開幕序章Ⅲ
「……はぁっ!……?」
そんな一言(?)と共に一気に世界が覚醒していく。視界に広がるのは、自身が見る世界。先ほどまでの額縁越しの世界ではない。
「マジで大丈夫か?俺……」
思わずひとりでに呟いてしまう。それほどまでに現実的だったのだ。
改めて周囲を見てみる。だが、そこは何の変わりもない、いつもの自分の部屋だった。
その時、彼は自分が汗をかいていることに気づいた。額にはうっすらと、上半身は風呂を入った後に残る少量の汗ほど。季節の所為でもあるが、それでもいつも以上である。
ひとまず洗濯機がある洗面所に向かい服を中に放り込む。そして、自身のタンスからシャツを取り、上にワイシャツを羽織る。
西和高校は、冬にブレザーで夏はワイシャツにネクタイなのだが、陽太はネクタイは首が窮屈なので学校についてから着ける。そのため、ズボンを穿けば着替えはすでに完了である。
そして朝食の準備をしようとリビングへ向かう途中、階段から降りてきた妹とバッタリ出会う。
「おう、沙希」
「おはよう兄ちゃん」
特徴的なポニーテールを揺らしながら、妹の沙希は陽太に言う。
「兄ちゃん、これから何するの?」
すると陽太は何言ってんだこいつ的な顔をしながら、当然のように答える。
「何するのって、飯作るんだよ。安心しろ、兄ちゃんの飯は不味くない。それとも何か作ってほしいもんでもあるのか?もうバンバン言ってくれよ、お前は女バスのエースなんだからな」
自身の趣味である料理について、嬉しそうに語る陽太。そんな兄を見て、中学三年生の妹はただただ言葉を紡ぐ。
「いや、兄ちゃんの飯に関して不満は無いし、むしろ私が教えてほしいぐらい。でもって朝から何が食べたいと言われても、夜飯じゃあるまいし。それと、私はともかく兄ちゃんも部活入ってんだろ」
ぶっきらぼうな喋り口調は両親のいないこの家庭において、兄だけを見てきたからなのか。ほとんど兄しかいないこの家族に寂しさを覚えた事に対する強がりなのか。陽太には分からない。
ただ、今の沙希の顔には呆れの色がものすごい分かりやすく浮かべられている。
「…?」
「時間を見て動くといいよ、兄ちゃん」
そう言われて陽太は腕時計を見る。
現在時刻七時四十分。いつもの起床時間六時。朝練習開始時刻七時二十分。
完全遅刻。
「……マジか」
もう叫ぶ気にもなれなかった。すぐに動く気にもなれなかった。ただ、立ち尽くしていた。頭に怒り狂う顧問と部長の姿が浮かぶ。
馬鹿笑いする剛やその他メンバーの姿が浮かぶ。
「目が死んでるよ」
数十秒ほど呼吸をも停止した陽太に、沙希は呆れ口調でそんな事を言う。
その言葉に、陽太は口を開ける。
「なぁ沙希、お前いつ起きた?」
沙希はパジャマではなく、制服に着替えている。それ以前に、エナメルバッグを背負っており、もう準備万端といった風だった。
彼女は、不敵な笑みを浮かべ、一言を陽太に告げる。
「五時半だ」
「俺を起こせえええええええええええええ!!!」
久しぶりに心の底からバカでかい声を出した陽太であった。




