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獣人の国。 ③

いつも読んで頂けている方ありがとうございます。

大変お待たせいたしました。獣人の国編も残すところ1話です。


次回は7月20日付近に投稿予定です。


「獣人に使役される人間とは、此奴は傑作だぜ。」


 そう言って、ルズが大笑いし始めると、釣られて他の獣人たちも笑い始めた。


「てっきり俺は、身の程知らずの人間が、獣人の奴隷を連れてやってきたのかと思ったんだが……。お嬢ちゃんたちが人間を使役していたとはな。」


「俺は人間は大嫌いだが、嬢ちゃんのペットに手を出す気は無い。悪いな、嬢ちゃんがソイツを妙な呼び方で呼ぶから、勘違いしちまったようだ。」


 なるほど。魔獣使いスキルのおかげで、俺が、花子に使役されている対象だと認識されたわけか。

 さっき生きるか死ぬかの状況から、まさかこんな形で助かることになるとは……。


 花子、ナイス!!


 そして、先程よりは穏やかな表情になったルズが花子に近寄り、大きな手を差し出してくる。


「まあ、俺たち獣人同士仲良くやろうや。」


 花子は少し迷ったようだが、ルズと手を握り握手を交わす。


「そうだね。ケンカは良くないよね。」


「ただ、ソイツの呼び方が気に障る。止めてくれないか?」


 表情は然程変わらないが、目には有無を言わさぬ凄みを感じた。


「ご主人様は、ご主人様だから変えられないよ。」


 花子がニッコリと笑い、そうルズに答えた。


 は、花子。空気読め!! 呼び方ぐらい、この際、なんでもないだろっ!?

 犬でもペットでも、何でもいいじゃないか!!

 

「……わかった。好きにしろ。」


 意外にもあっさりと、そう言い、ルズは握手を交わしていた手を解き、仲間の獣人を連れ、去って行った。


 よ、よかった……、また死地に追いやられるかと思ったぜ。


「結果的に何もなかったから良かったけど、あそこは空気読むところだぞ?」


「何で? ご主人様は、ご主人様でしょ?」


 そう答える花子を見て、元犬だけあって、空気を読めない性格なのかもしれないなと思い、それ以上の追及は諦めた。



「あの女……、かなり本気で手を握ったんだが表情一つ変えやがらなかった。」


 ルズは手の感触を確かめるように握りながら、そう呟く。


「まさか。村一番の怪力の兄貴が、本気で手を握って平気でいられるなんて獣王くらいですよ。兄貴は女、子供には優しいですからね。無意識に手加減しちまったんじゃないですか?」


 そう、ハイエナ風の獣人が答えた。


「バカか、本気じゃなくても、兄貴が力を込めたら、女の手なんて簡単に潰れちまうよ。」


 そう答えたあと、キツネ風の獣人は、ハイエナ風の獣人に小声で耳打ちする。


「本気っていうのは、兄貴が本気で惚れたってことだよ。なのに、あの女は表情を変えなかったってことだ。」


「つまり、振られたってことか。」


「バカか、口に出すんじゃない。ルズ兄貴に聞かれたらどうするんだ。」


 幸いにもルズの耳には二人の獣人の話は届いていなかった。


(まさかこの俺が、女相手に力負けするなんてな。それにしても……。)


 空を仰ぎ、先ほどの犬族の獣人の顔を思い描く。


(花子って言ってたか、……可愛かったな。)



「そんなことが……、申し訳ありません。粗暴な孫に代わり謝罪させて頂きます。」


 そう言って、村長のゴウルさんが俺たちに頭を下げてきた。


「そんな。花子のおかげで実害があったわけじゃないですし。頭を上げてください。」


 俺たちは積み荷を引き渡した後、ゴウルさんの「少し休んで言ってはどうですか?」と言う提案に甘え、俺たちは暫しの休息を取りがてら、先ほどの出来事を話していた。


 ゴウルさん曰く。

 ルズという獣人は、ゴウルさんの孫で、村の中では若い者を中心に人望を集めているそうだ。

 ただ、ある理由から人間を極端に嫌悪しているために、度々人間相手に問題を起こすことがあるらしい。


「あの子も、元は種族の垣根無く誰にでも優しい子じゃったんだがな。22年前の戦いで父親を失ってから、あのようになってしまったんじゃ。」


 物悲しげに、天井を見詰めながら、そう教えてくれた。


「争いは何も生み出さない。三百年前の時のように、獣人と人間は互いに手を取り合い、共に平和を守るのが理想の世界だと、ずっと息子が孫に言い聞かせておったんじゃがな……。」


 23年前、フリースの国王が始めた差別政策により、それまで友好な関係だったグルドとの関係は1年も経たずに最悪の結末を迎えてしまったそうだ。

 国境付近で一度だけ大規模な戦いがあり。数で勝る人間と、圧倒的な身体能力の獣人の戦いは熾烈を極めたが、結局はお互いに痛み分けとなった結果、お互いに大規模な争いを避けるために不可侵条約が結ばれたそうだ。

 その時に、村長の息子、ルズの父親も亡くなってしまったと言っていた。


「いつか、お主たちの様に、獣人と人間が一緒に暮らせる日が来るといいんじゃがな……。」


 ゴウルさんは、俺、花子、チカを順番に見比べて、そう呟く。


「きっと、いつかそんな日が来ますよ! ね? 扇お兄ちゃん。」

「そうです。ご主人様がきっと何とかしてくれます。」


 花子とチカが、元気よくそう答える。


「心配しなくても大丈夫。俺たちが、今の現状を変えてやるさ。」


 花子、チカと同じように俺も答えた。


「アックス殿がお認めになるのも頷けるよ。お主たちを見ていると、本当に何かが変わりそうな気がしてくるから不思議じゃな。」


 そう言ったゴウルさんは、優しく、少し嬉しそうな、そんか表情をしていた。

感想などを頂けると嬉しいです。

読んで頂いてありがとうございました。

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