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偽夢語-ニセユメガタリ-  作者: Joi
第一部
33/33

エピローグ

 少年と少女が抱擁している様子を見ていた人物がいた。


 アパートの向かいに立つ住宅の屋根に座り、月島華音は軽く溜息を吐いた。


 「全く、何でオリジナルはあんなに素直になれないのかしら」


 自分が捨てた本物について思いを馳せる。あそこまで意固地で悪意の塊である女はそうそういないだろう。

 だが、同時に彼女は本物が『それだけでは無い』事を知っていた。


 ――まさか、「殺す」なんて言った相手に恋しているだなんてね。


 分身として生み出された自分は、やはり月島華音だ。つまり、誰もが知らない華音の本心を全て知っているわけで――


 今の自分も戸田陽太に恋しているわけだ。


 ――勝手に作っておいて感情まで持って来ないでよ。私は確かに『私』だけど、所詮は空想の存在。愛する事なんて出来ないんだから。


 月島華音という女は、どこまでもズル賢くて頑固で執念深くて企む事を忘れない悪意の塊だ。


 人の想いすら蹂躙(じゅうりん)してまで計画安定を図る、人類史上最大のクソだ。


 つまり――


 「愛する事が出来なくても、破滅させる事なら分身の私でも得意なの」


 眼下には、涙を流し合う少年少女の姿がある。だが、そんなものはどうでも良かった。


 内心、本物が宿す淡い感情が爆発していたが、そんなものは今の分身に必要では無かった。


 「私は死なない。貴方を殺すまでは絶対に」


 かつて雨宮麗子が口にした言葉とは百八十度違う言葉を吐きながら、分身は笑みを浮かべ、ねっとりとした目線をいつまでも少年少女に送っていた。


*****


 少女は生み出し続ける。


 意味も目的も無いまま、『無駄』だけを生み出し続ける。


 自らが偽夢の中で監視出来ない事で、彼女はただ偽夢を生み出すだけの機械になってしまったのだ。


 少年に宣言した『殺意』を忠実に再現するべく作った分身は自分に背き、一人で旅立ってしまった。仲間はもういない。


 少女は一人、世界を成立させるための演算を繰り返し繰り返し――泣いていた。


 何故、自分はこんなにも歪んでいるのか。何故、こんなに正直では無いのか。


 少女は自らの運命を恨む。こんな事なら生まれてこなかった方がマシだ、と。


 だが止まらない。終わらない。終われない。


 少女は企む事だけを考えて生きてきた。事が上手く運べるように裏で細工し、成功を収めてきた。


 自身を蝕む能力を利用して、幾つもの問題を突き飛ばし、ゴールだけを掴んできた。持久走で言えば一周二周チョンボするような感覚。


 自身の力に過信し、彼女はさらにさらに能力に頼るようになった。幼い頃スタートダッシュを切れなかった分を上乗せするかのように。


 結果、彼女はやりすぎた。


 『無駄』としか言いようの無い世界を生み出し、関係の無い人間を巻き込んだ。実際の人間を乗せた脳の負荷は、(おもり)のように乗っかかり、少女を苦しめる。


 結局、自分は何がしたかったのか。今だって、事態は進行しつつあるというのに。


 しかし、これだけは分かる。


 自分は、戸田陽太という人間を仲間に入れたかっただけでは無かったという事を。


 そこに、少女らしい感情があったという事に。


 そして、それをストレートに伝える事が出来ず、陽太に拒絶され、ムキになってしまったのだ。


 もう、後には戻れない。過去に戻る事は出来ないのだ。


 自分の恋路に、悪の象徴である力を行使してしまった少女は、立ち止まる事も受け入れる事も許されないジレンマに駆られる。


 どちらにせよ、脳が焼けて即死する自分を浮かべながら。


 死ぬ事が宣告された少女は、たくさんの人を詰め込んだ偽夢を延々と語り続けるのだ。

ここで一区切りつきました。

続編を投稿することも決定していますので、これからもよろしくお願いします。

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