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偽夢語-ニセユメガタリ-  作者: Joi
第一部
25/33

最終決戦

 スーパーが己の体を支えられなくなり、あちこちを軋ませながら勢いよく倒壊していく。まるで爆竹を仕掛けられていたかのような凄まじさだった。


 そんな非現実的な光景を前に、陽太は身動き取れずにその場に立ちすくしていた。


 土煙舞う眼前。思わず腕で顔を覆うのだが、わずかな隙間から誰かの人影のようなものを感じた。


 そして、それが本当だという事に気付かされたのは、数秒後だった。


 「やぁ、いろいろ逃げ回ってくれたね」


 この世の全てを受け入れるかのように朗らかな、男の声。スーパーが崩れ落ちる音が周囲を取り巻いているというのに、その男の声は透き通るように良く聞こえた。


 剛が何か叫んでいるが、それは聞こえない。近くにいるのは剛の方なのに。

 続いて男がまた口を開ける。


 「お、君は……もしかして俺と遊んでくれるの?」


 ――なんだ、何が起きてるんだよ!


 心中で疑問をぶちまけながら、陽太は自分が何をすればいいのか分からず、粉塵が止むのを待ちながら考える。


 だが、事態はそんな悠長に事を考える暇を与えてはくれなかった。


 「ぐっ、あっ、あぁああ!」


 そんな呻きに似た悲鳴がすぐ隣から聞こえてきたからだ。


 そして、その声の主の名を陽太は叫ぶ。


 「上井!どうした!」


 腕で顔を覆いながら目を開けて近くでうずくまっている剛の方にしゃがんで声を掛ける。


 そこで陽太は気付いた。


 剛の顔がこれでもかという程に腫れているという事に。


 右目は頬が腫れた所為で見えていないだろう。他にも額や口から赤い液体をダラダラと流している。


 全体的に見ても酷かった。制服のあちこちに蹴られたと思しき跡が残る他に、服越しではよくわからないが、もしかしたら左腕の関節が折れている可能性が高い。

 彼は腕を押さえ、動きたくないとばかりにうずくまっている。


 とりあえず彼を端に隠れさせようと、痛む彼に話しかける。


 「とにかく上井、あっちに行こう。陰に隠れるぞ。……つか、雨宮がいない」


 そこで麗子の姿が無い事に気付いた陽太だが、剛が口を開いた事で意識はそちらに持っていかれた。


 「あ……ちょ、待ってくれ……少しでも動くと、響くんだわ……」


 我慢強いのか、でこぼこになった顔で笑みを浮かべてみせた剛は、そんな事を言いながら少しずつ自分の意思で動き始める。

 どうやら折れているのは本当らしく、触るともろに激痛が全身に響くという。


 のそりのそりと体を引きづりながら移動し始めた剛を庇うように一緒に動き始める陽太。


 だが、状況は常に変わり続ける。


 今だって、雨宮麗子の体が真横をすり抜けて行ったというのが、何よりの証拠だった。


 「え?」


 陽太の口から素の声が吐き出される。


 後ろを見ると、そこには剛のようにボロボロになった麗子が近くにあった車に背中を預けていた。


 剛も驚愕の顔で彼女の姿を見、陽太の方に顔を向ける。


 「戸田!お前は逃げろ!お前の足の速さならどこかに隠れられるだろ!」


 「ちょっと待て。それは無理だ。それに二人を見捨てる気は無いぞ俺は」


 冷静を装いながらも、陽太の心はこれまで以上にばくんばくんしていた。


 ――こいつら、いつの間に……。


 スーパーが倒壊した時までは一緒にいたのに、何故数分経った現在、二人は怪我を負って倒れているのか。


 ――陽太は知らないが、上井剛という少年はチャラくてポジティブなように見えて、中学の頃は喧嘩上等の不良生徒だった。


 学校の上級生、他校の不良生徒と幾度となく喧嘩を繰り返し、その度に動きを身に染みらせいき、地元では名の知れた猛者だった。


 身長は高校一年生の平均とところで、長身というわけでは無い。また筋肉質で、喧嘩慣れしたが故にタフなため、なかなか彼を地に付かせるというのは難しいものだった。


 そんな彼が現在体のあちこちを怪我して倒されている。


 剛をただのチャラい高校生としか見ていない陽太には、何故今彼がノックダウンしているのかが分からなかった。


 そして何より、麗子が体を傷だらけにしている事が不可解だった。


 ――雨宮は何で……。


 陰に移動しつつある剛に踵を返し、麗子の方へ向かおうとした時――

 陽太の少し後ろ辺りから声が掛けられた。



 「やぁ少年。君は戦えるのかい?」


*****


 雨宮麗子が戸田陽太と初めて出会ったのは小学四年生の頃だった。


 当時から成績優秀でスポーツ万能、おまけに女子の中でもトップクラスで可愛かった彼女は、女子の中で孤立しており、いじめを受けていた。


 何でも出来ておしとやかで男子から人気のある彼女を妬んでのことだった。まだ小学校中学年だからこそ、その感情に則った行動をする事に躊躇いは無かった(一部の学生を除く)。


 しかし。


 「あいつ、スク水穴開いてるのに着てるよ」「マジキモい」「恥ずかしいとか感じないんだね」


 次には。


 「靴無いのに普通にしてるし」「つまらないんだけど」「トイレそのまま入るとか汚くない?」


 と、当時の麗子は虐められても特に気にする事無く、普段の日常生活を淡々と過ごしていた。


 そんな麗子の態度が虐めているグループの気に障ったのか、ある日こんな事が起こった。

 グループが麗子を学校の裏に呼び出して、無理矢理に服を脱がせたのである。


 「こんな高そうなの着て生意気なんだよ」「ちょっと可愛いからって」「この洋服男子にあげたら喜ぶんじゃない?」


 小学四年生にしては些か悪質だと言えるが――今の彼女達にはそれが一番良い方法に思えたのかもしれない。


 対して、上半身裸でパンツだけの状態にされた麗子は――


 泣くわけでもうずくまるわけでも服を取り返そうとグループに飛び込むわけでもなく――


 すたすたと歩き出したのである。


 「「「え?」」」


 そこでグループ一同が声を上げる。皆「何故?」という顔で麗子の姿を追い続ける。


 だがその時、麗子が近くの茂みの中に入り込んだ。


 グループ達は「恥ずかしくてやっぱり行けなかったんだ」と判断し、服を近くに放って笑いながら帰って行った。


 グループの面々は気付かなかった。


 麗子は自身から茂みに飛び込んだのでは無く――


 第三者に手を掴まれ入ったのだという事に。


 そしてこれを偶然目撃した他の生徒をきっかけに――


 戸田陽太が、ほぼ全裸の雨宮麗子を茂みに引っ張ったという噂が全校に広まった。


*****


 麗子はそこで途絶していた意識を覚醒させ、痛みで悲鳴を上げる身体を起こす。


 ――今のは……懐かしいわね。そして恥ずかしい。


 自分が今見ていた過去を思い出しながらも、そんな場合では無いので必死に目を動かして現状を確かめる。


 スーパーが倒壊してその中に人影を確認した瞬間、彼女は勢いよく地を蹴り人影に突進した。


 その時、剛も動き出していた事に驚きを感じた事も覚えている。


 自分よりも早く人影に到着し、相手と交戦した剛。

 麗子は剛が人影に肉弾戦による戦闘を仕掛けた事を認識し、『喧嘩慣れしてるな』と咄嗟に感じた。


 だがしかし――


 「遅いねー、実に遅い。俺の事バカにしてんの?」


 という嘲り全開の一言と共に剛が後方に吹っ飛んだ。


 そして、その声の主に心当りのあった麗子は全身に何か冷たいものを感じながらも、人影に攻撃を仕掛けようと走り出す。


 「お、君は……もしかして俺と遊んでくれるの?」


 向こう側が自分の事を知っているのは言うまでもない。


 何故なら、人影の正体は指名手配中の連続殺人犯なのだから。


 彼――拔場加須斗は三色に分けられた髪を弄りながら、麗子が繰り出す攻撃を(かわ)していく。


 一切の焦りを見せない彼に、麗子の方が焦りを感じた。


 ――何で当たらないの!?


 麗子の繰り出す攻撃には一切の容赦が無い。徒手空拳だというのに、身体の柔らかさを駆使した連続技は、プロの格闘家でも驚くものだろう。


 右アッパーを繰り出したかと思えば体を左回転させ、その流れで左足による後ろ回し蹴りを叩き込む。


 一度呼吸を整え、再び走り出す。スーパーの残骸を飛び台に跳躍し、加須斗の首辺りにドロップキック。無駄の無い迅速な動きに驚きを見せる彼だが、紙一重で躱す。


 顔に苦渋の色を浮かばせる麗子に対し、加須斗は意外そうな顔をしながら足を動かしている。


 「へぇ、君さっきの少年より戦えるね。最近の女の子も侮れないね」


 そんな事を言いながら、麗子の攻撃のスピードが落ちていくのを待つ。


 やがて、隙が生まれる事が多くなり、それに合わせ麗子のスカートに手を伸ばし、勢いよく捲る。


 俗にいうスカートめくりという幼稚な技である。


 「ちょッ!」


 いきなりな上に予想外な攻撃。いや、攻撃なのかも分からないが。


 その技は、相手を倒すことだけを考えていた麗子には完全に防ぐ事が出来ず、勢いに合わせてぶわっと捲れてしまう。


 「いや、俺は女に興味無いんだけどさ。君がやってほしそうな顔してたから」


 「してない!」


 そんなやり取りの中も、スカートを気にせず麗子は加須斗に依然として攻撃を繰り出していた。


 だが、それは一瞬の間を持って終了する事になる。


 何故なら、彼女の身体は横に吹っ飛んだからである。


 比喩表現では無く、彼女は本当に横に水平移動していた。飛んでいる最中に、自分が相手に腹を殴られたのだと認識する。


 やがて車のボンネット辺りに衝突し、全身に激痛が迸った。自分の身体が分裂してしまうような感覚だった。


 そのまま、麗子は緊張を解かれたかのように意識を断絶させられてしまったわけだが――



 「……そんな」


 意識を取り戻した麗子は、今の光景を現実として受け入れられなかった。


 ――私は、やってしまった。


 自分に対し叱咤する気にもなれなかった。ここで、彼が死んだら自分には生きる価値など無くなるのだから。



 戸田陽太が拔場加須斗と対峙している。


 その単純な光景は、麗子が一番望んでいなかったものだった。


 そして、少年は一言告げる。


 怒りと憎しみを込めた眼差しを向けながら、


 「舐めんなよ、殺人鬼」


 という、ただ一言を。

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