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偽夢語-ニセユメガタリ-  作者: Joi
第一部
26/33

最終決戦Ⅱ

 月が顔を出した十九時頃。夏の暑さは既にある程度緩和され、今は少し涼しい風が街の熱気を冷ますように吹き抜けている。


 昼間より幾らか喧騒は静まったが、それでもまだ人間の活動範囲だろう。


 真琴は閑静な住宅街に立つ一つのアパートの一室で、武器の手入れをしていた。


 真琴は古びた台所のキャビネットを開け、中から一つの縦長のキャリングケースを取り出す。


 そして、ケースを開けて、今回の『主役』を取り出す。



 ――私にはこのぐらいしか使えないな、やっぱり。



 そう心中で呟きながら、『主役』を舐め回すように眺める。


 レミントンM700という、ボルトアクション方式の狙撃銃である。


 アメリカの銃器メーカーが開発したこの銃は口径や銃身長の違いにより様々な用途を可能としており、警察や自衛隊、狩猟や競技用など、多くの場面で使われるため、所有者は多いとされる。


 ゲームや漫画での登場率は高く、知名度は比較的に高い。


 こうした表向きな銃である事も重なり、改造用のアクセサリーも多々存在し、真琴が使うこの銃もオリジナルに改造が施されている。


 モデル700と呼ばれるバリエーションのものを自分仕様に小改造したのだが――射撃があまり得意では無い上、警察の取り締まりの厳しい日本での使用は避けていたので、銃自体あまり使う事が無かった。



 ――とはいえ、あの殺人鬼の時は銃を取り出してしまったがな。



 まず、ボルトアクションという事で、手動装填となる。構造が簡単で精度も信頼出来る。知識の薄い真琴にはこれが丁度良かった。


 しかし、手動で装填するという事は、一発撃てば一度引き金から手を離さなければならないというわけで――つまりは目標の照準をいちいち合わせなければならない。


 簡単にいえば、一度外せばかなり致命的なのだ。


 そのため、彼女は自分の不得意面も合わせて銃に小改造を加えている。


 射撃が、特に長距離射撃は苦手分野であるため、スコープは最新型の暗視用を使用。また、通常は7.62x51mm銃弾を使用するのだが、さらに精度を高めたM118と呼ばれる競技用弾(マッチ・アモ)を使っている。銃身長も自分に合わせて変えられている。


 真琴は再び銃をケースにしまい、それを肩に背負って家を出る。


 青白い月光が殺し屋を優しく照らす。華音によれば一応人は家にいるらしいが、辺りからは生気が感じられず、本当に人が住んでいるとは考えられなかった。


 この世界には『働く』という言葉が無いらしく、人は皆家の中にこもっているらしい。



 ――一体、私は何でこんな事をやってるんだ?



 ふと、真琴は自分について考える。


 自分が殺し屋となったのは不可抗力の出来事だった。だが、その後抗えたかもしれない。死亡したと偽って、檻の中から出れたかもしれない。


 それでも、こうして職業を続けているのは自分だ。


 この職業が、人間として許されるものでは無い事を自覚していながら。


 これなら、この世界の人間のように働かない方がマシだと思える。



 ――それなのに。



 真琴は顔には出さずに、心中で嘆くように呟く。


 ――それなのに、何で私の心は人殺しを非難する事が無いんだ?


 自分はある意味人間を捨てているのかもしれない。そう考えながら、殺し屋はケースの重さを肩から感じるのだった。


 *****


 月明かり照らされるスーパー跡地。そこには、少年と殺人鬼が対峙する風景があった。


 彼らにとって昼だろうが夜だろうが、そこが公の場所だろうが関係ない。ここは、そういう世界なのだから。


 少年――戸田陽太が発した一言は、自殺志願者そのものだった。


 だからこそ、殺人鬼――拔場加須斗は、愉しかった。


 その顔を歓喜で埋め尽くした彼は口からもその感情をはっきりと表す。


 「くっ、ははっ!……なんて言ってやればいいんだろうね。とにかく、君面白いぜ」


 「……」


 「『舐めんなよ、殺人鬼』だなんて生まれて初めて言われたよ。冗談として受け取って良いのかな?」


 「勝手にしてくれ」


 「……ダメだ、君という人間が測り切れない。何でそんな面白いの君」


 加須斗にはこの少年が何を考えているのか、本当に分からなかった。


 いきなり目の前に立って、喧嘩を売られたのだ。この少年に。


 滑稽なんて言葉では効かない。ただただ面白かった。


 今まで喧嘩を売った事はあれど売られた事が無かったからだ。


 「君さぁ、もしかして見た目以上に強かったりする?だとしたら俺マジで嬉しいんだけど。てかそうじゃないと困るんだよ」


 続いて加須斗は陽太に問い続ける。


 「君はあれか、友達がボコされて怒ってただ俺の前に出てきただけってやつ?それとも、本当に何かあるの?」


 「正直俺には分からない。けど、俺にも分かる事がある」


 「……へぇ、何だい?」


 「いい加減、(てのひら)で転がされるのは飽きたって事だよ」


 陽太は既に覚めていた。


 眠りから覚めたとか、酔っているわけでは無い。かといって恰好を付けて言っているだけでも無い。まさしく覚めたのだ。


 それを証明するならば――


 「ふぅん……君、目を金色に出来るなんて、人間には出来ないよ?」


 陽太は目を金色に輝かせていた。


 具体的には、白い部分以外が金色に光っている。瞳孔や光彩の区別となる線はあるのだが、遠目に見れば完全な金色の目だった。


 陽太の変化はそれだけで、他の部位が金に変わった様子は見受けられない。


 だが、一つだけ変わった点があった。


 「君、なんか空気変わった?」


 加須斗の指摘は的を射ていた。


 気にすれば気が付くような事なのだが、陽太から発せられていた空気が先程と違っていた。


 先程までは、どこか鬱憤を溜めこんでいたような、自分に自信が無いような風だった。


 しかし、今の彼は明らかに違う。


 まるで――自分は死んでも構わない存在だから、誰かを守るために全てを発揮出来る、とでも言うような、すがすがしいような――


そして、それこそが今の戸田陽太だった。

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