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偽夢語-ニセユメガタリ-  作者: Joi
第一部
21/33

一触即発

 諸行無常という言葉がある。


 この世に在る全てのものは、止まる事無く動き続ける。この世界の事象が変転しないという事はないのだ。


 それは人間一人の動き勿論入るだろう。人間がいるからこそ、世界は常に動くのだから。


 現実逃避が作った夢を見た一人の少年と執念深い一人の少女が生み出したといってもおかしくないこのパラレルワールドでも、その四字熟語は通用する。


 だからこそ、拔場加須斗は学校という目的地へ向かうために世界の変転を生み出し続ける。


 太陽が一番高くなる頃。気温は最高潮に達し、人の体感温度もそれに伴い上昇する。


 しかし、それを伝えるニュースやラジオといった情報提供期間が動く様子は無い。しかし、加須斗はこの違和感に慣れていた。


 そもそも、貧弱な人間に耳を貸す気は無い。そういった自分のポリシーが黒のジャケットと赤いスカーフという、暑苦しい服装をまとわせているのだろう。


 だが、加須斗の三色に分けられた髪が汗で額に付く事は無い。むしろその暑さを気持ち良さそうに受け取っている。


 「寒いのが大っ嫌いな俺としてはこのぐらいがちょうど良いんだよね。おかげで汗一つ掻かない」


 どうやら彼は、人間が感じるであろう暑さを気持ちいいと言える程に皮膚が強靭化してしまったらしい。


 それを強靭化という一言で終わらせてしまっていいのか分からないが。


 人間という枠組みを抜け出すために行動する彼は、いろいろどこかネジが吹っ飛んでいるようだ。


 「本当の化物っているのかな。俺がそいつに勝てば俺も化物の仲間入りってわけだよねぇ」


 そんな独り言を呟くほどに夏の暑さを(もてあそ)びながら、加須斗は徐々に近づきつつある目的地での予定を立てていく。


 それは目的地に標的がいる事を決定付けた予定であり、いなかった場合を考えていないのだが、彼にとってはどうでも良かった。


 なぜなら、いないのであれば学校ごと破壊すればいいだけの話だからだ。


 ――あの黒スーツの殺し屋が西和の学生を狙ってるとすれば、俺みたいに学校に向かう筈。

 学校が倒壊してるとなれば、間違いなくこっちに来るだろうから、結局は俺の狙い通りなんだよね。


 もしもの場合であれ、加須斗の為す行動は変わらない。


 「簡単な話、殺しあいを邪魔した西和の子か黒スーツの殺し屋をぶっ殺せれば、俺の中の化物ゲージは少し満たされるわけだ。まさに一挙両得だね」


*****


 殺人鬼が今後について考えている頃、陽太達はそれぞれバッグを持って西和高校を抜け出すべく校門に向けて歩いていた。


 道場で一人昼寝をしていた剛を呼び、麗子を含め周囲に警戒しながら歩き続ける。


 だが、そんな緊迫した中でも陽太は先程の麗子の言葉と笑顔が忘れられずにいた。


 あんなに女の子らしい素直な笑顔を浮かべている彼女を見たのはあれが初めてだった。無表情冷酷キャラではないのは確実だが、それでもここまで実直に感情を出す事は学校ではまず無い。


 ――この世界の事情を聞いておかしくなった……いや、それはだいぶ失礼すぎる。


 自分でも何故だか分からない。あの時浮かんだ疑問も聞いていない。


 それに、答えを返す前にいつものキリッとした表情に戻ってしまったので、聞く余裕が無くなってしまったというのもある。


 心中で先程の言葉を反芻するも、その意味が分からない。


 ――俺の何を知ってるんだ?学校で話す事なんてほとんど無かったぞ?


 彼女は何もかもを完全にこなす秀才の中の秀才といった感じで、クラスメイトはたじたじといった風であまり人と話すところを見た事が無い。


また、外見もほかの女子と比べものにならないほど美人で、そのオーラがちょっかいを出す事も引くほどなのだ。


 そのためか、一部の女子から妬みの目を向けられている以外、彼女に直接被害が加えられる事は無かった。


 ――喋ったって言っても、二言三言ぐらいだしな……小学校中学校一緒だったけど、クラス違かったし。


 チラッと麗子のほうを見てみると、彼女は周囲への警戒を解かぬまま、正面を見据えながら歩いている。


 歩く姿にも凛とした雰囲気が醸し出されていて、制服にも一切の乱れが無い。まさに優等生そのものだった。


 ――でも俺、小学校の頃、雨宮と話した事あるような気がするんだよな。どこから湧き出た記憶だ、これ。


 そんな事を考えながら校門に向けて歩を進めていると、突然剛が声を上げた。


 「なぁ、お前ら腹減らねえ?俺緊張しすぎて腹鳴っちゃ……って、おい!戸田どうしてそんな顔真っ赤にしてんだよ!熱あるのか!?」


 「へっ?」


 思わず素っ頓狂な声を上げる陽太。気付いたら、何故か全身が火照っていた。本気で心配しているのか、剛が陽太のおでこに手を当てる。


 「熱は無さそうだけど大丈夫か?ほっぺ赤いぞ」


 「あ、ああ。大丈夫」


 ――雨宮の事考えてましたなんて口が裂けても言えないだろ……。


 変な汗を垂らしながら、陽太は再び歩き出す。今麗子の方を見れば間違いなくぶっ倒れる。今の自分が何を考えているのかが理解出来なかった。


 ――勘弁してくれ、ホント。


 そうして、校門をくぐり三人は町田駅とは反対方向――多摩市の方へと足を向ける。町田方面に陽太の家がある事と、先程の二人に出会う危険性を考えた結果、少しでも距離を空けようという事になったのである。


 途中何度も国道や街道に差し掛かるが、気にする事無く跨いで行く。本来車が行き交うために造られた大きな幹線道路は、今や誰も使用する事無く、偽りの世界に置かれたオブジェクトと化していた。


 一本の国道をひたすら上に歩いて行く三人は、いつもの見慣れた街に見え隠れする違和感を感じながら、閑散とした風景を目に映す。


 だがその時、その風景の中に一つの『異常』が飛び込んでくる。


 陽太達から見て右斜め上。ここからは少し遠めの住宅街の家の上を、『何か』が猪突猛進とばかりに走っている。


 その動きに若干のブレも生じさせない『何か』は、こちらに気付く事は無く、多摩市の方へと向かって行く。


「なんだ、あれ……」


 屋根やら電柱やらを使って空中移動していく異質な『それ』を見て、剛が呻くように呟く。


 だが、陽太と麗子には『それ』が何なのか、だいたい予測出来ていた。


 何故なら、似たようなものを朝方目撃し、迎撃したたからだ。


 ――まさか、挟み撃ちされた?


 恐らく後ろには頭のネジが吹っ飛んだ男がいる。今多摩市に向かって走るのは、黒スーツの女だろう。


 だとすれば、自分達は完全に包囲されたも同然なのだ。


 ――やっぱ狙いは俺かよ……!


 自分の所為で巻き込まれつつある二人のクラスメイトを申し訳なく思うと同時に、自分の運の無さを恨む陽太だった。

物語途中完結間近という事で連続投稿をします。

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