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偽夢語-ニセユメガタリ-  作者: Joi
第一部
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開幕序章Ⅴ

 朝のアクシデント以外は特に特別な事は無かった。強いていえば、五時限目の授業の途中にスズメバチが入ってきた事ぐらいだ。とはいえ、陽太は寝ていたのでその騒ぎには気付かなかったのだが。


 剛に、「マイペースすぎる」と苦笑されたのは言うまでも無い。


 そして、その出来事は部活動にも影響が出た。


 五時限目の授業は保健だったのだが、その担当教師が陸上部顧問なのだ。


そして、筋肉質で長身な身体を持つ彼は、生徒を一時的に教室から出そうとしていた途中、ハチに刺されてしまったのである。当時の彼は真っ黒いTシャツに真っ黒いジャージ、紺のズボンを穿いていた……。


 その後、顧問は早退。授業は中断となり、六時限目の担当教師が自習としてその場を引き継いだ。


 そして放課後。顧問不在の中練習をするのは、顧問自体が禁止しているので、今日の練習は急遽中止となった。なんとも皮肉な話である。


 そういうわけで、陽太は現在帰路につくべく荷物の準備をしている。先ほどHRが終わったばかりで、教室はまだ雑多な雰囲気が残っている。


 これから部活動に励む者や教室の掃除を任された者、友達とこの後の予定を話している者etc……。


 帰宅部みたいな感覚に、心が高揚している自分を新鮮に思う。最近は思い通りにいかなかった時期だったので、ここらでリフレッシュしようかと考える。


 ――久しぶりに本屋でレシピ本でも買おうかね。


 今どきの男子高校生からかけ離れた事を考えながら準備をしていたところ、剛に声を掛けられた。


 満面の笑みを浮かべている。肩に置かれた手から生暖かい感覚が伝わる。こういう時の剛はろくな事を考えていないことを、陽太はこの三ヶ月で学んだ。だから――


 「なぁ戸田~きょ……」


 「悪いさっき用が入ってしまってな何処かで遊ぶのは遠慮させてもらう」


 ――的確に、丁重にお断りした。

 すると剛はものすごく悲しい顔をして嘆き始める。


 「おおおおいいいいい俺まだ何も言ってないじゃんかぁぁあああぁぁぁああぁあああ!」


 「いや、なんとなく予想出来ちゃってな」


 「せめて最後まで聞いて!もしかしたら行きたくなるかもしれないぞ!お前得するって!!」」


 「……どこか行くのか?」


 剛の必死さがアップしていくのに反比例して、陽太から発せられる温度がダウンしていく。そんな対照的な二人を取り巻く空気は、周りの生徒の目を惹かせている。


 周囲から視線を感じて居心地を悪くした陽太は抵抗するのを諦め、剛の話を聞くことにする。


 「で、なんだ上井」


 「今日部活休みじゃん?だから陸上部のメンツでどっか行こうって話なんだけどさ、お前も来るだろ?」


 さも当然のように話す剛。そんな彼に対し、陽太は少し顔を俯かせ、こう言った。


 「それって、全員参加のやつ?」


 「いや、そういうわけじゃねぇけど……もしかしてお前、来ないん?」


 陽太は申し訳なさそうに剛に言葉を紡ぐ。


 「悪い、この後用事入っててな。強制じゃないなら俺はいいや」


 「え、マジで?お前来ないの?おいおい、一年俺一人じゃんかよ!」


 そう言うと同時に頭を上下にブンブン振り回して嘆き始める。だが、やがて諦めたように顔を陽太に見据え、一言言ってから教室を立ち去った。


 「ま、しゃーないわな。けど今度こういう機会あったら絶対連れてくからな!」


 *****


 学校を出て帰路についた陽太は、どこに寄らず家へ帰ることにした。今はそういう気分ではなかったからだ。


 そして、その原因は先ほどの剛との会話にある。


 ――はぁ、またやっちまった。ここで逃げなきゃ良いだけの話なのに……。


 陸上部の一年生は三人。陽太と剛と、高橋という男子生徒だ。しかし、高橋は四月下旬頃から不登校となってしまい部活はおろか、学校にも来ていない。


 そんなわけで今の一年生は陽太と剛だけとなっている。


 彼らはお互い全く違う性格をしていて、最初は陽太のほうが剛のテンションに着いて行けず、タジタジになっていたのだが、徐々に会話に慣れていき、今では気軽に話せる仲にまでなっている。


 しかし、それは一年生での間柄の話であって、陸上部全体の話ではない。


 話すのが得意な剛に対し、陽太は自分から気さくに話しかけるのは苦手としている。そのため、入部当初から打ち解けていた剛よりも先輩との間に距離が生まれたのだ。


 今では普通に話せるものの、プライベートでも付き合えるほどの距離ではない。


 それに対して剛は、先輩達の輪に入って休日などにプライベートでもよく遊んでいる。


 もし高橋という生徒が不登校にならず部活に来ていれば、『孤独』という錯覚を覚えずに済んだのかもしれないが、今の陽太はその錯覚を感じずにはいられなかった。


 そして、剛という元気溌剌な少年に対し劣等感を抱かずにもいられなかった。


そんな自分を弱い生き物だと感じながら陽太はトボトボと歩き続ける。


しばらく自分に対する嫌悪感が体を支配していたのだが、目の前に現れた新たな悩みの種の登場に、その感情は一時的に途絶されることになる。

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