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偽夢語-ニセユメガタリ-  作者: Joi
第一部
20/33

戦闘準備Ⅳ

 昼食を取り、この先の話について話し合った陽太達は、少し休息を取ってから西和高校を離れることにした。食後はやはり動きにくいものだ。


 剛は現在、近くにある武道場で昼寝をすると言って部室を離れている。最初に出会い、この世界について知った時からいつものテンションの高さが見られなかった原因の一つに、寝不足も少しだけあったのかもしれない。


 そんなわけで、陽太は部室で女子と二人きりになっている。それも、とびきり美人である。


 ――こういう時って話題を持ってくるのは男子なのか……?


 先程から二人は何も話していない。麗子は部室に置いてあった漫画を黙々と読み続けていて、陽太の些細な悩みに気付く様子すら無い。


 ――ま、別にいいか。話す事なんて特に無いし。


  麗子を『そういう目』で見ているわけでは無い陽太としては、ここで無理に会話を広げる気は無かった。それに、漫画に夢中になっているところを邪魔するわけにもいかないだろう。


 陽太は携帯に入れた無料アプリで時間を潰そうと考え、ポケットから携帯を取り出そうとすると、


 「戸田君は嘘を吐くのが下手なのね」


 と、いきなり麗子が話しかけてきた。


 あまりの唐突さに、陽太はこれが会話の始まりなのか分からなかった。


 しかし、自分の名字を会話に入れている事から、言葉が自分に向けられているのだと確信し、まず疑問の言葉で返す。


 「なんだ、いきなり」


 「そのままの意味よ。私に嘘吐こうだなんて何億年早いわよ」


 チラッと漫画からこちらに視線をぶつけてくる。


 こちらの意図を汲めという事なのだろうが、陽太には何が何だか分からなかった。まじまじと麗子の顔を見てしまう。


 そこで麗子は漫画から完全に目を離し、軽く嘆息する。ここまで言っているのにまだ分からないのか、と顔が言っている。


 ――なんだ、俺何かしたか……。……あ。


 ようやく彼女が示す意図に気付いた。


 自分から仕掛けておいて忘れるとは、自分でも呆れる。命が掛かっているというのに、何故こんなに鈍感なのか、自分自身の危機感を疑う。


 ――きっと、まだ死ぬ事に実感を持てていないんだろうな。あいかわらず俺はバカだ。こんなんだから陸上だって……。


 今までの自分を思い出し、自己嫌悪に陥りそうになるも、麗子との会話途中であるので意識を強制的に戻す。


 「その、この世界の事、だよな?」


 そう言って恐る恐る麗子のほうに顔を向けてみると――


 ――彼女はきょとんとしていた。


 「え?何言ってるの?」とでも言いたげな顔をしてこちらを見ている。陽太は頭を抱えたい気持ちでいっぱいになった。


 ――ええええ!違うのかよ!墓穴掘っちゃったじゃねぇか!


 夏の暑さとは反対に、謎の寒気が全身に行き渡る。自分から事実に近づいてしまったという現状が恐ろしくて堪らない。


 気持ち悪い汗が顔、首と流れ落ち背中に伝い、シャツを湿らせていく。


 しかし、今の陽太にはそんな感覚など範疇に無く、麗子の反応にしか気を回す事が出来なかった。


 そして、麗子の口から出た言葉は、


 「冗談よ。ちょっとからかってみたくて」


 「頼むそれ洒落にならんから」


 反射的に本音が漏れる。だが陽太としてはどうでも良かった。墓穴を掘るのだけは避けたかったので、相手が最初からその気で話しかけてくれるとなれば、もう大丈夫だった。


「ごめんなさい。でも、さっきから戸田君の視線を感じて、きっとその事かなと思って」


「俺、そんな見てたかな?」


「ええ。それはもう、女の身体だけを狙っているようなこの世のクズにも似てたわ」


「冗談きついな!」


 そこで、クスッと麗子の顔に柔らかな笑みが生まれた。


 元々整った顔立ちをしているので、笑うと印象が大きく変わる。


 普段は理知的で完璧なお堅いイメージがあっただけに、こうして微笑を浮かべる麗子は新鮮だった。やはり彼女も女子高生なんだな、と思わせるその素直な笑みに思わず見惚れてしまう。


 それに気付かれないように、陽太は顔を逸らしながら真実を話し始める。


 笑うのを止めて彼の話を静かに聞く麗子は、時々相槌を打ったり納得したように頷く以外は何もしなかった。話す側の陽太からしても、話しやすいなと思えるほどだった。


 やがて全てを話し終え、陽太は麗子の言葉を待つ。麗子は足を組み直しながら、やがて一言放つ。


 それはあまりにも単純で、陽太にはあまりにも理解し難いものだった。


 「それで終わり?」


 「え?」


 「話はそれで終わりかって聞いてるの」


 「あ、あぁ。終わりだ」


 すると、麗子は先程とは違う溜息を吐きながら、再び口を開ける。


「正直、大した事じゃないわ。

 確かに貴方の命はこの世界の有無に掛かってるし、月島さんがこの事を第三者に言えば、君はさらに狙われる。

 現に、あの黒スーツの女は明確に貴方を殺そうとしていたわ。この先、貴方を狙う人間は増えるだろうし、この『ゲーム』に飽きた月島さんが、その能力とやらで貴方を巻添えにするかもしれない」


 彼女は淡々とこの先の不幸について語る。ただ、脅そうとしているわけではないのは切実に伝わる。彼女にはまだ話の続きがあるのだ。


「でも、たったそれだけじゃない。貴方が狙われて殺されしまうかもしれない。それだけの事じゃない」


 彼女は何が言いたいのか。陽太には分からない。


 最終的に自分を見殺しにするという事か。


 それでも構わないとさえ、陽太は思う。元々彼は自分が死ぬ事で全部終わらせる覚悟はあったので、彼女の言葉に悲壮感を感じる事は無かった。


 ――それに、これは俺と月島の問題でもある。それに雨宮達を関わらせたく無いしな。


 「貴方は見た目通りネガティブな神経の持ち主だろうから、私の意図をいまだに汲めていないだろうけれど、言っておくわ」


 見事に自分の性格の末端を当てられている事に素直に驚く陽太。

 そんな彼を置いて、麗子はこの話のメインなる部分をはっきりと陽太に伝える。かつて電話越しから真実を伝えた華音のように、滑舌良く。


 「貴方は死なない。だって、私がいるから。私が貴方の味方だから。私が死ぬまで貴方は死なないの。私は貴方の事をちゃんと知っているから」


 それは、陽太の中に幾つかの疑問を生まれさせる。

 何故彼女はそんな事を言うのか。

 何故彼女は自分に協力してくれるのか。

 何故彼女は自分を守ってくれるのか。

 何故彼女は――何故彼女は――何故彼女は――


 陽太はそこで、麗子の顔を見る。


 その時、彼は驚いた。


 何故なら、眼前の少女が先程の楽しそうな笑顔とは違う、どこか恍惚とした優しい笑顔を向けていたから。


 後に、戸田陽太は知る事になる。


 雨宮麗子という少女の真実を。


 彼女が自分にとってどういう存在なのかという事を。


 そして、自分がどんな存在なのかという事を。

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