無頓着な考古学者
ライフワークの小説の外伝です。
ライフワークの小説もまだ完結していませんが、こちらもまだ完結していません。
ただ、投稿という前に一歩進む工程として書き始めたので、こちらのほうがより早く完結できると思います。
自分が死ぬ前にとりあえず書き終わりたいな。
壁や天井に掛けられた無数のランプの光が薄暗い空間に燻り、暖炉の火が踊る。
一日の労働を終えてやってくる客層は、それほど裕福な者達ではない。だが、日々の生活のため、子供を食べさせるため、歯を食いしばって必死に生きている。そんな彼らの父の時代、そして祖父の時代から、この店は彼ら労働者たちを受け入れ続けてきた。
かつて肉体労働者はここで癒しを求め、僅かながらのそれを手に入れた。はち切れんばかりの肉体をぎゅうぎゅうとカウンター席にねじ込み、テーブル席に押し付けた。
白い口髭と顎鬚とパイプがトレードマークのマスターの巧みな話術と豊富な話題を酒の肴にし、笑顔で彼らの話に相槌を打ちながら酒を注ぐママに恋し、歌を生業にして生きていこうとする美しい娘達の囀りと踊りを楽しんだ。
癒しの種類は変われど、労働者たちがここに癒しを求め、店はそれに答える。それは今も変わらない。タバコの煙と料理の油は、長い時間を掛けてその店の歴史を柱や壁に刻み、一種独特の安らぎの空間を作り出していた。
そんな小さな食事処で事件は起こった。
「姉ちゃん、俺にもお酌してくれよ」
三人の男は、店の看板娘に酌を要求しているのだが、それはこの酒場に慣れ親しんでいる者の所作とは言い難い、ある種醜いものだった。
男たちは次々と木を刳りぬいてできたジョッキを娘の前に突き出し、酒を要求する。
一人に注ぎ終わると、次の男がジョッキを出す。その男に注ぎ終わると別の男がジョッキを出す。その男に注ぎ終わると一人目の男が飲み干したジョッキを突き出すのだ。
徐々に男たちの飲む速度は上がり、酌が間に合わなくなってきている。酒が切れるか、娘が粗相をするかで、男たちは因縁を付ける気なのは、老マスターが見ても一目瞭然だった。何人かの他の客は、三人の男たちに目をあわさず店の隅で小さくなっているだけだった。
透けるような白い肌に王冠のような豪奢な印象を与える黄金の髪のこの娘は、テキイセではちょっとした有名人だった。
見目麗しいその容姿に反して、きびきびと動き、愛想よく振る舞う。だが、粗相をする酔っ払い客には雷を落とす。そんな気風のよい、誰しもが憧れる姉御肌。そんな看板娘を一目見ようと店を訪れる客も多いが、この男たちもその類だった。ただ、この男たちはファンというよりは娘を困らせて楽しもうとしているようだった。
ここ数日で、この酒場も客層ががらりと変わった。労働者たちが減り、胡散臭い男たちが増えてきた。老マスターは、長年の経験から、かつての王都テキイセに迫っている異常を感じ取っていた。
王都テキイセ。
広大な国土を持つラン=サイディール国は西部を海に、国境のある東部を山脈に囲まれている軍事国家だった。圧倒的な軍事力を背景に周囲を睥睨するその国が、その力の象徴として国境際に首都を置いたのは、他国に対するスタンスであるだけでなく、国民に対しても力を示したかった王族・貴族のエゴであったのはいうまでもない。
海からは遠く、肥沃とはいいがたいその地において、国民たちへの搾取は続けられた。しかしながら、国民たちの感情は、自分たちを抑圧する為政者たちへと向けられることはなく、むしろ国の外へと向いた。聖戦という名の下、自分都合で正当化された国家を挙げての侵略行為により、彼らは糧を得ていたのだ。弱者が更なる弱者に対して略奪を行うことを続けるために、彼らは選民意識を植え付けられ、伝説になぞらえ勝手に主張される自分たちの国土と財産を取り戻すため、貴族たちの手足となって他国を攻め続けた。
だが、そんな時代も長く続くはずもない。
他国はラン=サイディールを遠ざけ、連合し抵抗する。国家は疲弊し、外部からの供給なく搾取だけされている国民は徐々にテキイセを捨て始めた。
そこに、テキイセの存在を揺るがす決定的な事件が起こった。
それが遷都である。
二年前に行われた国家の方針転換の大号令は、王族の一人によってなされた。
病気がちな国王に代わり、宰相として権勢を手に入れた実弟ベニーバ=サイディールは、息子と共に遷都を実施し、テキイセの遠く西方の貿易都市デイエンを首都と設定、デイエンの主要産業である貿易に力を入れ始めた。
当時の貿易は半分略奪に近いものではあったのだが、ベニーバたちはそれに梃入れをし、徐々にではあるがまともな貿易を実現しつつあったのだ。
当初、貴族達は猛反対したが、既に力を失い始めていた彼らはその勢いに逆らうことができず、ベニーバに従いデイエンで大人しく暮らすか、テキイセで磨耗して消滅するかの二択を迫られた。テキイセは疲弊していたが、それ以上に貴族たちの膨れ上がった自尊心は、彼らの様々な力を侵食し、もはや生活がままならない段階にまで自らを追い込んでいた。
ここにきて、一部の貴族たちは自らの身を守るため、傭兵を囲った。テキイセの民から、そして他の貴族からの奇襲を避けるためだ。外に出る力をなくした幾つもの権力は、同属他者からの合法違法な略奪により、何とか食いつなぐ方法を選択した。その選択は必然的に残された同属にも同じ選択を取らせる。貴族たちの自滅の螺旋がスタートした。
その過渡期を、老マスターは敏感に感じ取っていた。
「もうそろそろ、店を畳んでよそに行くかな」
開店前に、店の人間に独り言のように告げた老マスターは、最近増え始めた傭兵同士のいざこざを見るたび、その気持ちを強くする。
「お客さん、おかわりはこちらで準備しますので、勘弁してもらえませんかな」
宥めるように傭兵であろう無頼漢どもに言葉を掛けるものの、傭兵たちはちらりと老マスターを見ただけで、その言葉には耳を貸さず、店の娘に酌を要求し続けようとした。
だが、一瞬三人の男たちが目を移す間に、娘はその場から立ち去っていた。少し離れたテーブル席の若者が注文を娘に告げたのだ。
男たちは若者のいるテーブル席へ移動、不快感を露にしながら若者に迫る。その迫力たるや、野犬が群れを成して獲物を取り囲み、嬲り殺しにしつつ食らおうとしている、そんな場面を髣髴とさせた。
「おい小僧、この女は俺たちと遊んでいたんだ。それを邪魔するとはどういう了見だ?」
小僧と呼ばれた若者は、ちらりと男たちを見た。その眼差しは少年のようであったが、口髭と顎鬚は彼を年齢不詳に見せていた。そして、少し長めの髪を後ろで無造作に束ね、首から下をすっぽりマントで覆っているその風貌からは、旅人であることしかわからない。
「遊んでいるのだったら、後にしてくれ。俺は腹が減っているんだ。ここは料理屋なんだ。あんたらが酒の注文をしているようだったから待っていたけれど、一段落したんだろう? だったら、俺の用件が済んでからゆっくり遊べばいいだろう」
その言葉を聞いた男たち、そして娘は唖然とした。
娘は当然この青年が助けてくれるものだと思っていたし、男たちはこの青年がつまらない正義感を振りかざし、自分たちと喧嘩をするつもりだと思ったからだ。それを、自分の用件が済んだら、好きにすればいい、とはなんとも自分勝手な言い草だ。
「なにそれ、最低!」
呟きを残す娘のすぐ横を何かが通り抜ける。
それは破砕音と破片を周囲に撒き散らした。
男たちの一人がそばにあった椅子で若者を殴りつけたのだ。男は十数回若者を殴りつけ、椅子が原形を留めぬほどに木っ端微塵になったところで、手に残った背もたれの一部を床に投げ捨てた。
一瞬の静寂が店の中に訪れる。目の前で惨劇が繰り広げられたのだ。
誰しもが若者の大怪我を予想した。下手をすると死んでしまっているかもしれない。
だが、周囲の人間が瞠目するのはその後だった。
なんと、若者は平然と娘と男たちに背を向け、メニューを見続けていたのだ。
特段どこかに負傷した様子もない。
娘は絶句し、男たちは一瞬の狼狽の後、いきり立つ。
「てめえ、ふざけるな!」
とっさに出た言葉はそれだった。
若者は何もしていない。それゆえ、男たちもどういう言葉を吐きつけてよいのかわからず、とにかく大声で威嚇した。
「えっと、この『肉350』のステーキと、ご飯大盛り。それとサラダね」
若者はメニューから目を離さずそういった。
三人の男たちはいよいよいきり立ち、腰の獲物に手を掛けた。
「そこまでだ!」
いよいよ殺気に満たされた店内を切り裂いた言葉は、男たち三人を一瞬にして萎えさせるのに十分な力を持っていた。
三人の男たちは声のした店の入り口を振り返る。
そこには一人の男が立っていた。
短く刈り込んだ黒髪は清潔感を醸しだし、整った顔立ちは美しい女性を連想させるが、眉間に刻まれた皺は、己にも他人にも厳しい、強い意志を感じさせる。
腰に剣を携えてはいたが、それに手を掛ける様子はない。軽装ではあるが見覚えのある服装。ラン=サイディール国軍近衛兵のものだった。
ラン=サイディール近衛兵といえば、近隣諸国にも名だたる勇猛な戦闘集団。一騎当千といわれるその戦闘能力は傭兵なら誰しもが知るものであり、最も剣を交えたくない者たちの一人である。
だが、若い。
近衛兵に成り立てなのか?
そんな想像をした男たちだったが、左肩に刻まれた紋章をみて再度驚く。剣と盾を構える翼を持ったドラゴンの紋章は、近衛兵幹部のもの。とてもではないが、傭兵たちが戦って勝てる相手ではない。
「友が無礼をした。私に免じて収めてはくれまいか」
近衛幹部の青年は、一瞬男たちがたじろいだのを見逃さず、言葉をつなぐ。言葉尻は懇願ではあるが、内容は明らかに命令だ。
「マスター。ここにいる方々に酒を振舞ってくれ。それと、私もこの者と同じもので」
青年は若者の前にテーブルを挟んで席に着いた。
「彼らの酒代は私が持とう。会計してくれ」
と、メニューを覗き込んでいた若者は、老マスターに向かって言葉を重ねる。
「あ、俺のも彼にツケといてください」
青年はあきれて言う。
「シェラガ、おまえなぁ……」
思わず娘は吹き出す。
今までの会話の流れで、この小汚い若者と近衛隊幹部の青年とが長年の友人であることは理解できたが、この緊迫の空気を必要以上に間延びさせたのはこの若者である。それがこの娘からすると、非常におかしかった。
三角巾で抑えられた黄金の髪が踊るように笑った。それは同時に先ほどまでの緊張がほぐれた証でもあった。
だが、三人の男たちのうちの一人は、どうにも収まりがつかないようで、剃り上げた頭に血管が浮き立つのが見て取れた。
「俺はどうにも気がおさまらねえ。この始末はどうしてくれるんだ」
青年は一瞬その男の顔を見た。そして感情を込めずに言う。
「どうしても気に入らないのなら、こいつを好きにすればいい。ただし、どうなろうと責任は持たんぞ」
娘は瞠目する。結局この近衛幹部も自分勝手だ……。
瞠目したのはシェラガと呼ばれた若者も同様だった。
「え? なんで?」
「なんで、じゃない! お前のやり方じゃ収まるものも収まらないんだよ! いくら手を出さなくたって店や他のお客さんに迷惑を掛けているのがわからないのか!」
「そうかなあ……。とりあえず、俺は椅子で殴られたんだから、相手の気も済んだんじゃねぇの?」
「それを言葉に出して言うから、収まるものも収まらん、と言っている」
「……そうなんだ。いろいろ難しいんだな、人間関係は」
「お前が難しくしているだけだ」
三人の男のうち、先ほどまで殆ど何も動きを見せなかった長髪の髭面の男が、マスターに声を掛ける。
「マスター、馳走になった。娘さんも、すまなかったな。悪ふざけが過ぎたようだ」
この男はどうやら三人のうちのリーダー的な存在らしかった。順番に視線を移していき、最後に青年のところで止まる。
「兵隊さん、名は?」
「レベセスだ」
青年の名乗りを耳にして、シェラガと呼ばれた若者以外、みな驚愕する。レベセスといえば、ラン=サイディール国の軍属の中でも由緒あるアーグ家の当主であり、若くして軍の中将を任された稀代の英雄だ。それでいて、二年前の遷都では軍部の暴走を食い止め、怪我人を出しただけで武装蜂起を鎮圧した戦術家でもある。
そのレベセスが、これほどの若者だとは、誰しもが思っていなかった。ともすれば、衰退した軍部が英雄を求めて作られた虚像だという説も流れたほどだ。
「そうか。あんたが……」
髭面の男は、スキンヘッドの男と、小男に、店の外に出るように促した。男たちはしぶしぶと従い、店の外に出て行く。
だが、レベセスは気づいていた。この男たちはこれでは終わらない、と。
「シェラガ、食ったら早々に店を出るぞ。迷惑がかかるからな」
「そうだろうな。あー、面倒くさいな」
事実、食事後、店を出て数歩のところで、シェラガとレベセスは十数人の男に取り囲まれることになる。
看板娘は店から遠のくいくつもの影を見ながら、不安そうな表情を浮かべていた。
「お宅、先ほどラン=サイディールのレベセスだと名乗ったが、本当か?」
町外れの広場まで来たところで、十数人の男たちの一人が口を開く。
「そのとおりだが、何か用か? 私は食後の時間をゆっくり過ごしたいのだが」
暗がりではっきりとはわからなかったが、どうも先ほどの傭兵たちの集団のようだ。その中には、先ほどのスキンヘッドの男も髭面の男もいる。彼らが沿うように立つ、集団の中心の男がどうやらリーダーのようだ。
「単刀直入にいうが、俺らにやられてくれねえか?」
シェラガは思わずレベセスの顔を振り返る。彼は男たちの要求が本当に唐突なものであるように感じているようだった。
レベセスは相手から目を離さず呟く。
「俺を倒して名を上げれば、貴族に高値で雇ってもらえるからな。それに、ラン=サイディールの貿易移行政策に歯止めを掛けたい貴族からすれば、ベニーバ様の近衛隊長である俺を倒すことは、貴族側からしても大きなプラスになる。それゆえ、彼らにプラスアルファの褒章がつく可能性は十分にある。それを見越しての話だろうな」
「けど、お前は負けやしないだろう?」
「それもやつらはわかっている。だから……」
一歩前に出る傭兵たちのリーダー。全身をマントに包み、フードをかぶったその風貌から年齢性別は読み取れない。
「頭のいいお人だ。……彼らの店、またいきたいよなぁ?」
傭兵たちから、笑い声ともため息ともわからぬざわめきが起きた。
「とりあえず、どうすればいい? 参った、といえばいいのか?」
「殺すと、後々面倒なんでな、とりあえず腕の一本くらいもらいたいものだが」
「断る。腕はな。いろいろ後々面倒なのでな。髪ぐらいならいいが」
一瞬男たちに緊張が走る。異様な耳鳴りがするのは、レベセスの発する殺気のせいだろうか。
「これはお願いではないんだよ。一方的な交渉だ」
リーダーは少し語気を荒げて言った。少し緊迫した空気にきょろきょろと顔を見比べるシェラガ。
「お前たちはひとつ勘違いしている。
俺は一瞬でお前たち全員を殺すことができる。そうすれば、この交渉自体意味がなくなるんだよ。お前たちが準備しているだろう別部隊の店の襲撃も一瞬で終わらせることも可能だ。それを、お前たちの体面を保って、さらに生活を優雅にしてやろうというのだ。何か気に入らないことがあるのか?」
傭兵たちの一人が抜刀した。
「親分、かまわねえ、やっちまおうぜ!」
そういい終わるかどうかの刹那、抜刀した剣が真ん中ほどで澄んだ音を立てて折れた。
切っ先は地面に音立てて突き刺さる。
一瞬の出来事ではあるが、抜刀した傭兵の剣を、レベセスは自らの剣で叩き折り、そのまま鞘に収めたのだ。
だが、周囲の人間にはレベセスがちらりと動いたようにしか見えなかった。ただ、何かをされたということはわかったらしく、傭兵たちはいきり立ち始めた。
こんな若造になめられてたまるか。
傭兵たちが腰の剣に手をかけた次の瞬間、シェラガは大声を上げながら走り出した。
「な、なんだ?」
傭兵たちは一瞬度肝を抜かれた様子で顔を見合わせたが、シェラガが突進してくると見るや、自分たちへの攻撃とみなし、そこにいる殆どの者が抜刀する。
必死の形相で走りくるシェラガは、傭兵たちが振りかぶった剣を、跳躍で大きく飛び越した。その時、シェラガは傭兵のリーダーに向かって叫ぶ。
「逃げろ! 巻き込まれるぞ!」
その次の瞬間、轟音と共に頭上をいくつかの黒い物体が通過する。
シェラガはそのまま闇へと消えていき、黒い物体もシェラガを追うように森の向こうに飛び去っていった。
後には男たちだけが残されていた。中将レベセスもいつの間にか姿を消していた。
「親分、今から店に行ってあばれてきやすか? 俺たちの恐ろしさを思い知らせてやりましょうぜ」
いきり立つ男たちだったが、親分と呼ばれた男は冷静だった。
「やめろ! お前ら、気づかなかったのか? 俺らはあの得体の知れない小僧に助けられたんだ。結果的にな」
血気盛んな男たちは、その言葉を聴いて、真意が汲み取れずお互いに顔を見合わせた。
「どういうことで?」
髭面の男がリーダーに尋ねる。リーダーはフードの奥でにやりと笑った。
「ありゃ、SMGだ」
傭兵たちの表情が一瞬にして蒼ざめる。
誰も口にはしないが、SMGという言葉は多大な恐怖を傭兵たちの心に呼び戻すのは十分だったのは誰の目にも明らかだった。
もはや怯えを隠すこと自体がナンセンス。
闇が怖い。
幽霊が怖い。
高所が怖い。
それ位彼らが『SMG』という言葉に恐怖感を覚えるのは自然な事だったようだ。
SMGは、世界中の貿易を裏で牛耳る超国家組織だ。
古代の言語で『超商工団体』を意味する略語で、圧倒的な科学力で世界を支配した古代帝国の貿易部門の組織が独立したと言われる。
SMGは各地に特派員を送り込んでおり、彼らに税を納めないと、ありとあらゆる手で貿易を邪魔するという。その戦闘力たるや圧倒的で、特にこの世界において人が唯一空を飛ぶ方法を持つ組織である。
子供までその存在は耳にしているがその実態は謎に包まれている。ただ、存在そのものは都市伝説と言われるほどには風化しているわけではなく、やはり様々な時期や場所でSMGの存在を裏付ける事件は起きている。それでも、住民に害なすただの暴力組織とは違うという印象は人々の心の中にあるようで、得体のしれない強大な組織、という心証ではなく、どちらかというと崇拝はしていない他の宗教の神であったとしても敬虔な印象はぬぐえない、といったところだろうか。
「……俺も目の当たりにするのは初めてだがな」
傭兵のリーダーはそれ以降口を噤んだ。SMGに追われるような男と事を構えることを避けられたという安堵感と共に、一つの疑問が頭を擡げたからだ。
木製の椅子で頭を十数回殴打されても無傷。
ラン=サイディールの近衛隊幹部と十年来の親友のように口を利き、伝説ともなっているSMGに追われる存在。
あのシェラガという男はいったい何者なのだろうか。
何度かの見直しを経てますが、面白くなってますかね。
個人的には面白いとは思うんですけれど。