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偽夢語-ニセユメガタリ-  作者: Joi
第一部
22/33

一触即発Ⅱ

 屋根や電柱、オフィスビルの屋上、時々ボンネット。それを繰り返しながら多摩市の方向へと向かいながら、あの少年少女を捜す。見つけ次第殺す。


 真琴はその行動を繰り返しながら、時折赤いスカーフを捜す。


 左目を持っていかれた恨みが絶えないので、ひとまず始末する事は決定事項となっている。簡単に制圧できる相手では無いのは前回の戦闘で身を持って経験しているのだが。


 彼女は何故町田の中心地から離れたのか。それは、一つの勘だった。


 町田を根城に活動している彼女は、勿論西和高校の制服という知識は頭に収められている。


 戸田陽太は西和高校の学生だという情報は依頼主から入手したし、朝方の戦闘で真横からキックをお見舞いしてきた女も西和高校の制服だった。


 そこで、ひとまず西和高校に向かってみる事にした。無事逃げ切れて安寧に浸っていれば、まだ残っていると考えたのだ。


 学校の近くにあるコンビニ付近まで辿り着いた時、コンビニの自動ドアがキックか何かで破壊されている事に気付き、さらに学校に残っている可能性を考えたのだが、時すでに遅し、学校はもぬけの殻だった。


 ならば、彼らはどちらの方向に逃げたのか。そこで考えるのが億劫になった彼女は、なんとなくで多摩市の方へ向かうことにしたのだ。


 上から見つける方が簡単だろうと思い、あの移動方法を利用したのだが、全く見つからない。こんなに人間の数が少ないのに見つからないとなると、どこかの建物に隠れたという可能性も示唆しなくてはならない。


 しかし、いったん街の端まで行ってみようと考え、真琴は多摩市の方角に向かって移動を続ける。


 その途中、標的の少年少女にその姿を目撃されているなど露知らず。


*****


 そんな中、陽太達は近くのスーパー裏に隠れていた。


 結局、街を抜けるのは困難と見た彼らは、後退するわけにもいかず、やり過ごす事にしたのだ。


 学校にいた時には、どこか別の場所に留まる事を考えていたのだが、結局校門を抜ける時には町から脱出する事にしていた。そのため、改めてこの案が使われる事になるとは予想していなかった。


 誰も不満を言う事無く、元々の予定を実行に移した三人は、スーパー裏にあった男子トイレの中に隠れる。


 手入れされたばかりなのか、それともパラレルワールドだからか、トイレは少しの汚れこそあれど綺麗にされていた。


 最初、男子トイレに入る事を拒んでいた麗子だが、陽太達が用を足すわけでも無いし、トイレが予想以上に綺麗だったので、渋々といった感じで中に入った。


 そこで、三人は安堵に似た溜息を一斉に吐き出す。


 歩いていた時は周囲を軽快していてほとんど喋らなかったし、後ろにいるであろうもう一人の敵に追いつかれるかもしれないというプレッシャーが、余計に三人の神経を逆撫でていた。


 安堵した束の間、剛が「トイレだけに、溜息漏らしたな」と自慢げに言って、陽太と麗子の失笑を買った。


 気付けばトイレの中に、ほんの少し平穏が生まれていた。


 学校を出る時腹が減っていたという剛は、カロリーメイトを一つ取り出して、トイレである事を気にせずむしゃむしゃと食べる。陽太は一応現時刻を確認しておく。


 午後四時三十分頃。七月という事もあって陽はまだ完全に落ちておらず、ゆっくりと西へ向かってゆっくりと弧を描いて落ちていく。太陽がもたらす恩恵の光もそれに伴って少しずつ遠ざかる。


 時間を確認し、いつまでここに留まるかを二人と相談しようと口を開けた時、麗子が突然声を出した。


 「あっ、あの……」


 いつもの覇気のある声ではなく、どことなくしおらしい声。頬を赤らめ、太腿(ふともも)を擦り合わせている。目は周囲を右往左往しつつ、陽太と剛それぞれにも目を合わせる。


 只事じゃないと判断した陽太が、麗子に真剣な面持ちで尋ねる。


 「どうしたんだ雨宮。もしかして、具合悪いのか?」


 先程感じていた恥じらいは、ここに来るまでにどこかへ飛んで行ったらしく、普通に彼女に話しかける事が出来た。


 しかしそれには気付かず、ただ彼女の身が心配だった。


 だが、その時剛が陽太の肩に手を置いた。そして、ドアの方へ歩き出す。


 何が何だか分からない陽太は反論より前に麗子の方を見た。


 その彼女は身体を小刻みに揺らしながら今度こそ顔を真っ赤にしていた。


 バタンとドアが閉じられ、陽太は剛と共に外に出た。

 そこで、陽太は剛に真意を問う事にした。


 「上井、何で俺を外に出した?雨宮なんか困ってたぞ」


 「その困る原因が俺らだからだ」


 きっぱりと言い放った剛に、陽太は本当に何が何だか分からなくなる。


 一方の剛は、そんな陽太に対し呆れ顔を見せながら言葉を紡ぐ。


 「お前、鈍感にも程があるぜ……さすがの俺も呆れるわ」


 「お前に呆れられるって、よっぽどだな」


 その時、トイレの方から水を流す音が聞こえてきた。


 そして、それを聞いてようやく陽太は理解する。それと同時に、申し訳なさでいっぱいになり、額に米粒程の水滴を浮かび上がらせる。


 そんな彼を見て、剛は苦笑いしながらこう言う。


 「レディーの扱い方ぐらいちゃんと知っといた方がいいぜ、本当に」



 ドアを開けると、頬を赤く染めた麗子が目を合わせぬままお礼と謝罪を言ってくる。


 「……その、ありがとう。それとごめんなさい」


 「いや、気にすんなって。こいつも鈍感だからさ、許してやって」


 「わ、悪かった雨宮。早く気付かなくて」


 剛のフォローの元、陽太もそれに続く。自分の鈍感さに怒りを通り越して呆れてきた。


 そうして再び落ち着きを取り戻すこと数分後、陽太は先程言い逃した件について二人に話す。


 すると、第一に麗子が意見を口にした。


 「私はここにいた方がいいと思うわ。この後はもう夜よ。動くとなればライトが必要でしょうし、その拍子に見つかる危険性があるわ」


 次に声を上げたのは剛だった。


 「俺としてはここから出た方が良いと思うんだよ。どっちにしたってこの街から出た方が安全っちゃ安全じゃね?まだ道が塞がられた訳じゃないんだしさ」


 ここで二人の意見が食い違った。団体行動でこのような事になるのはよくある話だが、今ここで食い違いが生じるのはあまり良くない。


 さらに、ここから単独行動を取ってしまえば危険度はもっと上昇する。


 ――どうするか……早めに決めないと。


 二人の意見の補足をしようと、陽太が口を開けるのと同時に――


 国道側から何かが破壊されたような爆音が聞こえてきた。


 「おい、なんだよ今の!」


 ボリュームは低いものの、その疑問をはっきりとした言葉で放ったのは剛だ。


 だが、疑問を浮かべているのは陽太も麗子も同じだ。


 誰かがスーパーの前にいる。それしか考えられなかった。


 また、今自分達の事を知っている人間となれば、その数は大きく限られてくる。


 黒スーツの女か。それとも左目を潰して楽しんでいた男か。


 どちらにせよ、日常から乖離した存在である事には変わらなかった。


 そして、新たな展開を告げるかのように、夜はやってくる。

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