冒険の始まり。
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冒頭部分はなるべく早いペースで更新していこうと思います。
「では、ホールレイル探索については、私から詳細を説明しましょう。」
そういって、ルーメミラはイケメン、メガネ、白石を集めた。
「ウルルス様救出については、わたくしサントンが説明をさせて頂きます。」
そうして、俺、花子、チカちゃんは、サントンの説明を受けた。
サントンの話の内容は、次の通りだ。
ウルルス様と呼ばれる観測の賢者は、3年ほど前から幽閉されており、幽閉場所は国王にしかわからない。
国王から居場所を探り出す必要があるが、国王に面会出来る人間は限られているため、簡単には会うことが出来ない。
以前は、協力者の中に国王とのコネクションを持っているものもいたが、国王が勇者救済預言を信じる人間の弾圧を始めたために
今のサントン達の力ではどうにもならないため、俺たちの力だけで国王と面会する必要がある。
「なるほど、それで国王に会うための近道が、国営ギルドで功績をあげることというわけか。」
ギルドには、私営と国営の二種類のギルドがあり、国営と私営にはいくつか違いがあるらしい。
国営ギルドのほうが、私営よりも依頼の難易度、報酬が高い傾向にあり
そのため、国営ギルドに加入するためには、能力以外にも厳格な審査があり、一朝一夕では加入出来ないそうだ。
また、国営ギルドは一度加入してしまえば、その権利がはく奪されることはないのだが。私営ギルドは、依頼を受けなかったり、依頼の失敗が続くと、追放処分になる。
もう一つ大きな違いは、国営は依頼を自分で選択出来るが、私営ギルドは強制的に依頼を斡旋されることが多いようだ。
国営、私営の名の通り利益目的かそうで無いかで、スタンスが異なるみたいだな。
「ただ……、大変申し上げにくいのですが……。私たちの力では、国営ギルドの審査を通すことも出来ません……。」
「ただ、方法が、全く無いわけではありません。私営ギルドからの強い推薦があれば、国営ギルドに、審査なしで加入出来る制度があるのです。」
「わくしの知り合いに、私営ギルドに顔の利くものがおります。まずは、私営ギルドに入り実績を積んで下さい。ただ……、実力の無いものを推薦すれば、ギルドの沽券にかかわると言われておりますので、勇者様達のお力に期待する他はありません。」
…
「なるほど……、わかりました。では、その『天使の歌声』というギルドに、この紹介状を見せればいいんですね。」
サントンから受け取った紹介状を、肩掛けになっている大き目な皮製の巾着の中に入れる。
これも、サントンが用意していたもので、特殊な魔術が込められているそうだ。
曰く、2週間分の食料くらいの量ならば、入ってしまうらしい。
高価なものではあるが、このような収納アイテムは、一般的に広く普及しているそうだが、サントンさんから貰ったこの巾着は、容量が大きいので比較的高価な部類になると言っていた。
ただ……、5人分しか用意がなかったので、勇者ではない魔獣の俺の分は無いそうだ……。
まぁでも。サントンさんも申し訳無さそうにしていたし……、勇者で無い以上仕方ないよな……。
「最後に路銀と、食料をお渡し致します。心からのご武運を、祈っています。」
こちらは、一通り説明を聞き終わったのだが、ホールレイル探索パーティーのほうは、まだまだ時間がかかりそうな様子だったので、事前に、目的地の方角も違うと聞いていたこともあり、お互い頑張ろうと一言声を掛け、建物の外に出た。
「おぉー。なんだか空気がうまい気がするな。」
建物の周りは、木々に囲まれていて、避暑の別荘というような感じだった。
都会育ちの俺は、こんな風に木々に囲まれたところに来ることなど、滅多にない。
サントンさん達は、勇者救済預言の弾圧をおこなう国の監視を避けるため、この田舎の小さな村で活動をおこなっているらしい。
俺たちを見送ったあとも、引き続き世界の脅威について調査をおこなうと言っていた。
「ご主人様……。お腹減ったよぅ……。」
「あの……。僕も少しお腹空いたかも。」
「そうだな……。どこかでご飯でも食べながら、もう少し今後の方針を固めるとするか。」
「それと。もう少し、まともな装備を揃えようか。」
布の服じゃ、心許ないもんな……。
小さな村だが、宿や武器や、防具屋、薬屋などはあるようで、宿では料亭も兼ねているらしく、そこで俺たちは食事をとることにした。
食事を待っている間に、改めてお互いに自己紹介をした。
「俺は扇祐樹。最近オンラインゲームに嵌ってる、高校三年だ。」
「えっと……。僕は、宇佐美ちか。中学二年です。
あと、何を喋ったらいいかな……。あ、料理が得意です。」
「私は花子だよ。ご主人様に、飼われてます。」
チカちゃんが、俺と花子を交互に見比べ、顔を赤くして俯いてしまった。
「いや、誤解しているから! さっきは言いそびれたけど、花子は本当に俺の犬だったんだって!」
一部始終を話しても、中々納得して貰えなかったが、花子の頭に生えている耳が、本物だとわかると……。
「凄いです! これ本物ですね。可愛いなー、いいなー。」
と、興奮した様子で言いながら、花子の耳を触っていた。
「チカちゃん、クスぐったいよう……。」
「ごめんなさい。でも、凄く触り心地がよくて、僕、つい夢中になってしまいました。」
ほう……、そんなに触り心地がよいのか……。
どれどれと、花子の耳にそっと手を触れる。
確かに……。かなりの触り心地の良さだ。
「あっ……。ご主人様……そこはだめっ……。」
そう言われて、俺は慌てて手を引っ込めた。
い、いかん……。花子は元は、犬だ……、落ち着け、落ち着け……。
「むっー、ご主人様。なんでやめちゃうのさ。」
顔も可愛いし、スタイルもいい。おまけに胸も大きい……。でも――。
花子は、花子だ。
「事情は、何となくわかったよ。扇お兄ちゃんは、一応変態じゃない、ってことにしといてあげる。」
「うんうん。ご主人様は、大きい胸が大好きなだけで変態なんかじゃないよ!」
「ちょ――、花子っ!!」
「やっぱり……、変態!」
丁度料理が運ばれて来たので、サントンの話をもう一度整理し
今後の方針ついて話し合った。
…
そして、料理も食べ終わり……。
「じゃあ。さっき決めた通りに、お店で必要品を揃えてから、村の周辺を散策して、ここで一泊だな。」
私営ギルド「天使の歌声」のある隣町までは、歩いて二日程の距離で、ここよりも大きな町だそうだ。
強行軍で行けなくはないとは思うが、異世界の勝手になれないうちは危険と判断し、今日一日はここで過ごそうと決めたのだった。
俺の中のゲームのセオリーでは、攻撃は最大の防御とばかりに攻撃力重視なのだが……。
現実ではそうも言ってられないよな……、死んだら元もこもないし。
というわけで、まず防具屋を目指した。
「いらっしゃい、ゆっくり見て行っておくれ。」
防具屋のオバサンが、俺たちを出迎えてくれた。
店内は思ったよりも品揃えが豊富で、金属性の防具こそ少ないが
動きやすそうな素材の防具は、それなりの種類があった。
「オバちゃん。これっていくらするんだ?」
一番高そうな装飾をあしらえた、重厚な盾を指さして聞いてみる。
「あらあら。お目が高いね、それは、うち一番の品で金貨5枚だよ。」
うわ……、た、高けぇ……。
サントンから、路銀として貰ったのが、銀貨2300枚だ。
一人当たり1000枚だったのだが、またしても、勇者では無いことを理由に貰えなそうな雰囲気だったのだが……。
イケメンが、あまりにも可哀想だと、全員から100枚を集めてくれて、勇者900枚、俺500枚となったのだ。
顔だけじゃなくて、心までイケメンとは……、女だったら間違いなく惚れていたな……。
ちなみに銅貨100枚で、銀貨1枚、銀貨1000枚で金貨1枚というレートだと、サントンが言っていた。
この村の宿代が、一泊食事付きで銀貨1枚、先ほどの食事が三人で銅貨50枚ということからも、この盾の値段が、如何に高いかがわかる。
「うーん。とてもじゃないけど買えないなぁ……。」
「そりゃ、そうだろう、お前さんたちの格好をみたら、それくらいわかるさ。はっはっは。」
オバちゃんが、小声で耳打ちしてきた。
「女の子を、二人も抱えて大変そうだね。少しオマケしてあげるから、後ろの二人にいいとこ見せなよ。」
何やら、誤解されている感じがするが、安くしてくれるならいいか。
「おばちゃん、銀貨600枚くらいで三人分、いい感じのを見繕ってくれないか?」
「お。思ったより頑張るねー。オバちゃん張り切って選んじゃうよ。」
俺が伝えた要望にあうような装備を、丁度銀貨600枚で見繕ってくれた。
俺は、前衛の役割を担うため、鎖かたびらと打ちっぱなしの鉄の盾
あとは、手足に革製のプロテクターという感じで、見た目はお察し下さい状態。
花子は、ステータス的にどうしようも無いため、防御力と軽さのバランスを重視し鉄製の胸当てと、鉄製のプロテクターを両手に嵌めただけにした。
見た感じは、ゲームで言うところの、女盗賊というような感じになっている。
チカちゃんは、頭をすっぽりと覆うフードの付いた、花の装飾が施された白いローブ。
「これが一番値が張るよ。」と、オバちゃんが言っていた。
布の服は引き取って貰い、インナーや服などは、まともに見えるものを、「サービスだよ。」とオマケをしてもらった。
オバちゃんにお礼を言い、次の武器屋に向かう。
「オバさん、いい人だったね。」
小さい見習い魔法使い、というような出で立ちとなったチカちゃんが、話しかけてくる。
「ああ。そうだなー、あんな人の為にも、この世界を守らないとな。」
「うん、そうだね。僕、頑張るよ!」
次の武器屋では、銀貨150枚を使って、俺用のショートソードと、花子用の短刀を買った。
チカちゃんにもと思ったのだが、魔法向けの武器の取り扱いは無いようなので、次の町で揃えることになった。
「それにしても、武器屋の親父の話……、本当なのかな……?」
「ご主人様が、さっき聞いてた、この村周辺の魔物の話?」
「そうそう、見た目は物凄く強そうなのに、弱いモンスターの話。親父曰く。
『ここら辺の、ある意味名物でな、初めて来た人間はソイツの見た目に物凄く驚くんだが、実際は攻撃力と防御力が1000もありゃ余裕で倒せる雑魚さ』、とか言ってたけど……。」
「強い魔物の姿に擬態して、身を守ってるのかな? 僕、そんな虫の話聞いたことあるよ。」
「そんな感じなのかな?」
よし、ここらでいいだろう。
俺たちは、村の中の少し開けた、何もない場所に立っていた。
(いきなり戦闘ってのも、不安だからな……。)
「よし。まずは、役割の確認からするぞ! きちんと理解しないと危ないから、ちゃんと聞くように!」
「はーい。ご主人様。」
「うん。わかったよ。」
「まず、俺が前衛だ。前衛っていうのは、敵を引き付けたり足止めしたりする役だ。」
「そして、後衛がチカちゃん。これは敵を攻撃して倒したり、仲間を回復したりする役だ。」
「僕が敵を倒す役だね。ふっふーん♪ 扇お兄ちゃん、強くて大人な僕に、頼ってくれていいんだよ~。」
まだ、あのことを根に持っていたのか……。
「そして、最後に花子。花子は、俺たちのことを、応援する役だ。」
「はーい、ご主人様。って……、えぇ!? 私もご主人様と、一緒に戦いたいよ……。」
「絶対、駄目だ! 花子は、自分が最弱なことを自覚しなさい! いくらこの周辺には、大人しくて弱い魔物ばかりとはいえ、花子のステータスだと大怪我をする可能性だってあるんだぞ。」
「ご主人様は……。私のことが、心配なの?」
「ああ、そうだ。大怪我なんてされた堪ったもんじゃなからな、ちゃんと大人しくしていろよ!」
「はーい。わかりました♪」
何やら、ご機嫌な表情で花子が答える。
「今度は、能力を試してみようか。花子、出来そうか?」
「うん。やってみるね。」
「我が僕に命じる! 魔獣召喚!!」
「うぉ!?」
一瞬目の前が眩しくなったと思ったら、花子の真横に移動していた。
「ご、ご主人様…!? こ、この能力最高だー!!」
花子が、物凄く興奮しながら喜んでいる……。
「というか……。『我が僕』って……。」
「ごめんなさい、ご主人様……。なんか能力を使おうと思ったら、口が勝手に……。」
「なるほど。そういう仕組みなのか……。」
「まあ、でも……。俺がびっくりするから、この能力は勝手に使うの禁止な!」
「えええええぇぇぇええ……。ご主人様のけちいいいぃぃぃぃ!」
花子が見るからに落ち込んでいるが、俺もいきなり移動させられては堪ったもんじゃない。
「よし、この調子でどんどん能力を試してみようか!効果がわからないと、いざというときに困るからな。」
「あの……。扇お兄ちゃん…? 能力って、ステータスから効果が確認できるよ?」
「え……。そうなのか……? 花子、そうなの?」
「あ、ほんとだ。能力に、説明が書いてあるよ。」
「それを、早く言えよ!!!」
俺に能力が無いから分からなかったが、試すまでも無く説明があるようだ。
花子の能力の詳細は、こうだった。
『魔獣召喚』
50m以内にいる使役している魔物を、すぐ傍に召喚する。
リキャストタイム:60分
『魔獣治療』
使役している魔物を治療する。
治癒力は魔力に依存する。
リキャストタイム:5分
『魔獣信頼』
自身の力の全てを、使役ビーストに分け与えることが出来るが
効果持続中は、自身のステータスは全て1となる。
リキャストタイム:24時間、持続効果5分
「花子……。魔獣信頼も絶対に使用禁止!」
ステータスが1とか、石が飛んで来ただけ死ぬでしまうんじゃないのか……? しかも、花子のステータスは、元々スズメの涙ほども無い。
完全に、死にスキルだな……。
「はーい。ご主人様の言う通りにしまーす。」
チカちゃんの能力は、魔法で、わかりやすいものだった。
『5元素魔法』
リキャストタイム:30秒
魔法の効果、威力は魔力とその消費量に依存する。
『回復魔法』
リキャストタイム:3分
魔法の効果、威力は魔力とその消費量に依存する。
チカちゃんに、何度か魔法を試して貰ったところ、術者のイメージで効果範囲や、持続時間など、魔法がどう具現化するかを決めることが出来るようで、それに伴った、魔力を消費するらしい。
魔法自体にも、属性ごとに、それぞれレベルがあるようなのだが、「レベルというのは、魔力を魔法に変換するときの効率だけの差でしかない。」と説明にあったらしい。
低出力であれば影響が少ないのだが、高出力にすると、二次曲線的に魔力の消費が増えていくことがわかった。
チカちゃんが言うには、魔力を全力で注ぎ込めば、家を破壊するくらいの威力は出そうとのことだった。
レベル1で、この強さか……。
レベルが上がったらどれだけの威力が出せるようになるんだろうか?
それと、魔力は回復するのだが、魔法のイメージは精神的に少し疲れると言っていた。
「大体の能力は把握できたかな。それじゃあ、最初の打ち合わせ通り、俺が前衛、チカちゃんは後ろから魔法で敵を倒してくれ。」
「念のため、もう一度言うが……。花子は、レベルがあがるまで絶対に戦ったらダメだからな!」
「はーい、わかってますよ♪」
「よし。それじゃあ、村の外を探索してみるか。」
…
一方、その頃ーー。
森の中、辺りには1つの影を除き、生き物の姿は見えない。
影に怯えた生き物達は、身を潜め影が去るのを待っている。
「ちっ……。魔王は生温いんだよ。」
全身を覆う、黒く禍々しい毛並、闘牛を思わせるような全身を筋肉で包まれた肉体……。
頭からは二本の角が左右から生えていて、手には鉤爪と見紛う鋭い爪が備わっている。
背の高さは2mほどだが、逞しい体つきのせいで、それよりも遥かに大きく見える。
「人間なんて、腐るほどいるんだ。少しくらい殺したっていいだろうがよ!」
決して大声ではなかったが、怒気の籠った声に、怯え隠れた生き物たちは、さらに体を小さくする。
「決めたぜ、我慢なんて真っ平だ! もう魔王なんって関係ない、手始めにそこの村から破壊してやるとするか……クックック。」
平穏な村へ一歩、今一歩と災悪が迫るーー!!
…
同じ頃、村では……。
「あぁ、いけねぇ……。あいつらに大事なことを言い忘れてたな……。見た目は強そうなモンスターは、元がスライムだから喋ったり鳴き声を上げたりしないって注意するの忘れてたぜ。」
「でもまぁ……。ここらには、そんな強い魔物は現れないから平気だろ。」
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