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獣人の国。 ④

いつも読んで頂きありがとうございます。

週末のうちに更新したかったのですが、遅くなってしまいました。


一応、予定通り30~35話あたりで前半を書ききれそうです。

「今までは、この荷物はアックス殿が運んでくれていたものなんじゃ。」


 そう言って、ゴウルさんは、俺たちが運んできた荷物を指差して、教えてくれた。


「人間との交流が激減し、一番困ったのが医療問題でな――。」


 そして、話してくれた昔話から、俺たちはアックスさんの意外な一面を知ることになった。


 この世界では、怪我の治療にはポーションと言われる、薬草などを調合したものに回復魔法を込めた物を利用するのが最も効果的らしいのだが、元来、魔力適性の低い獣人が回復魔法を使えることは極々稀で、ポーションの地力での作成は困難らしい。

 そのために、本来ならば救えるはずだった命が、ポーションが無いために救えなかったということが起こっていた。

 そこでアックスさんが、数か月に一度、村へ届けているのが、このポーションと言う訳らしい。


 アックスさんは、22年前の戦いにも参加しており、当時は人間の国の最強の戦士の一人だったそうだ。

 戦場でのアックスさんは、それはもう鬼神の如き強さで、多くの獣人を圧倒していたそうだが、獣人側の軍師だったルズの父親のゴズと接戦の末に敗北し、死ぬ筈だった所を、そのゴズに命を救われたのだ。


 アックスさんは、戦場で多くの敵の命を奪い、多くの部下の命を失っていた。

 だけど、その一方で。ゴズのように救える命を救おうと努力を続けていた獣人、人間がいたことを知り、己のあり方に悩み、そして――。


「あの時の事は、鮮明に覚えておる。それだけ強烈な出来事じゃったからな……。」


 そう言って遠い目をしながら話の続きをしてくれた。


「戦いから、一年後にアックス殿がワシの元に来てな。普通ならば、話を聞く前に追い返しているはずなんじゃが、アックス殿の異様な変わり様に、皆困惑してしまい、いつの間にか話を聞くことになっていたんじゃ。その時に、これまでの贖罪をしたいと申し出てくれたのが、このポーション支援なんじゃ。」


「異様な変わり様っていうのは、やはり……?」


 俺は、アックスさんの姿を思い浮かべながら尋ねてみた。


「そうじゃ。最強の戦士に相応しい風貌だったアックス殿が、美しい声のメイド服姿に変わっていたんじゃ。」


「僕は、アックスさんって元々、あんな感じの人なのかと思ってました。」


 チカが、俺の思っていたことを代弁してくれた。


 昔は、顔と風貌が一致していたんだな。

 一年の間にアックスさんに一体何があったんだろうか……。


「ポーションの支援以外にも、町外れの慰霊碑に、毎年花を供えに来ていてな。最初は、誰もアックス殿に心を開いてはいなかったのじゃが、今では殆どの者は感謝しておるよ。」



 村長の昔話が一段落したところで、俺たちは町に送り届ける獣人の元へ向かっていた。


「本当に意外ですね。アックスさんの過去に、あんな事があったなんて……。」


 チカがそう言った。


「アックスさんも、私たちと同じで、人間と獣人が仲良く出来るように頑張ってる仲間なんですね、ご主人様!」


「そうだな。俺たち以外にも、そういう人間や獣人って、もしかしたら沢山いるのかもな。」


 俺たちは、ゴウルさんの話に合った町外れの慰霊碑の前に差し掛かっていた。

 そこには大きな一枚岩が1つ、それより一回り小さい岩が左右に2つ並べられ、そこには沢山の花々が咲き誇っている。

 これが慰霊碑と知らずとも、きっと何かしら意味があるものだということは、気が付いていただろう。

 

 そこに、今まさに花を供えようとしていた、一つの人影があった。


「扇お兄ちゃん。あれってルズさんじゃ……?」


 そこにいたのは村長宅に向かう途中で絡まれた、熊の獣人だった。

 

 うげっ、また会ってしまった……。


 向こうも、馬車の近付く音でこちらの存在に気が付いたようだった。


「よう。また会ったな。」


 ぶっきら棒に、ルズが話しかけてきた。


「さっきは悪かったな、爺さんの客人だとは知らず、すまなかった。この慰霊碑に何か用なのか?」


 ルズの視線は明らかに、花子だけを見詰め、話しかけているようだ。


「アックスさんの依頼で、病気の女の子を治療のために町に送るんだよ。」


 そう花子が答えた。


「そうか。アックスの奴が、ルルの治療を……。」


 そう言ったルズの表情は、どこか納得できないような、そんな表情をしていた。


「花子さんは、アックスの奴をどう思っているんだ?」


 は、花子さん!? まさかの『さん』付けとは、ルズの中で花子ってどういう扱いなんだ?


「獣人と人間が仲良く出来るように頑張ってる、とってもいい人だと思うよ。」


「……そうか。花子さんがそう言うのなら、俺もそろそろアックスと、真剣に向き合うときなのかもしれないな。」


 ルズは少し考えた後、何か決心した顔でそう言った。


「最近、獣人を狙う盗賊がここらに出没しているんだ。人間の町に向かう獣人っていうのは病人や荷物を積んだ訳ありな奴が多いからな、そこを付け込まれて狙われてるみたいだ。そこでだ――。」


「俺程度の力が、花子さんにどれだけ役に立つかはわからないが、俺を一緒に連れて行ってくれないか? 花子さんなら、一人でも盗賊如きは倒せるだろうが病人を守るには、仲間が多いほうがいい。」


 なんか、ルズは花子のことを相当に誤解しているようだが、獣人が仲間になってくれるというのは、正直心強い。


「私は構わないけど……。ご主人様に聞いてみないと決められないよ。」


 そう言って、花子は俺に判断を委ねる。


「そうだな、ルズの言う通り人数がいたほうがより安全だと思う。俺は問題ないぞ。」


 出会いは最悪だったが、それは誤解や歴史の背景があっての結果だ。

 そんなことを気にしていては、この先人間と獣人の仲を修復するなんてことは、出来ないだろう。


「ただ、ルズ。何を勘違いしているかわからんが、花子を頼るのはやめろよ。」


「何のことだ? まあ、俺がいるからには花子さんの手を煩わすようなことにはならないがな。」


 やっぱり勘違いしている気がするな……、まあ、頑張ってくれるならそれでいいか。


「それとだ、俺は人間の指図は受けねぇ。俺が聞くのは花子さんの指示だけだ。」


 そうルズが言い放ち。俺と、ルズがお互いに顔を背けている中で、花子は


「ご主人様も、ルズさんも仲良くしてね!」


 と、ニコニコと笑いながら言うのであった。

 

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