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たぶん私は勇者じゃない。  作者: 行見 八雲
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2.そのイベントどこかおかしくないですか?



 あの後、旅の資金集めのために、とても面倒見のいい女冒険者とパーティーを組んでいくつかの依頼を受け、まあ聖剣のおかげでぐんぐんランクを上げることができた。気が付けばずいぶん長いこと最初の街に滞在し、上位ランクになってしまったが、別にどんどん貯まっていくお金を数えるのが楽しかったというわけでは無い。


 けれどいい加減旅を再開させようと思っていると、この街を治める領主から上位ランク者への強制依頼が課された。内容は、魔物に命を狙われている領主の娘の護衛アンド魔物の討伐だ。

 しぶしぶながらとっとと終わらせようと領主館に行くと、何故か領主の娘に気に入られ、身辺警護に回された。

 そして、深夜に侵入してきた魔物を、聖剣でピカーッとやってバッサリ倒した、ら領主の娘の私を見る目が鋭くなった……気がした。


 翌日、領主の部屋に呼び出されると、そこには領主と娘が並んで座っており、私を婿に迎えたいと言い出した。正直に自分の性別を明らかにすればいいのだろうが、以前バイト先の同僚の女性に告白されて「女です」と断ると、「騙したのね!」とか訳の分からない怒りをぶつけられたことがあるのだ。

 貴族を怒らせるとなんか面倒臭そう、という理由から、私はそっと彼らに聖剣を見せた。彼らもその剣の持つ意味に気付いたのだろう、はっとそろって驚きの顔で私を見てきたので、「私には使命がありますので」と真剣な表情で告げてみた。領主の娘の私を見る目が恍惚としていたような気がするが……まあ気のせいだろう。


 これから向かう先の街や村が魔物に襲われるようになってはいけないと、私が勇者だということは秘密にしてもらった。そして、報酬に加えて館の倉庫の奥で眠っていた鎧などの防具を頂けることになった。軽くて頑丈そうな鎧は、私の体形を見事に覆い隠してくれる。

 館を出るとき、領主の娘に「いつまでもあなたを想っています」と熱に潤んだ瞳で言われたので、「あなたには私より相応しい殿方がいますよ」と告げてみた。本心からそう思っている。ちゃんとした男を探せ、男を。



 そのまま何故か付いて来てくれることになった女冒険者と街を出て、聖都と呼ばれる女神信仰の聖地、王都の次に大きな都市に向かうことになった。


 聖都に着いてみるとどこか雰囲気が暗く、道行く人も不安そうな顔をしていたので、商店で話を聞いてみると、どうやら女神教の最高位の聖女様が眠ったきり目を覚まさないのだそうだ。

 へーそりゃ大変だと、思いっきり他人事に考えながら早々に聖都を出ようとしたのだが、意外にも女神教を信仰していた女冒険者が聖堂にお祈りに行きたいと言うので、付き合うことになった。


 目の前にそびえる聖堂は、ヨーロッパ辺りの大聖堂のような造りで、中も天井が高く広かった。そんな大聖堂の奥、大きな女神像の前には祭壇が置かれ、そこには噂の聖女様が寝かされていた。

 これ防犯とかわいせつ行為とか大丈夫か、と思いつつ人形のように整った聖女の寝顔を見下ろす。すると聖剣がピカーッと光って、聖女を覆っていたらしい黒い靄が消えたかと思うと、ゆっくりと聖女が目を開けた。そしてばっちりと会う目線。何故か背中に寒いものが走った。僅かに動いた聖女の口が「……見つけた」とか何とか呟いていたような気がするが……そんなはずはないな。


 いきなりどこからともなく喚きながら出てきたでっぷりとしたおっさん神官が、短剣で攻撃を仕掛けてきたので聖剣を構えたところ、これまた聖剣がピカーッとなって、長く伸びたおっさん神官の影から人型サイズの虫歯菌みたいな真っ黒な生き物がわき出してきた。

 何かキーキー言って五月蠅かったし、聖剣も殺っちゃえ殺っちゃえと乗り気だったので、その黒い生き物もバッサリしてみた。すると、甲高い悲鳴を上げながら消えていき、そこには倒れ伏したおっさん神官が。


 祭壇から体を起こした聖女の話では、おっさん神官に乗り移っていた悪魔にじわじわと呪いをかけられ、眠らされていたらしい。聖女の力は悪魔には脅威なんだとか。

 お礼にと女神教会から幾ばくかの援助金をもらえることになったので、礼儀上一度断ってから、これも使命のためだと割り切ってありがたく頂戴した。


 数日滞在してから聖都を出ようとしたとき、旅支度をした聖女に声を掛けられた。なんでも魔王退治の旅に是非同行させて欲しいとのこと。一応「苦労も多いですよ」とか、「命の保証は出来ません」とか説得はしてみたものの、彼女の意思は固いようだった。どうやら彼女は神聖魔法の使い手で、彼女がいてくれると回復薬や状態異常用の薬が浮くらしい。彼女の熱意に負けて、旅の仲間に加わってもらうことにした。

 「どこまでもお供いたします(……たとえ死が二人を別とうとも)」と述べた彼女の言葉に、妙な重みを感じたのはきっと気のせいだろう。



 次にたどり着いたのは、他国との貿易の拠点となっている大きな街だった。

 好奇心に駆られながら市場を歩いていると、道の端に人垣ができているのが見えた。何事かと覗いてみると、うずくまる尻尾の生えた何かに殴る蹴るの暴行を加える男二人が見えた。その尻尾の生えた何かからは「ニャーニャー」といった悲痛な鳴き声も聞こえてきて、これが人なら素通りするが、ネコたんをいじめるのは許さん! と男達の前に歩み出る。


 そんな私を男達はねめつけるように見てから、「何だよ、ひょろひょろのお坊ちゃん」「あんたがこの奴隷を買うってーのか?」「だったら金一万枚で売ってやるよ!」とぎゃははと大声で笑い出した。奴隷が何かは知らないが、それがかなり法外な値段だということは分かった。

 この私からぼったくろうとは不届き者め! と睨みつけたとき、急に男達に向かって果物? やゴミ? が投げつけられた。何事かと周りを見まわしてみると、人垣の中にいた女性陣が「このお方になんて口聞いてんだい!」「二度とうちの品物は売らないからね!」「月の無い夜道には気を付けな!」「……蝋人形にしてやろうか……!」などと言いながら男達に物を投げつけているようだった。

 その女性陣の剣幕に恐れをなした男達は、慌てて人垣を押しのけ逃げ出していく。ふっ、今日はこのくらいにしといてやろう。


 ひとまず助かったと、「おかげで助かりました、ありがとうございます」と人垣に向かって笑顔で礼を言うと、途端にキャーッという甲高い悲鳴が上がる。「お礼を言われちゃったわ!」「何言ってんのよ! 今のは私に向かって言ったのよ!」というよく分からない騒動に乗じて、地面に横たわったままだったネコたんを抱き上げてその場から抜け出した。


 結果、ネコたんはネコたんではなく、猫科の獣人だという、とら模様の猫耳と尻尾を生やした少女であった。この国には奴隷制度なるものがあり、ネコ少女は仲間に騙されて売られ、奴隷に落とされたらしい。

 この国いっぺん滅んだ方がいいんじゃないの? と思いつつも、ネコ少女の治療をして、断腸の思いで奴隷から解放するための解放金を払った。くっ、猫耳と尻尾さえなければ!


 そのままネコ少女と別れようとすると、ネコ少女が仲間になりたそうにこちらを見ている。一応、魔王城侵入という旅の目的を明かし、付いて来ると危険だと説得を試みてみたが、ネコ少女は一緒に行くと言って聞かない。ネコ少女の言うところによると、彼女は猫の獣人族に伝わる秘伝みちゅりゅぎ流という拳法の使い手なのだそうだ。

 「必ずご主人様のお役に立ってみせます!」と並々ならぬ熱意を込めて言うので、ならば払ったお金の分だけ働いてもらうのが筋だろうと、同行してもらうことにした。



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