プロローグ
読んで頂きありがとうございます。
随時投稿して行きますので宜しくお願いします。
(いよいよ、だな……。)
数日前から俺のテンションは上昇を続け、今や、最高潮を迎えようとしている。
それもそのはずである。
とあるゲームの中で知り合ったウサ耳猫ちゃんと、3か月ほどの連絡のやり取りの末。とうとう今日、二人で会えることになったのだ。
ゲームの中で、犬派猫派の話題で大いに盛り上がり、お互いが犬派だったというのがキッカケで、ゲーム以外でも連絡を取るようなり。今ではかなり頻度で連絡を取り合っている。
そして、つい先週そろそろ次の段階へと踏み出すべく、とある作戦に出たのである。
「うちで飼っている、犬の写真を送るよ!」
そんなメッセージを添え、犬と一緒に写る俺の写真を送ったのだ。
正直これは、一か八かの賭けだった、俺の顔を見てドン引きされる可能性すらあった。
(だが、しかし…!!)
結果は、大成功だった。
犬好きがきっかけで仲良くなったウサ耳猫ちゃんには、やはり犬の写真は効果抜群だった。
効果は予想以上で、向こうから会いたいとメッセージが来たときは、正直目を疑った。
俺の『犬をダシになし崩しに会う』作戦は、一瞬で最高の成果を生み出したのだった。
そして今は、待ち合わせに指定した、県境の公園の前に来ている。
(まだウサ耳猫ちゃんは、来ていないようだな。)
というか、待ちきれずに3時間も前に到着しているわけだが……。
手に持った携帯が震える。
お、ウサ耳猫ちゃんからのメッセージだ。
「祐樹さんに会うのが楽しみです。早く会いたいな。」
来ただろこれ、来てるだろ!?
『彼女いない歴=年齢』の汚名を、とうとう晴らせるときが来たのか!?
あわよくば、大人の階段を登ってしまうなんてことも……?
そんなことを考えている祐樹の顔は、不審者と見まごうばかりの表情になっている。
現に、彼の前から歩いてきた女子高生と思しき二人組が、祐樹の顔を見るなり、公園の前に立っている祐樹と思いっきり距離を取りながら
「何あれ……。気持ち悪い」
と囁きあっていたが、有頂天になっている祐樹の耳には届いていなかった。
「ワン!ワンワン!」
花子の鳴き声が、妄想真っ最中の俺を現実に引き戻す。
「花子は、最近不機嫌だなー。よしよし、帰ったら上手いもん食わせてやるからな!」
そう言いながら頭を撫でてやるが、まだ何か不満らしい。
(しかし、今日はいつにも増して不機嫌な気がするな……。)
気のせいかウサ耳猫ちゃんと仲良くなり始めてから、常に不機嫌な気がする。
花子というのは、うちで飼っているゴールデンレトリバーという犬種の犬で、ウサ耳猫ちゃんに送った写真に写っている、俺のペットだ。
――花子との出会いは、2年半前に、俺が隣町に出かけているときだった。
「犬が大きくなり過ぎたから、処分することにしたの」
と、今まさにペット処分場に連れて行かれそうになっている、ゴールデンレトリバーを見かけてしまい、衝動的に――
「だったら俺が引き取る!!」
と、その日のうちに連れて帰って来たのが花子だ。
今思えば、普段ならそんなことは出来ないんだが、そのときは長く飼っていた太郎が死んでしまい、相当に落ち込んでいたからそんな行動に出たのかなと思う。
しかし、引き取ってすぐは相当の人間不信だったようで、懐くまで一年間近くを要した。
苦労の甲斐あって、今では、すっかり懐き過ぎるほどに懐いている。
近頃なんかは、俺が寝ている間にいつの間にかベッド中に潜り込んでいることがあるくらいだ。
(それにしても……。)
ウサ耳猫ちゃんのことを思う。
ウサ耳猫ちゃんとは、もちろん本名では無くキャラ名だ。
本名を教えて貰えなかったため、今でも俺はキャラ名で呼んでいる。
向こうは、俺の名前がわかってからは祐樹さんと呼んでいる。
写メもくれないし、本名も教えてくれない……、声すら聞いたことがない。
わかってることと言えば……。
女子高生で17歳。
(俺の一個下だ!)
隣の県に住んでいる。
(思ったより近くてラッキー。)
頭は相当にいいみたい。
(勉強を教えて欲しいと言われて聞かれた問題のレベルが異次元だった。)
性格は真面目。
(だと思う!)
改めて思う。
(ほとんど何も知らねーじゃん! 俺なんて、写メと一緒に個人情報ダダ漏らししたのにさ!!)
きっとうウサ耳猫ちゃんは可愛くてスタイルいい子なんだろうなー、そうに違いない。
さらに胸も大きくて……。
「グフフ。」
先ほどの気持ち悪い表情に戻った俺に、花子は抗議の鳴き声をあげている
普通ならば、釣りやネカマという発想出てくるのだが、彼の童貞フィルタが、全ての負の可能性を排除し、ポジティブな発想のみが生み出されていた。
それが目の前に餌をぶら下げられた、18歳という性欲真っ盛りの童貞の悲しい性なのだ…。
「時間もあるし……。よし花子、公園で遊ぶか!」
「わん!」
嬉しそうに尻尾を振っている花子を一頻り撫で、公園の中へ勢いよく一歩を踏み出したのだが……。
地面がない。
段差がある、というレベルの話しではなく。そこには、本当にぽっかりと、底知れぬ穴が空いていた。
え…
「うわっー!!?」
為す術もなく、落ちていく。
とっさに手綱を離したのが幸いし、花子は無事だったようだ。
穴の入り口から心配そうに顔を覗かせる花子が、小さくなっていくのを見つめながら、せめて、花子だけでも巻き込まないでよかった……。と思ったが――。
あろうことか、花子は穴に飛び込んで来やがった!!
「花子の、バカヤロー!!」
「わんわん!」
悲痛な叫び声と、嬉しそうな鳴き声をあげながら、1人と1匹は、底知れぬ闇の中に溶けていくのだった。
感想を頂けたら嬉しくて死にそうです。