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たぶん私は勇者じゃない。  作者: 行見 八雲
1/3

1.もしかして勘違いされてる?



 似たようなお話ばかりですみませんm(__;)m



 いったい何がいけなかったのだろうか。


 この、同級生の中では頭一つ分大きい身長だろうか。

 それとも、部活の時に邪魔だからと、ばっさり短くしたこの髪型だろうか。

 はたまた、女子高だからってノリで友人と始めて、すっかり身に付いてしまったこの話方か。

 いや決して、このメリハリのない――ではなく、部活のおかげでほどよく筋肉の付いたスレンダーな体のせいではないだろう。ましてや、部活帰りに着替えるのが面倒くさくて、そのまま着て帰ろうとした大きめのジャージが追い打ちをかけたなんてことはないはずだ。




 事の始まりは、正直今でもよくわからない。部活で疲れた体を引きずりながら、学校に隣接する寮へ戻ろうと校門から足を一歩踏み出した瞬間、おかしな耳鳴りがして視界がぐにゃりと歪んだ。貧血かと思い足を踏ん張り、目元を押さえながら顔を上げれば、辺りは森の中だった。は? 何ここ? とパニックになりつつも、あまりの現実味の無さにどこか夢の中にいるような気分で、きょろきょろ辺りを見ながら歩みを進めた。


 私の感覚で五分ほど進んだ頃だろうか、木々の向こうに切れ間が見えたかと思うと、森の中にぽっかりと空いた平野に出ていた。そして、そこにあったのは朽ち果てた石造りの神殿のような遺跡だった。行ってみたことはないが、ギリシャの神殿をもっと柱とかボロボロに崩して倒した感じで、床も所々土がのぞいていたり、床石の間から草が伸び放題になったりしている。

 そんな中、辛うじて立っている柱にぐるりと囲まれた、おそらく建物の中心であろう辺りに、床の石に刃の部分が半ばまでぐっさりと刺さっている剣のようなものを見つけた。陽を受けて輝く刃の部分に錆は見られず、柄にはこまごまとした模様が掘られ、柄とつばの部分が合わさる位置に大きな透明な宝石が埋め込まれている。


 つい好奇心に駆られた私は、辺りに≪立ち入り禁止≫の立札が無いかを確認して、その遺跡に恐る恐る足を踏み入れ、これまた≪触るな危険!≫≪指紋付けるな!≫の札が無いかを見回してから、ツンツンと剣の柄を指先で突いてみた。いくら宝石の値段が気になるとはいえ、さすがにこんな遺跡にあるものを勝手に抜く気にもならず、ましてやもしこの剣が何か悪いものでも封印していたらと考えると、これ以上剣に触るのも良くないだろうと、その場を立ち去ろうとしたとき。

 カラン……と、妙に響く硬質な音がした。

 すぐ傍から聞こえたそれに嫌な予感がして、慌てて剣の突き刺さっていたところを見ると、そこには先ほどまで地面に埋まっていたとは思えないほど綺麗な刃をした剣が、無造作に横たわっていた。


 ひっ、ひええええぇぇぇ!! と、内心で悲鳴を上げた私が、誰かに見つかる前に逃げようとしたところ、いきなりその剣に付いていた宝石がピカーっと目も眩むような光を発した。その光は遺跡中に広がり、屋根の無い上部を突き抜けて、空へと立ち昇る。



 それからはあっという間で、その光を見て駆けつけてきたという近くの村の皆さんに「勇者様だ!」と崇められ、彼らの村へと連れて行かれた。そしてしばらく村長の家に滞在させてもらうことになり、私が倒してしまったあの剣――伝説の勇者のみが使える聖剣というやつらしい――の戦い方を習った。

 その間何度も勇者ではないと否定してみたが、聖剣を抜けるのは勇者様だけだ、とかなんとか言って受けあってくれなかった。


 仕方なく勇者について話を聞いてみると、魔王が世界を征服せんと暴れ回るとき、異世界から勇者が現れて聖剣をもって魔王を倒す、という伝承がこの世界にはあるらしい。そして今まさに、魔王が配下の魔物を率いて世界を荒し回っているらしい。いやいや知らんがな。しかもこの世界の命運を握るなんて自分には荷が重すぎるっす! そもそも命がけで戦うような義理がこの世界に無いし……! 

 と思ってはみたものの、異世界から召喚された勇者が元の世界に戻るには、魔王城の地下にある魔方陣を使わなければならないらしい。非常に足元を見られているようで気に食わないが、私は意地でも元の世界に戻りたい! なので、しっぶしぶながら聖剣をもって旅に出ることには納得した。

 

 だが、誰が馬鹿正直に真正面から魔王などに挑むものか! こっそり城に侵入して、こっそり魔方陣を使って帰ればいいのだろう。後のことはこの地に生きる君達に任せた! 自分達の運命は、自分達の手で切り開け!


 などという薄暗い計画を胸に秘め、この世界に来てから約二月後、私は旅に出ることにした。本当は村でもう少し情報収集なり、準備なりしたかったが、面倒を見てくれている村長の娘の私を見る目が日々妖しくなってきていることに気付いたため、早めに旅立つことにしたのだ。

 彼女は柔らかい茶色の髪に緑の目の可愛らしい顔立ちの子だったが、私と顔を合わせるたびに目は潤み、顔を赤くして、ちらちらと意味ありげに見上げてくるのだ。その表情はまるで、以前学校で呼び出された後輩の女の子に、体の関係込みで恋愛的なお付き合いを求められた時によく似ていた。


 実を言わなくても私は根っからのノーマルである。女の子を可愛いなと思うことはあっても、恋愛対象はあくまで男性なのだ。

 もうしばらくはと引き留めようとする彼女を、「一刻も早く世界を救わねば」だとか何とか丸め込んで、早々に村を後にした。「いつまでもあなたの帰りを待っています!」と涙ながらに手を振る彼女に、微笑みを返しつつ、もし私が一年経っても戻らなければ彼女にすっぱり諦めるよう説得して欲しいと、彼女の兄に頼み込むことは忘れなかった。戻って来る予定はないからね!


 

 まず一番近くの大きな街を目指そうと歩いていると、山道から外れた森の中で魔物の群れに襲われている女性を発見したので、ひとまず助太刀に入った。剣を抜いてその場に駆け付ければ、後はすべて聖剣にお任せだ。勝手に動いて勝手に避けて、勝手に魔法を放ってくれる。実は村でやっていた訓練は、剣に振り回されないようその動きに付いていくための練習だったのだ。

 あとはもうぼーっとしていれば、いつの間にか周囲は魔物の死体で足の踏み場もなくなっていた。今宵の聖剣は血に飢えているらしい。


 力尽きてしゃがみ込んでいる女性の傍へ行けば、彼女は頭の高い位置で括られた赤茶色の髪に、豊満な胸を無理矢理胸当に押し込んだ、迫力美人であった。多くの女性の憧れを凝縮したような魅惑のメリハリボディを思わず凝視してしまったのは、決して羨ましいとか思ったからでは無い。


 互いに自己紹介をしてみれば、彼女はどうやら冒険者というやつで、近くの街まで案内してくれることになった。道中冒険者になるためのギルドシステムなどの話を聞き、その利便性から私も冒険者として登録してもらおうと、ついでにギルドまで連れて行ってもらう。


 大きなくりくりの目が可愛らしい受付嬢が、頬を染めてたどたどしく説明してくれるのを微笑ましく思いつつも真剣に聞き、待っていてくれた女冒険者とギルドを出ようとしたとき、通りかかったテーブルで酒を飲んでいた厳つい男に、「女を侍らしていい気になってんじゃねーぞ、優男が!」と言葉を掛けられた。

 そんな男に憤る女冒険者を宥め、ギルドを出る。


 そこで改めて自分の格好を思い返してみると、もはや習慣で短く切られた髪に、体のラインを浮きだたせない厚手の服、背はこの世界の男性にしては小さいが、一般的な女性よりは大きい。女冒険者とは同じくらいの背丈かな。聖剣は腰に差すと邪魔なので背中に背負うようにしている。

 先ほどの「優男」発言に誰もつっこまなかったし、言い返してくれた女冒険者も訂正してはいなかった。これまであえて「性別は女です」と自己申告することは無かったが、…………ひょっとしたら男だと思われているのだろうか。



 …………あれ、もしかして村にいたときから??



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