初めての戦い。
読んで頂きありがとうございました。
もしよろしければお気に入り登録して頂けると、嬉しいです。
次回は24日までに投稿しますので宜しくお願いします。
(それにしても……。)
村を出てから、10分程度は歩いているはずなのだが、一向に生き物に出くわす気配がない。
「ここは、生き物が少ないのかな? 何もいなすぎて、何だか拍子抜けだなぁー。」
「でも扇お兄ちゃん。いきなり沢山来られても、僕の魔法だけじゃ対処出来ませんよ?」
「それも、そうだな……。」
「ご主人様と、お散歩、お散歩♪」
ただ歩いているだけなのだが、花子だけは、ずっと楽しそうにしている。
(退屈だな……。)
そう思い始めたころ、俺たちは少し開けた草原に差し掛かり、そこで、花子が立ち止まった。
「あ、ご主人様!前から何か来るよ。」
どうやら花子が、何か見つけたらしい。
(どれどれ……。ウゲッ、なんだよあれ……、見るからに強そうじゃなか……。)
50m程先の林の中から、真っ黒な毛で覆われた、人にも牛のようにも見える巨体が姿を現し、此方に歩みを進めていた。
なんの冗談だよ……、こんなの初戦で戦うような相手の姿じゃないぞ……。ゲーム中盤に出てくるボスと言われても納得出来そうだ……。
(――に、逃げるか?!)
「あっ! 扇お兄ちゃん! あれが、武器屋のおじさんが言っていた魔物なんじゃないのかな?」
「あっそうか……。村の周辺には見た目だけの弱い魔物が出るんだったな。」
「経験値は低いがな、時折珍しいものを落とすんだ。弱い割には美味しい魔物さ。だがな、弱いとは言え見た目がアレなもんだから、精神的に宜しくないようで積極的に狩る奴はいないみたいだな。」
そう言っていた、武器屋のオヤジの言葉を思い出し、改めてこちらに向かって来る魔物を見る。
(なるほど……。こりゃあ知らなかったらビビるわ。)
迫力があり過ぎるのだ。弱いとは言え、こんな奴の攻撃を受けるのは精神的に宜しくない。
「よし。とりあえずあの魔物は弱いみたいだし、初戦の相手には丁度いいか。」
そう、俺が言うと、それが魔物にも聞こえたようで、魔物は俺たちの20m程先で歩みを止めた。
「この俺を弱いだと……、言ってくれるではないか……、この貧弱種が! 村を滅ぼす前に、まずは貴様に身の程を教えてやる。我の漆黒の爪のもと、一撃であの世に送ってやろう!」
(なんだか、凄く怒っている……。)
頭では雑魚だとわかっているのだが、やはり、どうしても見た目に圧倒されてしまう。
「じゃあ、作戦通りに俺が足止するからチカちゃんは魔っ――!?」
俺は、その作戦指示を最後まで出すことが出来なかった。
少し後ろにいたチカちゃんに、指示を出そうと、魔物から目を離し横を向いたその一瞬で――。
真っ黒な巨体が、眼前を覆っていたのだ。
そして。俺が目にしたのは、太く逞しい腕から伸びた漆黒の爪で
今まさに、俺を貫かんとしている瞬間だった。
(なっ――、嘘だろ!? 20mはあったじゃないか。ゆ、油断したっ――、避けられないっ!!)
弱い魔物だと頭では理解しているはずなのだが、目の前の圧倒的な迫力に、体が思うように言うことを聞かず、回避行動が取れなかった。
刹那の時の中、ゆっくり、そしてハッキリと、迫り繰る漆黒の爪が見える。
(よ、弱い魔物のはずだし、きっと大したこと無いよな……? 嘘だったら恨むぞ、武器屋のオヤジ!!)
もう殺し終わったというように、余裕の笑みを浮かべた魔物の顔を見ながら――。
(無傷、ってわけにはいかないよな……?くっ――。)
俺が苦痛を覚悟した、次の瞬間。
「ご主人様っ!!」
そう花子が叫び、俺を背中に庇う様に、魔物の前に立塞がった。
「は、花子お姉ちゃん!?」
一瞬の出来事に、チカちゃんも咄嗟に動けずにいた。
(なっ――、は、花子?! やめるんだ!!)
俺は、焦った。
俺ならばまだしも、圧倒的に低い花子のステータスでは、いくら目の前の魔物が弱いからといっても、下手をすれば、致命傷になりかねない。
(――だから、あの時、打ち合わせをして、戦いに参加するな、とあれほど言ったのに!!)
魔物は、花子の事を意にも介さず、花子ごと俺の体を貫こうとしているようだった。
花子は、それでも懸命に手に持った短刀を、魔物の心臓に目掛け突き刺そうと手を伸ばしている。
(体が動かない……。くそっ! 間に合わない――。花子……、無事でいてくれよ!!)
俺は――、迫る最悪の現実から逃げるように目を閉じ、
(花子っーー!!)
心の中で花子の名前を叫んだ。
だが、次の瞬間に訪れると予想していた衝撃は、何時まで経っても訪れなかった。
慌てて開いた、その目の先には……。
俺の予想を裏切る光景が、広がっていたのだった。
そこには、先変わらない位置に花子が……。そして、その先には、黒い巨体の魔物が立っている。
ただし、目を閉じる前と違うのは……。
余裕を浮かべた表情で、俺と花子を虫けらのように殺そうとしていた
黒い巨体の魔物が、驚愕の表情を浮かべ、花子を見ていた。
「な……んだと……。まさか……、この俺が……、魔族が……、こんな獣人の小娘如きに敗れるなど……。油断さえしなければ……、お前などに……、負けるはずが……、ない…んだ……。」
「ご主人様を傷付けることは、私が絶対に。絶対に許さないんだから!」
そう言って、魔物を睨みつける花子が、短刀を魔物の心臓から引き抜くと、魔物は力なく崩れ落ち。そして、地面倒れ込むと同時に、ガラスを砕いたかのような光の破片となり、消滅した。
「ご主人様……。大丈夫? 怪我は、なかった?」
固って動かない俺を見て、心配そうに、花子が声を掛けてくる。
俺は、花子の体を見つめていた。
花子の体からは、先ほどの魔物が残した浅い傷跡から血が滲み出ている。俺は、その傷から目を離せず、動けずにいた。
目の前で起きたこの出来事に、この花子の行動に……。
俺は……。俺はどうしても伝えたかった。
花子に、伝えずにはいられなかった。
花子に対する思いや、感情が溢れ出していた。
この思いを、感情を……、ありのままに花子に伝えよう。
そうだ……、この感情は……。
…
「こぅおぉぉらああぁぁ、花子! お前は、何考えてるんだぁぁぁ!!」
「最弱のお前が戦ったら、怪我をするから見ているだけにしろと、あれほど言ったのに!!」
「しかも、本当に怪我までしてるじゃないか!!」
「敵が弱かったから良いものの、本当だったら大怪我をしていても、おかしくなかったんだぞ!!」
そう……。この感情は『怒り』だ。俺は、怒りの感情をありのままに花子に伝えた。
「だって、だって、ご主人様が……。ご主人様が危ないって思ったんだもん……。」
上目使いの泣きそうな顔で、目を潤ませながら訴えてくる。
「花子お姉ちゃんも、扇お兄ちゃんを守ろうとして取った咄嗟の行動なんだから、許してあげようよ。」
チカちゃんも、花子を擁護している。
一瞬、許そうかと思ったが……。
(だがしかし……。ここで甘やかしてまた同じことをされたら、次こそ取り返しが付かなくなる。それだけは、絶対に避けなくちゃいけない。)
「だってじゃない! もう二度と俺を庇って戦わないって約束しなさい! 約束を守れなかったら、二度と撫でてやらないからな!」
「ヒドイ!! そんなの嫌だよぉ……。約束……、する……。グスン」
(ちょ、ちょっと、きつく言い過ぎたか……?)
「だから……、ご主人様……。撫でて♪」
本当に反省しているのかと、一瞬疑ったが……。
まあでも、花子が俺のことを庇ってくれようとしてくれた気持ちは
言葉には出さないけど、素直に嬉しかった。
俺はせめて、言葉の代わりにと満足するまで花子を撫でてやった。
…
「それにしても、花子でも倒せるなんて、聞いていた以上に弱いな。」
最初の戦闘の後は、それまで魔物と遭遇しなかったのが嘘かのように、沢山の魔物と戦った。
角の生えたウサギや、キノコの化け物、動く人食い花や大きい芋虫など村の周囲には様々な魔物がいた。
どれも俺一人でも倒せる程度の魔物だったが、連携を練習しながら、チカちゃんと一緒に戦った。
一番強かったのは、やたらと大きいイノシシのような魔物だったが……、それでもチカちゃんの魔法で一撃で倒せた。
花子は、あれから約束を守り、終始応援やらサポートに努めてくれていた。
今は丁度、最初に倒した魔物と同じ種類の魔物を倒したところだ。
あれから何度か、同じ種類の魔物に遭遇しているが、どれも見た目が違うので見るたびに一瞬怯んでしまう。
まあ、最初で慣れたせいか、最初ほどにビビることは無くなってはいるが……。
それでも精神的にくるものがある……。
(弱いんだけど、素早くてびっくりするんだよね、コイツ…。)
しかも、最初の奴以外は喋りこそしないものの、イキナリ襲ってくるから余計に達が悪い。
「僕は、最初戦ったあの魔物が一番怖かったよ。花子お姉ちゃんと扇お兄ちゃんが、本当に死んじゃうかと思ったもん。」
「そうそう、俺も、あの時はあまりに迫力に、一瞬死ぬんじゃないかって思った!」
この魔物は、本当に弱い。
花子はダメージを受けたけど、俺やチカちゃんの場合だと、ダメージが全くと言っていいほどに無い。
魔物が消えた後に、金属の塊らしきものが残っている。
「おっ。今度は金属のドロップか、高く売れるかな?」
この魔物が落とすドロップも、見た目同様バラバラで、最初に倒した魔物は漆黒の爪というアイテムを落とし、その後は羽やら薬やら金属やらと取り止めが無い。
「連携もある程度確認出来たし、そろそろ日も暮れそうだから宿に戻って食事にしようか。」
「うん! そうだね!」
「ご主人様、お腹減ったよ~。」
感想や評価を頂けると死ぬほど喜びます。