由落下の速度を更に≪天空翔≫で増幅し、穴に落ちる直前の刺客の手を掴む。
「……女?」
腕を握った瞬間に感じた第三の刺客の腕は、細かった。
そのまま穴の外に投げ出そうとしたが、既に気を失っているこの者を森林の端に投げ置くわけにもいかない。そのまま全力で≪天空翔≫を上昇の力で発動させ、ブレーキを掛けた。
必死の形相で、拙いながらも持てる力と技を全て出し切って減速に集中する。
穴の底に激突する直前、完全に速度を落とし切ったシェラガは、何とか第三の刺客を抱き留めたまま着地した。
第三の刺客は完全に意識を失っている。
激しく肩で息をしながら、シェラガが彼女を地面に横たえると、大きく何度か深呼吸をし、何とか座り込むことなく呼吸を整えた。
と同時に、無数の気配に気づく。
彼は完全に包囲されていた。数百人はいるであろう、先程の刺客たちと同じ装束を身に纏った者たちに。
お待たせしております(待ってない??)
ちょっと長めの投稿になります。
子供のイベントやら、仕事の絡みやらで遅筆に輪をかけて遅くなってしまいました。
この先の展開をゆっくり考えながら、少し依頼された別の仕事をやる予定です。
でも、書きたいのでちょこちょこ書き溜めては行く予定です。
自分でも、早く先の展開知りたい。まあ、最後どうなるかだけは決めていますけれど。
もう少しおつきあいくださいませ。
マイクロソフトのワンドライブ、使ってみましたが、原稿がどこでも管理できるのはいいですね。ただ、バージョン管理が難しい……。
2015/8/24追記
シナリオ自体は変更しておりませんが、表現自体を納得いく者に変更及び描写を追加しました。公開する前にしておけよ、という話もありますね。
19話目の執筆に取り掛かります。




